第2話:捕食
―― さて、それじゃあ早速試してみるか? なあ、どうやったらミノタウロスの姿になれるんだ? ――
『ミノタウロスの情報は有るでいやがりますから体内の魔力を使って【擬態】を念じるでいやがります。そうすればミノタウロスの姿になれるでいやがります』
―― そうか、んじゃ早速。う~ん、ミノタウロス、ミノタウロス‥‥‥ ――
『マスター、踏ん張ると別の物が出るでいやがります。もっとイメージをするでいやがります。』
―― なっ!? スライムも出ちゃうの!? ――
『内緒でいやがりますがたまに出すでいやがります』
衝撃の事実にアベノルはスライムボディーを震わせる。
しかし気を取り直してイメージをもう一度する。
―― ミノタウロス、ミノタウロス‥‥‥ ――
するとスライムの表面がプルプルと震え始めだんだんと人型になっていく。
そしてその頭頂部を牛の頭に変え、とうとうミノタウロスの姿になる。
―― うおっ! すげぇっ! 本当にミノタウロスになったのか!? ああ、でも視界がなんか狭いな? ――
『眼球で物を見るからでいやがります。これでマスターはミノタウロスの全ての能力が使えるでいやがります』
―― よし、じゃあどんどんモンスター捕食しまくってあいつらを脅かしまくろう! 頼んだぞナビゲーター! ――
『ちっ、何を言っていやがります? 擬態した場合は全てマスターがコントロールしなければいけないでいやがります。スライムボディーの時だけ私は代行できるでいやがります』
―― なにそれっ? どんなナビだよ!? ――
『私が命じられたのは【スライム】のマスターのナビゲートでいやがります。適当なモンスターの面倒何ぞ見ていられないでいやがります』
はっきりとそしてきっぱりと断られるアベノル。
ミノタウロスの姿でこぶしを握り震える。
―― ちっくしょうぅ~、せっかく強そうな姿になったのに! まあいいや、じゃあスライムの姿で捕食しまくるぞ!! それなら良いんだろ、ナビゲーター!? ――
『それなら仕方ないでいやがります。スライムボディーの美しさは絶品でいやがりますからね』
ナビゲーターの趣味出まくりの発言だった。
* * *
―― なんか歩きにくい ――
『スライムボディーでいやがりますから人が歩くのと同じ要領で動いても無駄でいやがります』
そうは言われてもスライムの歩き方なんて知るはずもない。
仕方なしに転がる様に動いてみると先程よりは数段と動きが早くなった。
―― こんな事でスライムの気持ちがわかるようになるとはな ――
『ああ、素晴らしきスライムボディーかなでいやがります。この流れるような動き、それでいてぷるるんとしたその肌! 最高でいやがります!!』
上機嫌なナビに対してそれでも移動速度はそれほど早く無くアベノルは考える。
―― なあ、さっき捕食した中に俺の腕あるじゃん、人間にも成れるって事だよな? ――
『なれるでいやがります』
―― じゃさ、もう少し動き回りたいから人型になるか! 元の自分なら動くのも簡単だしな! ――
アベノルはそう言って魔力を込め元の自分の姿になってみる。
―― おおっ! 俺だ!! うわー、これって本当に俺だな!! ――
『ふん、軟弱な人間の何処が良いでいやがります? まあ、マスターはもとはしがない人間風情でいやがりますからこの姿では私のナビが無くても動き回れるでいやがります』
ふんっ! と声が聞こえそうなのをアベノルは笑って元の自分の姿でこの迷宮を動き回った。
そしてしばらくすると壁に蜘蛛の糸が沢山ある場所へとたどり着いた。
―― あれ? これって‥‥‥ ――
『既に遅いでいやがります。主様は敵の手中でいやがります』
―― え? まさか‥‥‥ うわぁっ!! ――
気付いた時には既に時遅しでアベノルは体中を蜘蛛の糸でからめられ宙づりにされている。
そしてその目の前に大きな蜘蛛が牙をワキワキさせながらするすると降りて来た。
―― きゃーっ! 蜘蛛っ! 蜘蛛ぅっ!! な、ナビ早くこいつをやっつけて!! 捕食して!! ――
『無理でいやがります。こんなちんけな人の姿では既に動きも取れないでいやがります』
―― 何それ!? 俺って最強じゃなかったのかよ!? ――
『はい、スライムとしてはこのダンジョンで最強でいやがります。但し今の人の姿では捕食した人間の能力しか持ち合わせていないでいやがります』
―― ええっ!? じゃあ今のこの俺って、ミノタウロスに喰われる前の俺の能力しかないっての!? ――
『さっきも言いましたでいやがります。今のマスターは生前のマスターの能力しか持ち合わせていないでいやがります』
―― そ、そんなぁ! って、ちょっと蜘蛛さん近い! 近いってばぁっ!! ――
かぷっ!
その後アベノルの人型での状況はモザイクをかけなければならないのでしばしこのままで。
* * * * *
ぺっ!
コロン。
―― だっはーっ! 体全部喰われちゃったぞ!! どうすんだよこれ!! てか、このコアだけは吐き出されたがどう言う事だよ? ――
『コアは宝石と同じようなものでいやがります。味もしなければ食べれる様なものでもないでいやがります。スライムボディーになりやがるでいやがりますか?』
―― このままじゃどうしよも無い、なる! とにかく体!! それとこいつ捕食しろ!! ちっくしょう、一日に何回殺されて喰われるんだよ、俺っ!! ――
アベノルがそう言うと途端にコアを中心にスライムボディーが精製される。
そしてスライムの姿に戻った瞬間ナビの操作のもと一瞬でこのジャイアントスパイダーをスライムボディーに取り込む。
『捕獲完了でいやがります。捕食してジャイアントスパイダーの全能力を取得しやがるでいやがりますか?』
―― するするっ! もうやっちゃって!! ――
数秒後ジャイアントスパイダーは跡形もなくスライムに吸収されその全能力をアベノルは取得したのだった。
『マスター、今思ったでいやがりますがマスターの生前の姿で歩き回った方がモンスターどもに好評の様でいやがります。容易に捕食できる餌としてでいやがります』
―― 何それ!? このままスライムで動き回った方がいいんじゃないの? ――
『スライムボディーは素晴らしいでいやがりますが移動速度やモンスターの襲撃率が問題でいやがります。このぽよんぽよんした愛らしい動きも捨てがたいではいやがりますが』
―― モンスターの能力獲得の為にか、仕方ない生前の俺の姿になってモンスター襲ってきたらすぐにスライムに戻って捕食してくれ! ――
『わかりましたでいやがります』
アベノルはまた人型に戻るもしばらく行って今度は大ナメクジにつかまる。
―― うわーっ! 気持ち悪い!! 早くスライムになってぇっ!! うぶっ! ――
ぼりぼり‥‥‥
ぺっ!
カラン。
―― ‥‥‥おい、ナビまた喰われちゃったぞ? ――
『うーん、なめくじのぬめぬめはあまり良くなかったでいやがりますね? やはりスライムが一番いいでいやがります!!』
―― スライムいいから早く捕食してくれよ! と、その前に体再生して!! ――
そんなこんなをやりながら同じことを何度も繰り返しアベノルは色々な捕食のされ方を味わうのだった。
時に前回から半日の時間が経っただけだった。
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