7
場所も時間も飛んだ。
打って変わり、大きな窓。壁一面、ほとんどが窓だった。カーテンもブラインドも何もない。あるのは外の風景、それだけだ。他になにもない。
高いビルの中に私はいた。最上階のレストラン。現実で訪れたのは一度切り。でも印象深い場所。多分死ぬまで忘れない。そんな場所。
窓辺の席に、私とユミコは座っていた。お互い向かい合って座っている。ユミコは頬杖を突いて外を眺めていた。
私は辺りを見渡した。食事をする客。静かに歩き回る給仕。シャンデリアに、燈台、それらの灯りを鈍く返す、銀器。我関せずな、陶器。真っ白なテーブルクロス。壁も天井も白い。囁くようなクラシック音楽。客も囁くように会話して、笑い声さえ囁くように控え目だ。
窓に目を向ける。外の風景はないに等しかった。夜だから暗い。曇っているのか星もない。そこまででおかしなところはなにもない。
夜景が見えなかった。真夜中だとしても、街のすべての灯りが消えるなんて、あり得るだろうか。停電でもしているのか。それとも、街そのものがないのか。闇が広がるばかりだった。地平線すら分からない。
「ふん」
私は鼻を鳴らした。マナーがいいとはいえない。せめて囁くように鼻を鳴らさなければならないだろう。
「もしかして、飲みすぎたの?」
ユミコが言った。ユミコは真っ白なドレスを着ていた。
ドレスコード。服装規定。エチケット。礼節や作法。罪に問われはしないけど、破ったならばたしなめられる。これ、エチケットやで。
「いやただ、いい景色だと思ってね」
窓を見る。
「こんな景色でも?」
「ああ」
「君といれば何だって綺麗に見えるさ、ってわけ?」
「まぁね」
「気のない返事」
「そうでもないよ」
「まぁ、引き込まれる景色よね。かまぼこみたい」
「えっ? かまぼこ?」
意表を突かれ、ワイングラスを倒しそうになる。黄色みがかった水面に、気泡がいくつか揺れていた。
ワイングラスを掴み、一口飲む。
「どうして、かまぼこ?」
「いや、ただ……。というか、どこ持ってんのよ……。みっともないよ」
ユミコに言われ、気づく。ワイングラスの脚ではなく、ボウルを鷲掴みにしていた。まるで、湯飲み茶碗を持つようにして。
「ここは茶室じゃないのよ」
くすりとユミコは笑う。
「……確かに、ここは、広いよね」
「動揺しすぎよ。かまぼこぐらいで」
「ごめん、ごめん」
「まったく……」
「かまぼこを愛する女」
「はっ?」
「こ、声が大きいよ」
「今、なんて?」
「かまぼこのどこら辺に引き込まれるのですか、と言った」
「長さが違いすぎない?」
「多分、飲みすぎたんだよ」
「ワインに酔う私じゃないわ」
「何になら酔うの?」
「バニラアイスかしら」
「……で、かまぼこの話だけど」
「……改まって聞かないでよ。ただ……どうしてあんな形なのかなって考えると、不思議だなって思うだけよ。ちなみに板に乗ってるやつね」
ユミコは目を瞑った。
「不思議……?」
ユミコに倣い私も目を瞑る。かまぼこが頭に浮かぶ。
「そう。魚のすり身をどうして、あんな形に固めたのかなって思うだけよ」
「魚でできてるってことは知ってるんだね」
「ええ……。そりゃあそうよ」
「よかった」
目を開ける。
ユミコはまだ目を閉じていた。
「円柱でも角柱でもなくて、板に引っ付いてる。不思議な形じゃない? そして、それ以上に不思議なのは形の名前。言い表す言葉は、それ自身なわけでしょ? かまぼこ形。かまぼこの形は、かまぼこ形。かまぼこ形という言葉は、かまぼこから生まれたわけでしょ? 珍しい形だから、特徴的な形だから、かまぼこ形の筆頭に選ばれた。この世に蔓延るすべてのかまぼこ形の代表に、かまぼこは選ばれた。
そうでしょ?
かまぼこよりずっと大きいもの。複雑なもの。自分よりずっと高尚なもの。自分よりずっと昔からあるもの。
それらの代表に選ばれてしまった。突然、前触れもなく。君が、これからは大黒柱だよって。
予期せぬ指名でも、かまぼこは役目を放り出したりはしなかった。もしかしたら……惰性で続けてきたのかも。そうだとしても立派だよね。惰性で何かを続けていても、それだけでも凄いこと。なあなあでも、惰性でも、流されながらでも、たとえ誰かの指示でも、何の役に立たなくても。
誰かがやらなくてはならないことをしている人は、それだけでもう偉人みたいなもの。凡人が偉人になるにはそれしかない。役目を負うこと。
……と、そんな風に、自然と妄想をしてしまうくらい、かまぼこの形は際立っている。それくらい、かまぼこの形は不思議」
そこでユミコは目を開いた。
「これだけ、かまぼこかまぼこ言ってると食べたくなってくるわね」
「確かに。でもすぐ食べちゃもったいないよ。形を楽しまないと」
「そうね。もったいなくて食べられないかも」
ユミコはクスクス笑った。それを終えると長い息を吐いた。
「それで?」
とユミコ。
「何かな」
と私。
「かまととぶるつもり?」
「まさか」
ユミコはまた頬杖を突いて、窓の外へ視線を向けた。
「貴方と出会った頃、私は向かいの校舎に立つ少女を眺めてた。覚えてる?」
「もちろん」
「私は……、あの少女の姿に、妹を重ねていた。最初は意図せず、妹の後ろ姿に見えた。……でも途中から、私は意図して、あれは妹だと思い込もうとした」
ユミコは視線を上げていく。私も窓を見る。窓の外は相変わらず闇ばかり。ユミコはまた口を開く。
「私は妹に死んでほしかった……。消えてほしかった、落ちてほしかった……」
間を置いて、
「妹はとっくの昔に死んでいるのに。おかしいわよね。でも、彼女があそこから飛び降りれば、妹も一緒に消えるんじゃないかって……。そう思った。見詰める彼女は多分、妹。おそらく、きっと、間違いなく、妹。だからこのまま落ちれば、妹は死ぬ。
下はコンクリート、高さもあるし、フェンスを乗り越えたなら、まず助からない。あのフェンスはただのフェンス。でも、生と死を別つフェンス。死者の国と生者の国の国境。生と死を別ける、分水嶺みたいなもの。
フェンスの上に立って、身体の重心が傾いた方へ、そのまま落ちていく。そしたらもう、絶対に後戻りはできない。あのフェンスはそういうフェンス。だから、死んでる妹さえ、殺してくれるはず。
私は、彼女があそこに立つ度、願っていた。いえ、呪っていた。
私は、彼女を呪い殺そうとしていた。彼女の死を想像して。
彼女は妹。彼女が死ねば、妹は消える。彼女が落ちてさえくれれば、私は救われる。本気でそんな風に思っていたの。
だけど、ある時から彼女は姿を現さなくなった。突然、前触れもなく。私は酷く後悔した。もっと強く願うんだったって。
それからしばらく経ったある日、図書館に行くと屋上に人影が見えた。だけど人影はすぐに身を屈めた。しばらく様子を覗ってみたけれど、何も変化がない。本当は誰もいなかったみたいに。私の気のせい? ……違う。今のは確かに妹だった。おそらく妹に勘付かれた。私が呪っていることを。だから私は、ありったけ呪った。次に姿を見せたなら、必ず呪い殺せるように。……だけどそれきりだった。
私は、急いで向かいの校舎の屋上へ行ったわ。やっぱり誰もいない。フェンスを少し登って下を見てみたけれど、何もなかった。キャンパスを人が行き交うだけ。もう日は落ち掛けていたけれど、みんな何処となく楽しそうだった。上から見たって分かるくらいに。ふと私は背後に目を向けた。
屋上は何だかとても暗かった。下はあんなにも夕日に染まっているのに。屋上はもう夜みたいに暗い。屋上だけが、世界から切り離されてしまったみたいだった。
このフェンスの向こうは死者の国だったはずなのに。
いつの間にか、生者の世界と死者の世界が入れ替わってしまっていた。私は死者の世界に独りで立っていた。
私はまだ生きていたはずなのに。
死んでしまったら、生者の世界には二度と戻れない。何をしても無駄。できることといえば、フェンス越しに声を掛けるくらいのもの。
私はまた下に目を向けた。
そしたら貴方がいた。
貴方の影は、長くて、尖っていた。貴方はなんだかしょんぼりしてて、とぼとぼ歩いていた。分かりやすくて、思わず笑ってしまった。上から見ても分かるくらいだから、相当しょんぼりしてるんだなって思って、可笑しかった。下に降りていって、顔を見てやろうって思ったぐらい。ちょっかいを掛けてやろう、意地悪してやろう、それとも励ましてあげようか、そんなことが頭をよぎった。
そうしている内に、日が落ちて、キャンパスも屋上も真っ暗になった」
そこでユミコはワインを一口飲んだ。
「あら、美味しい。大人味」
ユミコはそう言い、口許を手で隠す。ごめんあそばせ、というような仕草。まるで天女の真似事みたいな優雅な仕草。
「子供舌」
「何か言った?」
「いや何も」
「そう?」
「そうそう」
「その翌日、2人で食事に行ったの。覚えてる? 初めて食事に行った日」
「そりゃあ、もちろん。ファミレスに行ったんだ」
「よく覚えてるね。見直した」
「君は食事や飲み物の前に、デザートを決めていて、それが可笑しかった。あれで緊張がだいぶほぐれたよ」
「ちょっと笑わないでよ……。私はね、逆算してものを考える主義なの」
「逆算して生きる女」
「……ちょっと、あんまり馬鹿にすると、ボーイさんに拭くもの持ってきてもらって、その後でワイン浴びせるよ」
「ごめんごめん」
私は口許を隠した。
「何で口を隠すわけ?」
「いや、他意はない」
「へー」
ユミコは訝しそうな目を向けてきた。私たちはお互い、見つめ合う。そして、しばらくそうしていた。笑ったり睨んでみたり。もう私たちは目線だけで遊べる。目配せだけで、ふざけあえる。
「それから、いろいろなことを話したわね」
「食事の度に、話したね」
「貴方は生活やらが大変そうなのに、何も考えてなくて、びっくりしたわ」
「何もじゃないさ」
「そうだったかしら?」
「君のことで頭がいっぱいだった」
「また、口説く気?」
「いいよ」
「……まぁ、それはそれとして、貴方は将来のことから、何だか目を逸らしてるみたいだった」
「誰だってそうさ」
「貴方は特にそうだった。呆れるくらいにね。あれこれと私が心配してあげてるのに、とうの貴方は何も考えてなくて、何で私がこんなこと考えなきゃいけないのってね」
ユミコは軽やかに笑ったかと思うと、すぐに真剣な表情を浮かべた。
「初めて妹の話をしたときも貴方は平然としてた。他の人が向ける興味を向けなかった。他の人は必ず詳しく聞きたがったのに。
やっぱり何も考えてないのかしらって。不思議だった。何でって。どうしてって」
「君のことしか考えてなかった」
「……それはそれとして」
ユミコは一つ咳払いをした。
「私は多分、競争に勝ったんだと思う。先に生まれた方が生き残る、そういう競争に。負けた方は、羊水を最後の晩餐にして死んでいく。勝った方は新鮮な空気を吸うことができる。新しい方法で、酸素を身体に取り込むことができる。まるで進化していく動物のように。私たちは淘汰された。それが……どうしようもなく怖いの。
もし仮に、立場が逆だったら? 生き残ったのが妹の方だったら? 多分、何も変わらない。それが堪らなく怖いの。だって、遺伝子は一緒で、同じ境遇で。何が、どう変わる? 私と同じ顔で、同じ声で、同じように生きたはず。世界は少しも変わらない。それが怖い。何も変わらないって思うと、何だか震えがくる。
ほとんど誰も知らない、両親すら忘れかけている、名前のない妹が、怖いの。
親戚の言葉が、昔の親友の言葉が、気持ち悪い。『妹さんの分も生きなくちゃね』、妹の話をするとみんなこう言う。『妹さんの分も生きなくちゃね』、枕詞みたいに、まるで……、かるたで遊ぶみたいに、そう口にするの、面白そうに、笑いながら」
ユミコは顔を歪ませて笑っていた。
「分かったよ」
私は言った。
「何が?」
「いや、分かってるんだ」
「何かしら?」
「そういえば、今日は君の誕生日だったね」
「あら、そうなの?」
「こんな高い所、そうそう来れはしないよ」
「夢破れたわ」
「2人に別々の花を贈るよ」
「私と妹に?」
「そう」
「僕だけは2人を区別する。……いや、させてほしいんだ。誰にも、君に、君以外の余地なんか許させない。
君は、君だよ。怖いことなんか、1つもない。妹の分なんか、生きなくていい。君は、君の分だけ生きて、そして死んだらいいよ」
「あら、ひどいわ。台無しじゃない。えっ? えー?」
「かるただけにね」
「定型文だったりして?」
「違うよ。僕と一緒に生きてほしいんだ」
「後悔するかもしれないわよ?」
「糠に釘だよ」
「分かった」
ユミコは言った。澄ました顔をしている。手は、組んだり解いたりと忙しない。
私はまた口を開いた。
「それから……、妹さんには、こう言えばいい。もう夜だから、朝までゆっくり眠っていなさいって。夜更かしは子供の仕事じゃないってね。姉らしく厳しく言えばいい。それで納得しないなら、僕が話をつける。僕が遊びの相手になるって伝えて」
「分かった」
言ってユミコは指を組んで、それをぎゅっと握り締めた。私は手を伸ばしてユミコの手を解き、ユミコの片手を手にとった。そのまま私は言った。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「そして今日はそれだけじゃない」
「えっ? まだ、何かあるの?」
「知ってるくせに」
「私はね、かまぼこを愛する女だから」
「僕と結婚してほしい」
「了解よ」
私は懐から指輪を取り出し、ユミコの指に通した。その瞬間、辺りの景色が一変した。まるで写真のネガとポジが入れ替わるように、白色が黒色に変わった。
テーブルクロスも床も壁も天井も、すべて黒く染まっていた。黒は井戸の底のように深くて、見ていると、遠くを眺めているような錯覚を受ける。まるで、外の暗闇がビルの中に入り込んで来たようだ。
ユミコを見る。白いドレスが真っ黒に変わっていた。ドレスから伸びる細い腕と、首から上は、変わらず白い。ユミコはうつむいていた。髪に隠れて目許は見えない。突然、真っ赤な唇が変形した。規則的に変形が繰り返される。何かを言っている? でも声は聞きとれない。独り言にしては大袈裟な口の動き。何かを伝えるには小さすぎる声。遊んでる? からかっている?
日が落ちるように、室内はゆっくりと暗くなっていく。照明は確かに点いている。でも、その灯りは、まるで周りの黒色に光を奪われているかのように、ただ灰色に揺れていた。
いつの間にか周りの人々は消え、店にはユミコと私だけが取り残されていた。
すべてが暗く、遠くなっていく。相変わらず唇は、規則的に変形しつづけている。唇が一つ笑った。
唇の動きを読みとろうと、唇に目を凝らす。唇が近くなる。それ以外が遠くなっていく。視界に映るのは唇だけになる。
唇の動きを追っているうちに、呟きが口を衝いて出た。
「……教えて教えて、私に教えて」
私が声を発すると同時に、唇の動きが止まった。
口角が少し上がっている。口角は上げればいいってものじゃないんですよね。
ユミコの身体は、周りの黒色に混ざって消えかかっていた。
「……大丈夫か? ……消えそうだぞ」
自分の声であるはずなのに、どこか遠くから聞こえる。耳に水が入ったような、高所に登って耳がおかしくなったような、酷い違和感。
「貴方も素敵よ。もう消えてるじゃない」
「……えっ? ……消えてる?」
「素敵よ」
「……何が?」
「あなたのありさまが」
下を向く。
そこにあるべきものが、なかった。下半身がない。胴体も胸も肩も腕も何にもない。自分の顔を触ろうとした。でも、できない。ない腕は動かせない。
私はいつの間にか、声と視線だけの存在になっていた。
「あの時、約束したでしょ?」
「……あの時?」
「本当の、今日この日に」
「……何をだろう」
「遊び相手になってくれるって」
「……そうだったね」
「知りたいこと教えて? したいことやらせて?」
唇はげらげらと笑うようにうごめいて、やがて大きく開きすぎてしまったせいか、口の端がぷつんと切れて、上下二つに別れてしまった。上唇、下唇、それぞれ、のたくり、のた打ちまわる。やがてそれらは、2匹の蛭に姿を変えた。血をたらふく飲んで膨らんだ、真っ赤な蛭。
2匹はお互いの身体に食らいつき、血を吸いはじめた。
すると蛭は段々と小さくなっていった。塩を振られたなめくじのようだ。わぁーちっちゃくなっちゃったぁ、では済まされない地獄のような苦しみと死の恐怖。自分が消えていく過程を見せられること以上の恐怖があるだろうか。生きたまま内臓を抜かれていくようなものだ。最初は、これ。次は、これ。その次は、これ。そして裏側の、これ。左の、これ。これ。これ。これ。最後に、これ。
蛭は音もなく消えていった。断末魔も、勝利の雄叫びも何もなかった。
後に残るのは暗闇そればかり。
時折、空耳のような微かな声が聞こえるだけだ。
――教えて教えて、私に教えて――
それだけで何もない。
声はもう出せなくなってしまった。
――教えて教えて、私に教えて――
微かな声もやがて聞こえなくなる。空耳が聞えなくなったところで、特に驚きはない。声だけじゃない。こうして視線だけの存在になると、何もないのが当たり前に思えてくる。自分には暗闇しかなかった。そう思えてくる。
底の見えない谷のような暗闇。
谷底が段々と遠くなる。それに合わせ、日の光が見えてくる。小鳥の囀りに、豊かな森林、青い空、流れる雲。横から流れるのは、翌朝まで放送はありませんというテロップ。
いつから目を開けていたのか。眠っていたのか、それすら分からない。ソファーで横になるといつもこうだ。時間や場所、自分自身すら見失ってしまう。毛布を払い退け、身を起こす。
テーブルの上には、カップアイスの空容器が置かれていた。ユミコが捨て忘れたのだろう。ごみはごみ箱へ。捨てようと手を伸ばして、少しの違和感。カップには木のスプーンが入っていた。確か、ユミコは銀色のスプーンを愛用していたはずだが。
中を見て気がつく。スプーンではなく、木の棒だった。アイスキャンディーの棒だ。カップアイスだけでは飽き足らず、アイスキャンディーも食べたらしい。ゴミ箱に捨てようとカップを手にとると、棒に何か書いてあるのに気が付いた。
『あたりはずれがあるのが人生さ』と木の棒には書かれていた。『あたり』という部分は元々棒に印刷されていたものらしい。その後に『はずれがあるのが人生さ』と油性ペンか何かで付け足したようだ。子供のような悪戯だ。おまけでアイスが一本貰えただろうに。あたりを棒に振ってしまった。
眠気が目蓋の裏でごろごろしている。早く寝よう。ソファーでなく、ちゃんとベットで。ソファーで微睡むことほど気持ちのいいことはない。起きたときの後悔も忘れるほどに。やめようと思ってもやめられない。眠気にしてやられてしまう。
寝よう。
1日は短い。しかし寝不足であれば話は別だ。寝不足で挑むには、あまりに長すぎる。
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