第49話 覚悟
明奈は季里の記憶回復処置をしながら、彼女の中にある記憶映像やテキストをコピーしていた。
今それを閲覧しながら、発電所についての情報を入手している。
発電所内部の構造、守衛兵の数、普段幹部はどれくらいいて、襲撃の際に指揮するのは誰なのか。発電所に設備されている自動迎撃装置には何があるのか。主力となる自律型召喚兵器はどの程度存在するのか。
そして、昇が救うべき友人とやらはどこにいるか。
発電所に攻撃する身としては、知るべきことは多い。
そして当然その中には、知っておいた方がいいことがあれば知りたくなかった事実もある。
「……そうか……」
その中のある1つのニュースで、昇が真に絶望するのは発電所に入ってから、ということが分かった。
(……報われないな。本当に)
運命と言うのはとにかく人間を絶望させるのが好きなようで、明奈は、自分だけでなく昇すら破滅へと追い込むつもりなのか、と思い不機嫌を表す舌打ちをする。
自分のことなどどうでもいい。しかし、昇を勝たせると決めた身として、彼が勝利の末に深い傷を追うのは気に入らなかった。
しかし、どうあっても昇は発電所に行くことは変わらない。
明奈には、もはやそれを止める方法はない。
「あきなー」
昇が部屋へ戻ってきた。
明奈は閲覧しているデータを一度閉じる。
ややニコニコしながら戻ってきた昇に対して、明奈はすまし顔で対応する。
「どうした」
「この後反逆軍のみんなに集まてもらって、俺の考えを発表するんだ。お前にも聞いてほしい」
「はぁ……?」
昨日の今日で作戦が決まったという。
明奈は若干疑っているところがあるが、中身を聞かないままで一概に否定するのはよくないと自分に言い聞かせる。
「……まず、私から1つ」
「へ?」
「季里の記憶が戻ったのは知ってるか?」
「ああ」
「それでも生きて戻ってきたのか」
「戦いにはならなかった。俺の気持ちは伝えた。後はあいつ次第だ」
「どうして殺さなかった」
明奈はあえて、昇に厳しいことばを投げる。それは昇をいじめたいということではなく、戦いの前に甘いことを言っている彼へ釘を刺すためだった。
和解などありはしない。この戦いは昇か歩家、どちらかが破滅するまで続く。
「あの女は敵だ」
そして奇跡でも起きない限り、季里は確実に敵に回るだろう。いま彼女をかばうのはリスクでしかない。
昇も理解している。その上で、
「俺は、あいつを信じると決めた」
と、真剣な顔で言い切った。
「根拠は」
「根拠ってほどじゃない。だけど歩家の家風は知っているだろ人間に生かされた屈辱は半端ないはずだ。それこそ理性で押さえられないくらいに怒る。だけどあいつは冷静だった」
「そうか。賭けとはいただけないな」
明奈は口ではそう言ったものの、それ以上は言及せず、彼を信じることにした。
そして話を転換する。
「やり方は秘密だが、彼女の中にある発電所内の詳しい情報を手に入れた。それを合わせて、その話をより洗練させるぞ」
昇に断る理由はない。
明奈が座っている近くの椅子に座り、昇が考えた攻撃案を明奈へと説明し始める。
明奈的には30点という辛口評価。明奈がある程度アドバイスをして、さらに作戦案の完成度を上げる。
そして発電所の内部の情報を提供して、ブラックボックス状態となっていた発電所内での動きも話し合うことに。
30分話し合いは続き、そして明奈のゴーサインが昇に告げられる。
「よし、もう時間がない。すぐに会議室に行こう」
「昇」
明奈は最後に覚悟を問う。
「覚悟はあるな? 何があっても戦うと。死ぬかもしれなくても。後悔することになっても」
「……お前がそう言うからには、何か嫌な予感があるんだろ?」
「ああ」
「安心しろ。俺は諦めないさ。さあ、勝負だ。一緒に行こうぜ、明奈」
昇の表情は一切揺るがなかった。
明奈は安心した表情で、昇の後をついて行く。
会議室。そこにはアジトリーダーのレオンとサブリーダー2人。実際に避難を始めることになったときに、避難を主導する班長を務める20人。
そして反逆軍の面々、そして来人が居た。
レオン以外の顔色が良くない理由も昇には自覚があった。
わざわざ発電所にいくという自殺行為を馬鹿正直に語り、それにレオンがノリノリになり始めたのが気に入らないのだろう。
さらに明奈や昇が誘ってはいないものの、季里もあらかじめ席についている。
明奈は補佐を務めることにして、昇が基本的には説明責任を果たすつもりだ。
この場にいる人間たちを納得させるための説明を。
「さて。聞かせてもらいましょう」
夢原の一言を受けて昇は説明を始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます