ありふれた世界のダンジョンに出会いを求めて転生したら影の実力者になれなかったスライムの物語

さいとう みさき

第1話:転生


 ここはアルフガリドと言う世界でこの世界最大の地下迷宮、コキュースト迷宮。

 そこに一人の若者が窮地に陥っていた。



 がぎぃん!!



 「なんでこんな浅い層にこんな強いモンスターがいるんだよ!? それにみんなどこ行ったんだよぉっ!?」


 その青年は牛の頭を持つ化け物、ミノタウロスの斧の攻撃に耐えられず吹き飛ばされる。

 

 彼の名はアベノル。

 冒険者になりたてのまだまだルーキーだ。


 一緒にパーティーを組んだ仲間は何故かここに居ない。

 クエストでこの迷宮の浅い層にある鉱石を取りに来ていた。

 しかしアベノルが夢中になって鉱石を取っているといつの間にか一人になっていて仲間のパーティー連中とはぐれ更にいつの間にか現れたミノタウロスに襲われている。


 「くそうっ! 死にたくないっ!! 何だよせっかくビザンカとも仲良くなれてこれからだって言うのに!!」


 ビザンカとは同じパーティーにいる紅一点の魔術師。

 ナイスバディ―の金髪碧眼の美少女だ。


 まだまだ本当に右も左も分からない頃に何を勘違いしたのかいきなり一人でこのコキュースト迷宮に入り一人でクエストをこなそうとした。

 しかしその時にピンチに陥り、『黒き誓』と言う名のパーティーに助けられそのまま仲間になったアベノルはビザンカと出会いその持ち前のトーキングで彼女とどんどん仲良くなっていった。



 「こんなダジャレがあるんだぜ、布団が吹っ飛んだ~! 俺の竹刀知んない?」



 それを聞いたビザンカは箸が転げても笑う年頃、思わずくだらないギャグに反応してしまった。

 それを勘違いしたアベノルは自分に気が有ると勝手に思い彼女にどんどんとダジャレや小話を聞かせ仲良くなっていった。


 快く思わなかったパーティーメンバーににらまれているとも知らないで。




 ぶんっ!



 ミノタウロスが降る大斧がとうとうアノベルの背中に吸い込まれる。



 ざくっ!

 ぼぎぃっ!!



 背は裂け骨は折れアノベルは地面に叩きつけられる。

 血がどんどん流れ意識が遠のく。


 「し‥‥‥ 死にたく‥‥‥ 無い‥‥‥」


 彼は最後にそう言いながら遠くを見る。

 するとこちらを見ながら叫んでいるビザンカを「黒き誓」のメンバーが引っ張って逃げていくところだった。


 ―― あ‥‥‥ あいつら俺を囮に‥‥‥ くそ、ビザンカぁ‥‥‥ 覚えてろよ‥‥‥ この恨み晴らさでおかずかぁッ!! ――



 最後に彼はそう思い短い人生を終えた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

  

 「あ~、またこんな所で死んだ人がいますかぁ~? 今月はもうノルマ捌き終わってるのになぁ」


 どこからか間の抜けた声が聞こえてくる。

 女の声?

 若い女の声っぽい。


 「ねえ君、今死なれるとあたしの仕事また増えるんで来月まで死ぬの待ってくれない?」


 ―― 馬鹿言ってんじゃねえ! 俺は死にたくなんて無いんだぞ!! ――


 「うーん、でもどう考えても死ぬしかないのに。ねえ、死ぬのを一ヵ月待ってもらえるかな? そうすれば来月のノルマに回せるから」


 ―― ふざけんなっ! と、その前に俺はもうミノタウロスに殺されたんじゃないのか? ――


 「うん、殺された。君の死体はお腹を空かせたミノタウロスに美味しく食べられているよ? 見てみる? スプラッタだけど」



 ―― やめろよ! 自分が喰われる所をしかもスプラッタでなんか見たくないわっ! ――


 「それよりどう? 一ヵ月の命だけど伸ばせるんだけど? もし伸ばしてもらえれば特典つけちゃうよ?」



 ―― 何だよそれ? で、特典って何? ――


 「先に特典に喰いつくの? そうだね、この迷宮にいても誰にも負けない力を与えたスライムってのはどう? 何も無い所から体を作るからスライムボディーだったら一月くらい持つしねぇ~。もしそれが嫌だとその辺の死体を寄せ集めて見た目も酷いアンデットとか!」


 ―― うわっ! 何それ!? 選択肢屑じゃん!! 人間! 人間にはできないのかよ!? ――


 「うーん、あたしの力じゃそこまで出来無いのよ。あたしって、冥界の女神様のコマ使いだから」


 ―― 女神? じゃあ何か、あんたは天使か何かか? ――


 「まあそうね、天使じゃないけど女神様の御使いってところかな? で、どうする? 今ならその辺のモンスターより強いスライムかアンデットだけど?」


 ―― ちょっと待てよ、それ以外本当に選択肢無いのかよ!? ――


 「ない」


 ―― うわー、本当に使えない使いだな!? ――


 「なにそれダジャレ?」


 ―― で、本当の本当に一ヵ月でスライムかアンデットなの? ――


 「うん、それしかない。但この迷宮のモンスターの誰よりも強いよ?」


 ―― うーん、そうだ! 思い出した!! あいつら俺の事見捨てビザンカ引っ張ってったんだっけ!! 畜生! ビザンカ以外に仕返ししてやりたい!! スライムとアンデットか‥‥‥ ――


 「ねえ、決まった? あたしそろそろ退勤時間なんだけど? 今厳しくて残業御手当つかないんだからね? あ、ちなみに今決めないと見なかったことにするので君の魂霧散してなくなっちゃうよ? そしたらこの話はちゃらね!」


 ―― うわっ、ひどっ! 職務怠慢もいい所じゃねーか!! ――


 「うるさいなぁ、で、どうするの? あたしそろそろ本当に帰るよ?」


 ―― わ、分かったよ、じゃあスライムで。天井にへばりついていてあいつらに復讐してやる! ――


 「はいはい、スライムね! ちょっと待っててね! えーとこうやってこうして、君の魂をコアにして~っと! よし準備できた! サービスでナビゲーター付けとくから分からない事はナビゲーターに聞いてね! じゃあ一か月後にまた迎えに来るからね!」


 そう言って声の女はその力を振るう。

 アベノルの魂はコアになりスライムのボディーが生成されていく。



 そして気が付けば先ほど自分が殺された場所にアベノルは居た。



 ―― うん? 本当にコキューストの迷宮に戻って来た? って、何じゃありゃぁ!? ――


 『転生前のマスターの死体でいやがります』


 ―― うおっ! びっくりした!! 誰? ――


 『私はナビゲーター、マスター他に何か質問はありやがりますか?』


 ―― ナビゲーターね。であれって俺の死体? うわっ、ぐちゃぐちゃ‥‥‥ ――


 『モザイクでもかけやがりますか?』


 ―― うう、頼む。所で俺ってスライムでこの迷宮最強なの? ――


 『はい、この迷宮では最強でいやがります』


 そんな会話をしているとアベノルの後ろからドスンドスンと音が聞こえる。

 意識をそちらに向けると先ほど襲ってきたミノタウロスだ。

 ミノタウロスがご丁寧にまだアベルの腕を食べている。


 ―― うわっ! あの野郎!! 俺の手をまだ食っていやがる!! くそう、こいつにも仕返ししたい!! なんか方法無いの!? ――


 『マスターはこの迷宮で最強でいやがりますからミノタウロス如き簡単に消し去れるでいやがりますよ? 今はスライムボディーなので捕食でも切り刻むでも何でも出来るでいやがります』


 ―― ちなみにこの体って飯いるの? ――


 『設定がひと月の命でいやがりますから喰わなくても大丈夫でいやがります。ただ捕食するとその捕食した生物の姿形に擬態出来やがるでいやがります。お約束ですが』


 ―― えっ? マジっ!? じゃあ捕食! 捕食しちゃおう!! スライムよりミノタウロスの方が強そうじゃん!! ――


 『了解でいやがります。捕食を開始するでいやがります』


 そう言ってアベノルのスライムはミノタウロスに襲いかかる。

 しかしそのスピードは普通のスライムの比ではなくほとんど瞬間移動に近い。


 「ブモッ!?」


 いきなり襲ってきたスライムに驚いたミノタウロスであったがアベノルのスライムは一瞬でミノタウロスを包み込む。


 『捕食を始めるでいやがります』


 ナビゲーターがそう言った瞬間にミノタウロスは一瞬でスライムの中で解けてしまい吸収された。


 ―― すげっ! あのミノタウロスを一瞬で!! ――


 『捕食完了でいやがります。ミノタウロスの全能力、その容姿を獲得したでいやがります。これでいつでもミノタウロスになれるでいやがります』


 ―― なぁなぁ、そうするとこの迷宮にいるやつ全部捕食すれば俺ってそいつらの全能力や容姿に成れるのか? ――


 『可能でいやがります。 あ、さっきの喰いかけの腕も吸収できたのでちんけな人間の姿にも成れるでいやがりますね? ただこの人間の能力かなり低いでいやがりますが』


 ―― ちょっとマテ、それ俺だってのっ! 何だよちんけとかかなり能力低いって!! ――


 『事実でいやがります。これではジャイアントスパイダーにも劣るでいやがります』


 ―― くっ! 好き放題言いやがって。でもまあいいか、元の人間の姿にも成れるのか‥‥‥  早速あいつらに復讐を。と、その前にどうせなら俺を置いてきぼりにして散々な目に合わせたんだ、ただ単に復讐するのじゃ面白くない! どうせなら目の前にいきなり強力なモンスターになって現れてやって絶望の淵に落とし込んでやる!! そんでもってビザンカだけは生かしてこの迷宮を出してやろう。最後に俺の姿になってお別れ言ってな‥‥‥ うん、最後はロマンチックでいいじゃないか? よし、そうしよう! じゃあさ、ナビゲーター、もっとたくさんのモンスター捕食してこの迷宮の支配者クラスになっちまおう!! ――


 『マスター、この迷宮の支配者にはなれないでいやがりますよ?』


 ―― へ? なんで? 俺ってこの迷宮で最強なんじゃないの? ――


 『ここのダンジョンマスターは迷宮を操ることは出来ても力自体は弱いでいやがります。それにあのダンジョンマスターは最下層にいるので探し出すのに一苦労でいやがりますよ?』


 ―― ダンジョンマスターってのがいるんだ? それもモンスターなのか? ――


 『ダンジョンマスターは女神の分身が多いでいやがりますね。この世界のバランスを取る為にダンジョンを運営して魔力や魂の循環、輪廻の管理、そして平常世界での魔獣、幻獣、妖魔の類の出現バランスを押さえることが目的でいやがります。ですので必ず最強になる必要が無いのでいやがります』


 ―― ‥‥‥ごめん、なんか難しくてよくわからん。でもまあいいか! とりあえずあいつら脅かせるようなモンスター捕食しまくって仕返ししてやる!! ――



 世界の真理の一片に触れたアベノルだったがとりあえず自分の復讐の方が優先となりナビゲーターに強そうなモンスターを捕食する為に案内をさせるのであった。



 時にアルフガリド歴二千二十年年八月の事であった。  

   

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