第19話 相性診断をしましょう!
日比乃が俺に対して軽く怒った翌日。
「先輩。なんやかんやで昨日はこのアプリ試せなかったんでやりましょうよ」
俺がパソコン室で記事の作成をしている最中に、後輩の日比乃がそんなことをいってきた。
彼女が手元に掲げているのはスマホ。
画面に表示されているのは一個のアプリだ。
そういえば昨日の放課後は俺の発言に対して日比乃が怒ったことが印象として強かったが、そもそも最初は彼女が俺とアプリで遊ぼうとしていたのだ。
日比乃がやって来たとき、アプリで遊んでいていいのかと問答した記憶がある。
そういう意味でなら、今日も遊んでいていいのかと疑問に思うが……。
いや昨日はあの後、結局遊ばずに日比乃は帰ってしまった。
家で勉強をしていたというのなら、昨日今日と遊んでいるというわけではないのか。
本来昨日遊んで今日勉強するはずだった予定が、昨日勉強して今日遊ぶという予定へと変更したというだけ。
それならば別に俺がまた口うるさく言う必要もないだろう。
それに、昨日はこいつに色々と失礼なことを言って怒らせてしまった。
その謝罪の意味も込めて、今日はこいつに付き合うとしよう。
そう思った俺は日比乃の提案に同意する。
「いいぞ。それやろうか」
「やったー! 今日はなんか素直ですね先輩!」
「なんだよ今日は、って。俺はいつでも素直――じゃないな。うん」
まあ多少はひねくれているという自覚はある。
それは昨日の件からも自分でわかっている。
「それで。なんのアプリなんだそれ?」
そういえば俺は日比乃が提示しているアプリがなんなのかよく知らなかった。
口ぶりからしてよくあるスマホゲームという感じではないし、かと言ってSNS系のアプリでもない。
まあSNSのアプリだったんなら、わざわざ俺を誘わずに同級生の女子の友達を誘って会話するか。
「これですよ、はい」
日比乃が腕を伸ばしてスマホを移動させ、こちらに画面を見せてきた。
画面を見ると、相性診断と書かれている。
「相性診断?」
「そうです。相性診断です」
「ていうと、俺とお前の相性を調べるっていうこと?」
「ですです」
日比乃は首を縦に振ってうなずく。
「相性診断ね。わかったよ」
俺も期末試験対策の勉強や記事作成で少し疲れていたところだ。
まあ気分転換にはちょうどいいだろう。
そう決めて、俺と日比乃は二人してスマホの画面をのぞき込む。
「それじゃ、始めますよ」
日比乃は画面に表示されているスタートの部分を押した。
すると『二人の相性を調べますか?』と文字が出てきて、その下には「はい」と「いいえ」の二つのボタンが出てくる。
日比乃は迷わず「はい」を押す。
その後には『どういった関係の相性を調べますか?』と文字が出てきて、いくつかの選択肢が表示された。
「友達」「恋人」「家族」「夫婦」「上司と部下」「その他」とかかれたボタンが出てくる。
その選択肢で俺は悩んだ。
ここには「先輩と後輩」はない。
目当ての選択肢がここにない以上、「その他」を選ぶべきか。
それとも関係性としては「先輩と後輩」に一番近いであろう「上司と部下」を選ぶべきか。
俺が差し出された選択肢に対して悩んでいると、日比乃は指を動かした。
そして迷わず「恋人」と書かれているボタンを押す。
「え?」
「え?」
俺はその行動に疑問を感じて「え?」と呟いて日比乃を見る。
すると日比乃は俺の疑問に対して疑問を感じたという風に「え?」と呟いた。
「え? なんで恋人にしたの?」
「夫婦の方がよかったですか? そんな先輩、気が早いですよー」
きゃー、と小さく言って頬に手を当てる日比乃。
いやそうじゃなくて。
「夫婦でも恋人でもなくて、ここは「その他」か「上司と部下」じゃないのか?」
「は? なんでですか? 私たち別に上司と部下じゃないですよね?」
「まあそうなんだけど。でもそっちの方が合ってないか?」
「……なんでそう思うんですか?」
「だって先輩と後輩の関係に一番近いのは「上司と部下」って奴だと思うし」
俺のその台詞を聞くと、日比乃は「はぁぁぁ」と大きなため息をついた。
「先輩。こういうのはですね、男と女でやる場合には普通「恋人」か「夫婦」でやるものなんですよ」
「いやそれは嘘だろ」
「ほんとですよ。「上司と部下」とか「友達」なんてものは同性同士でやる場合のものです。そういうものなんです。このアプリを使ったことのある私がそういうんだから間違いないです」
「……そうなのか」
まあ、使ったことのあるこいつがそう言うのなら納得せざるをえない。
それにここで争っても別に得はないしな。
「じゃあこのまま進めましょう!」
日比乃は相性診断を再開する。
どうやら関係性を選んだあとは、質問に対して二人が交互に選択肢を選んでいくシステムらしい。
「先輩からいいですよ」
日比乃はスマホを渡してきた。
恐らくこの後は相手に見られずに進めるものなのだろう。
俺はスマホを受け取り、画面を見て日比乃に見られないようにしながら選択肢を選んだ。
その後はスマホを日比乃に渡す。
彼女は選択肢を選んで俺に渡してきた。
それを何度か繰り返して、十数回ほど選んだとき。
「あ、終わりましたよ先輩」
日比乃がそう言った。
「それじゃ、結果を見ましょうか」
「ああ」
日比乃がえいっ、と結果の表示というボタンを押す。
すると紙吹雪の演出と共に、結果が表示された。
結果にはこう示されていた。
『お二人の相性は最高です。お互いの運命の人でしょう。もう結婚するならこの人しかいないのでは?』
「ええっ!? ほ、ほんとに……!?」
結果を見て日比乃が驚きのあまり叫ぶ。
それも無理はない。
俺も驚いて一瞬大きな声を出しそうになった。
ここまでの結果になるとは思ってもなかった。
運命の人って。
「えへへぇ。先輩!」
日比乃がにこにこしながら俺に話しかけてきた。
「私たち相性最高なんですって! 運命の人なんですって! よかったですね!」
彼女は嬉しそうに笑っている。
まるで宝くじでも当たったかのような喜びようだ。
「そ、そうだな。でもまあたかがアプリなんだしそこまで――」
「えいっ!」
俺がしゃべっていると、日比乃は突然声を出して抱き着いてきた。
「ぎゅーっ!」
「うぉっ。何だ急に!」
「えへへ! 運命の人に抱き着いちゃってまーす!」
そのまま日比乃は腕を回して俺を強く抱きしめてくる。
横から抱き着いてきたため、位置的に俺の胸のあたりに彼女の顔が来ていた。
そのまま顔をすりすりと擦りつけてくる。
肌が触れているわけではないためくすぐったくはないが、日比乃が俺に抱き着いているという状況に、なんだか恥ずかしさを感じる。
ちょっとだけ、照れてしまう。
こいつが抱き着いてくるのはいつものことなのに、こんなことを思うのは、きっと先ほどの相性診断の結果を意識しているのだろう。
運命の人だなんて言われたら、嫌でも意識するに決まっている。
「おい、日比乃」
離せ、と言おうとしたが。
「なんですか先輩。離しませんからね。嫌だと言ってもこのまま抱き着いてますから、先輩はされるがままになっていてくださーい」
日比乃が抱き着いたままそう言ってきた。
断固として離れる気はないらしい。
先ほどの相性診断の結果がよほど嬉しかったのだろう。
まったく。
たかがアプリの相性診断に、何を本気になっているのだか。
俺はため息をついて、呆れてしまう。
とはいえ。
まあ、俺も相性が最高だと言われて悪い気はしないが。
というより、ちょっと嬉しかったが。
い、いや、あくまでちょっとだけだ。
俺はそこまで舞い上がっていない。
運命の人だなんて言われて、こいつほど喜んではいないからな!
俺はそう、心の中で自分に言い訳をしていた。
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