第56話 解放戦争開幕

 午前2時40分。


 廃街に裁きの巨槍が墜とされる。


 天使兵100人の合技〈レイヴァート〉は今まで人間たちを匿っていた地下を勢いよく貫き、彼らのいた地下へと届いた。


 凄まじいエネルギーの余波で近くに隠れ住んでいた人間は全滅。そして開けられた大穴へ数々の天使兵が突入する。


 入った〈天使兵〉はことごとく壊されていく。


 全員がいっぺんに入るわけではなく限られた数が随時入ってくる状況であれば、そのアジトに残った男は対処可能。


 電撃が翼を焼き、輝く手刀によって武器を折り、雷をもって天使を墜とす。


「さすがにこの数なら暴れがいがある!」


 死体を踏み、狂喜の笑みを浮かべる悪魔。


 天城来人が新たに飛んでくる天使を前に地下にはないはずの落雷を数々見せつけた。


「さて、何分かかるか……?」


 来人もアジトへと攻撃が止み次第すぐに、突撃した人間たちの手伝いをしに行く予定だ。


(敵の陣容、こっちでかかる時間を考えてみても連中に残されているのは勝利による生還か、敗北による死亡しかない。こっちに引き返しても、もういいことないからな)







 大橋には幹部2名を司令塔とした守衛兵が数多く揃っていた。


 警備はいつもと違い、大橋は雑兵によって閉鎖されている。


 来るかもわからない敵を堂々と陣を張って待ち受けるつもりだ。


 天から天使たちの光槍が墜とされたことは、その地点からも観測できる。


「始まったぞ!」


 幹部の声が静かな夜に響く。


 大橋での異変はそれと同時に起こった。


「何……?」


 繁華街の隠し通路から大橋に来るにしても何かしらの監視装置で存在が察知できるはずだった。


 しかし、決してそのようなことはなく、まるで橋の下から湧き出たかのように、何の前触れもなく現れた。


 まず現れた敵数は50程度。


 後の徐々に表れることも想定されるがアジトの最大人数を考えれば、その数は500くらいが最大数であることは間違いない。


 何も指示をすることなく発電所の守衛兵は敵兵が来たときの基本戦術を展開した。


 前衛を人型の召喚兵〈守影兵しゅえいへい〉に任せ、〈人〉は後ろから射撃を行い敵兵を殲滅する。


 前衛300、後衛も同じ300。それを基本団単位として、その数を4団分用意しているため、持久戦で堅実に数を減らしていくという戦術だ。


 早速〈守影兵〉を現れた敵に差し向け始めた。


 一方。


 最初に突撃するレオンを筆頭としたアジト有志の前衛戦闘員と反逆者8人による攻撃は東堂をリーダーとして開始される。


「行きます!」


「ああ。こっちはまかせろ」


 昇が裏口に異動し始めたのを壮志郎が見送ると同時に、東堂は号令をかける。


「突撃してくる前衛をまずは一掃する。そのあとは射撃を中心に削る。射撃兵の指示は吉里、近接兵迎撃の指揮は俺が執る。守りながら攻めるを徹底しろ」


 そして、腰につけた刀を鞘から抜く。刀は近接戦を行う反逆軍の基礎的な武器。東堂は業物を持ってはいるものの、それは通常より少し出来がいい程度だ。


 東堂の武器は刀でも剣術でもなく、奥義は使う技にある。


「〈電光撃月でんこうげきげつ〉」


 この一言が攻撃開始の合図なので、これだけはしっかりと口にして、腰をひねり、両持ちで勢いをつけた水平切りを披露した。


 斬撃を飛ばす遠距離攻撃は有名だ。


 それを警戒し影色の人型兵たちは防御の姿勢を取ろうとした。しかし、それよりもはるか速く放たれた斬撃は影300体を一瞬で上と下に両断した。


 念のためあらかじめ透明な対テイル攻撃障壁を展開していた歩家守兵団は、いきなり前衛が全滅した事実に驚きを隠せない。


「嘘だろ……!」


 この大橋200メートルの長さの半分以上を誇る範囲、そして構えてなければ対処できない高速、高威力の斬撃波。


 これを守護者東堂は通常攻撃と同じ感覚で放ってくる。


 彼が守護者として呼ばれる所以は、反逆軍唯一無二の特技を持っているからだ。


 このように、壮志郎や内也、夢原や東堂などのエースランクの隊員は、全員が自分独自のオリジナル武器データを想像により生み出し、自分のデバイスに保存、使用をしている。


 それは井天も変わらない。井天雲は、自身のオリジナルを披露する。


「〈包雲庭クラウドガーデン〉」


 まるで雲の中にいるかのように、周りの景色が白くなり始める。


 5メートル以上先が完全に見えなくなった歩家の守衛兵たちがうろたえることはなかったが、次の一手をどうするか迷ってしまう。


 相手が見えないままで撃てば人間を殺す可能性がある。それでは人間捕縛ができない。


「弾をスタンモードにして攻撃しろ!」


 歩家幹部の指令が飛ぶ。


「しかし、スタンモードでは相手のシールドを破りにくくなりますが……?」


「構わん。召喚も続け、射撃と共に相手に圧をかけ続けろ。召喚兵に当てても文句は言うな。当然向こうも防壁を展開して守りに入るだろうが、向こうも防壁の裏から正面への攻撃はしにくい」


「了解」


 歩家の兵隊達にとっては出鼻をくじかれた形になったが、ようやくいつも通りの大橋全体をカバーする全体攻撃を開始する。


 しかしながら、いつも通り戦い始めてしばらくしても手ごたえを感じない。


 周りが白く相手が見えないからか、と幹部は判断していた。


 実際にはそうではなかったが。


「ランパート!」


 前衛の戦闘兵を守るべく、戦っている人間以外のアジトメンバーが、前の天使兵戦で井天が使っていた、頑丈な壁を出現させるデータをデバイスで実体化させて、前線で戦っている皆をサポートしていた。


 これにより現在において相手の攻撃が当たっている人間は0だ。


 前線の戦士たちは、吉里の命令により攻撃を開始する。


「銃を追尾弾に変更。上空へ弾を放ちこちらの壁と向こうの壁を越えます。防がれても続けること。相手にプレッシャーをかけ続けます。数を減らすのは私たちが行いますので」


 銃を持った有志のアジトメンバーが上空へと光弾を放つ。


 相手にとっては白い光景、しかし、井天の〈包雲庭クラウドガーデン〉は特殊なゴーグルを通して見ると、それがないものとして、相手を一方的に視認できる。


 これにより反逆軍とアジトメンバー側からは相手が見えている状態で戦うことができる。


 戦いの初心者であるアジトメンバーも、相手が見えていれば狙って当てるぐらいはできるまで、訓練はしてきた。


 放たれた光弾は放物線を描き、相手の歩家守兵に上空から襲いかかった。

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