第50話 昇の出した答え
夢原の一言を受けて昇は説明を始める。
まず、肝心の発電所内部に潜入する人選。
「これは、俺と季里と明奈でやります。最初からそのつもりだったし」
「危険ね。そんなの認められないわ」
「まあ、聞いてくれ。この人選は仮に手伝ってもらえることになっても同じ人選だ」
「どうして?」
明奈がそこで口を開く。
「発電所の人間の管理は完璧、長く搾取するために、水槽の中に閉じ込めている人間は老化や弱体が極端に遅くなっている。それは水槽から出してしまえば、自分で行動を起こせる人間が多いということ。昇の友人以外を囮の駒として使えれば生存率は大きく高まる」
囮とされた人間たちは幸運であれば反逆軍と合流できるだろう。不幸ならばそのときは諦めるしかない。
望ましい方法ではないが、元々完璧に救助できる人手がいない以上仕方がない部分も出てくる。
「昇と、最低限の同伴戦力である私と季里、正しくは彼女に持たせた〈天使兵〉の戦力は欲しい。これで認められないなら、あなた方から戦力を賜るしかないですね」
「俺は仲間を助けて逃走する。残りの人間には申し訳ないが頑張ってもらうしかない。だけど標的を俺だけでなく他の人間に散らせられれば、それぞれの生存率は数値的に高まる。発電所内を混乱させれば、人員を逃走した人間の確保に使わざるを得ない。建物が無事でも人間がいないと意味ないからな」
反逆軍はそれを反論する者はいない。彼らは元々発電所の人間を助けるつもりはなかったのだから。
「時間はあんたらの試算と同じ30分。その間であれば繁華街の方から援軍は来ない。繁華街の警護も発電所の守衛から戦力を差し向ければいい構図だからな。そしてその30分で、大橋での戦いをやってもらいたい。発電所の中に戦力が向かないように」
ここで大橋の下まで続いている隠し通路の説明を入れる。天城来人から補足の説明が入った。
元々このアジトは発電所攻撃のために用意された天城家のアジトであり、隠し通路はそのために用意されているものだと。
「他の通路はないの?」
「廃街に続く隠し通路の1つ。お前達が予定している避難計画を行うのに、一番近い出発地点はそこだ。建設当時もそれ以外の出入り口は考えていなかった」
確かに隠れ住むわけではなく攻撃拠点ならば、避難用の通路が少ないのは仕方ない。
昇の話は続く。
「まずは避難の話から。〈天使兵〉は天城来人に任せる。最短経路で天城家との境界に、避難者を連れて向かってもらって、その道中の敵を殲滅してもらう」
その通り、と来人がうなずいた。
「レオンの話だと、反逆軍がすぐに避難をしなかったのが、避難に必要な〈爆動〉による高速移動、襲撃があったとき自衛できるように戦闘の基礎を身に着けるのを待ってたと聞いた。なら、来人が撃ち漏らした敵の攻撃は凌いでもらう。これも反逆軍の予定通りのはずだ」
吉里は頷いた。
そして念を押すように来人が言う。
「関所とその周りにいる兵士は1人で全滅させることができる。関所で戦闘が起こる事を考える必要はない。道中の雑魚は5体の処理に1秒もかからない。対処可能だ」
さらっと恐ろしいことを言った来人。しかし反逆軍が避難作戦において一番不安視していた関所攻略中の避難者の犠牲を考えずしていいのは大きいメリットであるのに違いない。
昇に力を貸すという体になっているため、天城の協力は約束されている。
「反逆軍と有志の戦闘員は隠し通路を使って大橋へと向かって攻撃。他の場所から援軍がこない間に大橋を攻略してもらいたい」
「分が悪くなったら?」
東堂の質問に昇は答えた。
「不可能と判断した場合は隠し通路からアジトを通じて避難者と同じ道を辿って逃亡だ。天城はそれまでに避難者を伊東家領外へと逃がして、その後逃げてくる反逆軍と合流、その後逃亡を援護する」
吉里の表情が少し緩んだのは気のせいではない。
この方法は、危険は伴うものの、上手くいけば、本来反逆軍が欲張りたかった、発電所の人間の救出も可能なのだ。
もちろん、昇たちが発電所内部の人間を逃げさせることに成功、さらに大橋の制圧に成功という壁2つを突破する必要はあるが、両方うまくいけば最高の戦果をあげられることになる。
「これが、俺が考えた方法だ」
昇はこれ以上は、この作戦を微調整するくらいしかどうにかする方法が思いつかないだろうと予感している。
緊張の面持ちで、目の前の会議参加者たちを見る。
「粗いな」
「確かにいい作戦に聞こえますね。全てがうまくいけばの話ですが」
東堂と吉里が強めに声を張る。
そして夢原が昇に問う。
「私たちが命を張る理由はないだろうとは思わなかった? これだと、私たちは単純にあなたに利用されているみたいな感じだけど」
明奈がそれに答える。
「それを言い始めれば、会議はすべて茶番になる。この会議は、あなた方が協力する可能性があるという前提で成り立っている。協力には命のリスクが伴うのは承知の上のはず」
「明奈ちゃん、昇君について行くと危険なのは今聞いた話から分かるはず。生きて帰ってこれる可能性は低いわ」
「私の命などどうでもいいことです。私は、彼を勝たせると誓ってますから」
明奈の堂々たる宣言。昇は今までと同じように、彼女を頼もしく思う。そして、とても感謝していた。
この場にしばらくの静寂が流れる。
良い知らせを意地悪に躊躇うという場ではない。今の話を受けて、反逆軍の人員は本当に悩んでいる証だった。
(手ごたえはあるぞ……!)
昇は今の目の前の光景を見て確信する。壮志郎や内也に至っては、もう答えが決まっているかのように昇の方を見た。
実はデバイスを通じてこの時、壮志郎は昇にテキストメッセージを送っている。俺は乗った、という旨がそこには書かれている。
それを見て笑みを見せてしまいそうになるのを我慢して、目の前の皆を見る。
やがてレオンが立ち上がった。
「俺は昇に協力したいと思う」
各班長から驚きと理由を求める声があがった。
安芸は険しい顔で、
「ようやく逃げられるんだぞ。どうして!」
と叫ぶ。
「命をかけて昇は大きなことを成そうとしている。なら、俺はその力になってやりたい。こいつはずっと一生懸命頑張ってきたのは想像に難くない。どうせ避難には命を賭けるんだ。みんなが無事だと分かったなら、俺はそんな男の味方になってあげたいと思った」
「馬鹿かお前! みんなでここまで生きてきたじゃないか! 今更、そんなことを」
「馬鹿で結構。だけど、俺は昇に賭けたい。みんなも……居るだろ。発電所に仲間が囚われてる。俺達の友達がたくさん。俺は、本当はそれが悔しかったんだ……。みんなはそうじゃないのか?」
「それは……」
「俺達はその悔しさをかみしめて、それでも何もできないからこうして隠れ住んで助けを待った。もう死んだと諦めて、彼らの分まで生きようって。でも、それを超える可能性があるのなら、俺は、俺達の恨みを代わりにぶつけてくれるこの男に、賭けたい」
「レオン……お前」
皆、レオンを責めなかったのはレオンの言う通りだったからだろう。
このアジトに居るのは、歩家に追われ、攫われたところをその中を何とか生き残った者たち。普通の避難者たちならともかく、彼らだからこそ響く言葉だった。
昇はレオンがノリノリで自分に付き合ってくれる理由をそこで察した気がした。
明奈もここまではいい流れだと、安堵のため息を吐こうとした。
その時。
焦りを見せながら、吉里小隊の早坂が、会議室に入ってくる。
「どうしました早坂」
その焦り具合に心配になった吉里が声を掛ける。
しかし、早坂は返事をすることもなく、皆に見えるように画面を映し出す。
廃街の上空を映し出したその映像の中には、あまりに多すぎる〈天使兵〉が何かをチャージしている様子があった。
「なに……?」
「アジトの場所がバレました! 今夜、彼らはアジトを攻撃するつもりです!」
「何……!」
東堂が驚きで目を見開きながら立ち上がる。
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