第57話 幹部襲撃
障壁を超えて、光弾が〈発電所〉の守衛兵の一団に襲い掛かる。
反逆軍の用意した銃から放たれる弾は追尾機能を持っていて、放物線を描きながらも敵の陣地に攻撃を成功させた。
悲鳴。痛みを訴える叫びは発電所を守る兵士からのもの。
「上に障壁を展開しろ!」
「それと前もだ!」
「障壁が想定の数倍で削られている! 張り直しが必要だ!」
人間側に先制攻撃を入れられた形になり、優秀な〈人〉の集まりであるはずの守衛兵は混乱している。
「次来るぞ!」
守衛兵側からは〈包雲庭〉の効果で反逆軍側が見えない。故に相手の攻撃も突如目の前から現れる。
次に来たのも光弾。しかし銃から放たれたものではない。
一弾一弾の形、弾速が微妙に違うこれは、射撃武器の中でも、直接光弾を空中に生成して放つ、ローコストの射撃方法だ。
その場合、世の中にある既製品は弾を真っすぐ放つことしかできない。発射位置や角度を調節することはできても、射線さえ読めれば躱すのも簡単だ。この攻撃のメリットとしてはローリスクであることと、同時に多数の弾を放てることだ。
しかし、その予備知識があるからこそ引っかかる。その弾は追尾弾のように曲がったのだ。
そしてただ曲がるだけではない。障壁に入ったひびを的確に狙い、とどめの一撃を穴をあけたあと、さらに開けた穴から弾を侵入させ、敵に弾を当てていく。
光弾はこの器用な行為を行うべく、意志を持っているかのように好き勝手に曲がるのだ。シールドを生成しても一方向では無意味。そのシールドを器用に避けて後ろの敵を貫く。
「なんなんだあの弾は……!」
そして前方に張っている障壁からも、その光弾がやってくる。上方からと正面の2方向から、敵の防御の隙間を通り後ろに隠れる無防備な敵を容赦なく蜂の巣にしていく。
悪夢はそれだけにとどまらない。
「左側の障壁の耐久度が急激に下がっています!」
幹部の1人である、弦は笑みを浮かべる。
「踊らされてるなぁ……。大橋の制圧についてだいぶ詰めてきたと見える」
そして幹部のもう1人、そして幹部筆頭の伝が首を傾げ。大橋の戦いの流れが現在反逆軍にあることを自覚し、それを打開するための案を考え始める。
「幹部である我らの動きと命令次第だろう。1団目は捨て駒にするしかあるまい。その間に策を練るぞ」
反逆者側。
吉里が再び指示を出す。
「相手が守りに入ったことを確認。予定通りフェーズ2です。右、中央、左の順に追尾弾を集中させてください。集中攻撃で敵の守りを突破して確実に痛手を与えていきます。まずは右から、15秒経過で真ん中、また15秒経過で次に左、その後は同じ間隔で往復していきます。まずは右から!」
その指示に従い、レオンたち有志が発射している追尾弾が集中する。内也の黒い輪を通った光弾は、その威力が強化され相手の防壁に対して確実にダメージを与え続けている。
正面から来る敵や攻撃は、〈ランパート〉の防御に加え、東堂、壮志郎、内也が対応し続けている。それを井天と早坂がサポートしているので、後衛の射撃兵は今のところ相手の攻撃を気にすることなく訓練通り銃を扱い射撃を行うだけでいい。
集中砲火を受けた右側の敵の障壁にいくつかの穴と、数多くのひびが入った。
「見えた」
吉里がここで攻撃を開始する。吉里が使うのは直接光弾を生み出し、それを撃ち放つ射撃攻撃。ただし、使う弾は通常の弾ではない。吉里が生み出し、そして同時放った100の弾は相手の障壁にできたひびを自由な弾道を辿って狙い破壊して、穴を器用に通って後ろの敵を貫いていく。
曲がる弾。それも吉里が想像した通りの弾道を辿る予測不能な光弾。それは通常の光弾と吉里オリジナルのデータ、〈蛇曲〉を併用することで可能となる。
当然のことながら誰にでもできる技ではない。距離が遠くなればなるほど、その地を飛翔する光弾の軌道を正しく想像することは難しくなる。今回のように100メートル以上先の光弾を自在に操れるのは反逆軍の中でも吉里しかいない。
「次、2団目が援軍で来たみたいです。このまま攻撃を……」
突如吉里が黙ったのを井天は聞き逃さなかった。
「どうしました」
「敵が動きましたね、2名。突出してくる」
吉里が相手の数を減らすための光弾を、迫って来る2人に向けたところ、その光弾を難なく対処してこちらへの突撃を緩めない光景が見て取れる。
「気を付けてください。やる気がある奴が2人、こちらに来ました!」
こちらに迫るまで残り5秒。
東堂がすぐに指示を出した。
「これ以上射撃兵の火力は減らせない。〈ランパート〉と俺達で連中を橋の入り口から30メートル離れたところに誘導する。夢原、井天、その2人を止めろ」
「おっけー、東堂くんもしっかりね」
「了解」
吉里がそれを聞き、早坂に命令を下す。
「早坂。井天さんの方をフォロー。夢原は大丈夫でしょう」
「かしこまりました」
そしてこの場から4人の反逆軍が離脱する。
「さ、続けます。第2陣も同じように削っていきます」
吉里は、離脱した4人が外に出たのを見て、攻撃を再開した。
一方。
4人は、こちらに突撃してきた敵の〈人〉2人と相対する。
「さて……。雌型が4人か?」
「弦、口が悪いぞ」
「いいじゃないですか筆頭。反逆軍なんて阿呆を語る向こうのプライド、ズタズタにできるんすよ」
「任務は任務だ。粛々と取り組め」
反逆軍4人を前に余裕を見せている〈人〉2人。
何度も〈人〉の相手をしてきた夢原や他3人は、その2人を歩家の幹部クラスだと断定し、戦いの方針を練る。
「バラして戦うわよ。私は重い方を受け持つ。井天ちゃんと早坂ちゃんは軽い方。基本的に橋に注意を向けないように」
3人の了解を見た夢原は、自分達が突破されれば、自分達にいる橋に攻撃を受け全滅というリスクを前に緊張しながらも気合を入れる。
「〈シークレットバルーン〉」
明奈はこの戦いにすべてをかけるつもりだった。
季里も早速明奈が魅せたやる気が引き起こす惨状に驚きを隠せない。
明奈は30人ほどいた〈人〉の守衛兵を、
「〈無惨華月〉」
短剣から撃ち放った、凄まじい威力の斬撃波一発で全員片付けた。
空気を破いていくかのような轟音と遠隔斬撃が突如敵の目の前に生成され、敵の防御をすべて無意味としながら進み、通った後に生者を残さない。
明奈はそれに対して感動した様子は見せず、
「行くぞ」
まっすぐ裏口へと走っていく。
「すげえ……」
昇はそう言いながらも、明奈の左腕の動きがおかしいことに気が付く。
妙に力が入っていないように見えたのだ。
しかし体の異変は明奈が一番よく知っていることで、不必要なタイミングでの追及は望まないだろう、と昇はとりあえずそのことはスルーする。
――つもりだったのだが、走った先の目的地でそうもいかなくなった。
裏口の前には広い一本道があった。そしてそこを仁王立ちしながら守る幹部は、かつて昇が歩庄を見たときに、庄に撤退を申し入れた幹部の1人だった。
「お……?」
椎と呼ばれていたその男は、昇たちを歓迎する。
「季里さまもいるなぁ。やっぱりこっち来たか」
早速、椎は驚くべき提案を昇に向けて行ったのだ。
「そこの男、季里様と2人だけでなら中に入っていいぞ?」
「はぁ?」
自分を中に迎え入れると。完全に舐められていることもそうだが、そもそも敵をそのまま中に通すという行為自体、普通に考えれば絶対にありえない選択だ。
椎は笑いながら事情を明かす。
「庄様がお前と季里様は歓迎しろって言ってんだよ。主の命令だからな。しかたねえ。ああ、でも」
椎は明奈を指さし、彼女に殺気を向ける。
「お前は、殺すがな? 女」
明奈が狙われる。この宣告ばかりは昇も無視できない。明奈の体調がよくないのは明らかだ。そんな状態で〈人〉の幹部と戦えば、苦戦どころか死ぬ可能性がかなり高い。
明奈を止めようと口を開くが、たいして明奈は覚悟を決めていた。昇が止めるよりも先に、口を開く。
「いい。行け」
「でも! お前左が」
「アイツは私をご指名だ。お前のダメージが最も少ない方法で通れるなら、行くべきだ」
明奈は昇に自信に満ちた笑みを見せた。
「私は大丈夫だ。心配する余裕は、自分のために取っておけ」
「明奈」
「何があっても、戦うんだろ。私よりも自分がなすべきことに集中しろ」
明奈の淀みのない言葉を受け、覚悟を決める。
昇は迷うことなく頷いた。そして季里の手を引き、一瞬ためらった季里の足を無理やり動かして、裏口のドアを蹴破って中へと突入した。
そして、この場に明奈と椎が2人。
「さて、女。よく残った。俺はお前にすごく興味があるぞ?」
「戦場に興味を持ってくるのか?」
「アイツを殺したんだろ。なら楽しませてくれるよな? どう死にたい」
「ああ。あの女のことか」
明奈は右手に直刃の短刀を持ったまま不敵に笑う。
「お前もすぐに後を追わせてやる」
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