第159話 あっ! これ、あるてまゼミでやった所だ!※
「あれを、この場で完全に滅ぼす事は不可能だ」
「ならばどうします? 何か策は?」
「ある。
ロイドの質問に、フェイトはそう答えた。
「では、もう一つは?」
「最上級儀式魔法を用いて、奴を冥界の最下層、
フェイトら冥戒騎士という最大の戦力なしで魔神将に立ち向かわねばならず、なおかつ儀式魔法を使う彼らに魔神将の攻撃を届かせてしまえば作戦失敗になる。ただでさえとんでもない強敵を相手にするというのに、更に縛りを設けるような無茶な作戦だ。ゆえに、フェイトはこちらを薦める事はなかった。
「後者の作戦でいきましょう。儀式魔法の準備をよろしくお願いします」
しかしロイドは迷う事なく、そちらを選んだ。海神騎士団の他のメンバーも、その意見に同意する。
「では、我々はこれより魔神将の注意を引き付け、足止めする! かかれ!」
ロイドの号令の下、騎士達は魔神将ビフロンスへと挑み……
「クリストフ! あと何秒だ!?」
「残り3分30秒です!」
「嘘だろ!? まだそんなに残ってるのか!?」
「言っている場合か! 範囲魔法が来るぞ、避けろ!」
およそ90秒後、彼らは壊滅寸前の状況に追いやられていた。
何しろ、相手は山のような巨体の持ち主であり、腕が何十本も生えている異形の怪物なのだ。その何十本もある腕の一振り、その全てが直撃すれば一撃必殺レベルの攻撃であり、しかも同時に上級・最上級魔法がひっきりなしに飛んでくる有様だ。
近付くだけでも一苦労な上に、こちらの攻撃が命中しても奥義や最上級魔法以外では殆どダメージが通らず、しかも相手の
流石はシリーズの各作品でラスボスを務めるだけの事はあり、どうやって倒せばいいんだ、こんな化け物……と絶望するのも無理はないだろう。むしろ、よく90秒も持ち堪えたと彼らを褒めるべきである。
彼らはよく頑張ったが、とてもこのまま5分も耐えられるとは思えない。このまま全滅し、作戦は失敗に終わるかと思われた、その時だった。
突如、暗雲を切り裂いて天より雷光が降り注ぎ、魔神将ビフロンスを撃った。
「ぐおおおおおッ! ら、雷神の雷だとッ!?」
突然の神雷による奇襲に、流石の魔神将も大ダメージと共に衝撃を受けた。
「何者だ……!」
魔神将ビフロンスが、そして地上の者達が視線を上に向ける。そして彼らは見た。暗雲の切れ間から差し込む陽光と、光に包まれたその者の神々しい姿を。
「やあ、兎先輩だよ!」
そう、兎先輩である。その真名は聖獣・玉兎。
太古の昔、魔神戦争にて魔神将と戦い、力を使い果たして衰弱していた雷神インドラの為に、己の身を炎に投げ入れた一羽の兎が、その優しさと貴い自己犠牲の心に感動した雷神によって、天に昇って聖獣として生まれ変わった存在である。
その手には、恩神である雷神より託された、金色の金剛杵を携えていた。
「そして受けるがいい、
兎先輩が持つ金剛杵より雷光が迸り、再びビフロンスを撃った。魔神将であろうと、思わずのけぞり硬直する程の凄まじい攻撃力だ。
兎先輩は魔神将ビフロンスを攻撃しながら、同時にコンテナボックスを掴んだ飛行ドローンを取り出して、それを放った。
「リン君! 君にご注文の品のお届け物だよ! お代は既にあるてま君から貰っているから、気にせず使ってくれたまえ!」
飛行ドローンはプロペラを回転させながら高速飛行し、そのまま海神騎士団に所属する魔術師の少女、リンのもとに降り立った。
「ご注文の品って、一体何の事……?」
リンは困惑しながら、ドローンが置いていったコンテナボックスの蓋を外して、中を覗き込んだ。その中身は……二挺一組の拳銃と、一枚のメモ書きであった。
「これは……!」
二挺拳銃を手に持つと、それは不思議とリンの手によく馴染んだ。そして同梱してあったメモにはただ一言、「STAGE46-5」の文字が。
それを見たリンは、目をかっと見開いて、叫んだ。
「皆! 全力で攻撃して、魔神将への道を切り開いて! あたしがあいつを止めるから!」
「「「「「了解ッ!!!」」」」」
その突拍子もない指示に、騎士達は迷う事なく頷いた。
魔神将に向かって一斉に突撃を開始する騎士達の背中を見ながら、リンは二挺拳銃を握りながら、魔法を詠唱し始めた。
この武器は、ただの拳銃ではない。頭のおかしい魔法戦士、永パ神拳創始者、妖怪青マント等の様々な異名を持つ超級廃人あるてまが愛用する物と同じモデルの特注品であり、魔法を弾丸として装填・発射する事が可能な『魔導銃』という名の武器だ。
「
リンが詠唱を終え、魔法を魔導銃へと装填する。すると、右手に持った魔導銃の銃身に、六つ付属している透明な宝珠の一つが青く発光した。
どうやら一つの魔導銃に、最大で六発まで魔法を装填可能なようだ。リンはそのまま引き続き魔法を装填しながら、魔神将に向かって走り出した。
そして騎士達は全力で、そんな彼女の為に道を作る。
「ゆくぞ! 『ライジングサン!』」
レオニダスが、跳躍と共に烈火を纏う
「合わせるぞ! 『聖火剛破斬』!」
それと同時にスカーレットが、炉の女神ウェスタより授かった聖火を宿した大剣を振るう。二人の攻撃によって、魔神将の腕が纏めて吹き飛ばされる。
そしてロイドが、リンに併走しながら、彼女を攻撃しようとする腕を次々に切り払う。
「邪魔だ! 『鬼鳴剣』!」
更に、父より受け継いだ音速の剣技による衝撃波が、触れる事なく無数の腕を吹き飛ばした。
「羽虫共が……図に乗るな!」
上空からはホバリング浮遊する兎先輩が雷撃やビームを撃ちまくり、地上では騎士達の捨て身の攻撃で次々と腕を破壊された事で、ビフロンスは激怒した。
「死ぬがよい! 『
ビフロンスが、残った数十本の腕から漆黒の光線を同時発射する。そのどれもが必殺級の攻撃で、具体的に言うと一発毎に魔法攻撃力の150%の闇属性ダメージ(闇属性耐性を-100%した状態でダメージ計算を行なう)を与え、更に命中した回数分、50%の確率で即死判定(即死耐性100%未満の場合、完全無視)を行なう、使用者の魔法攻撃力が高すぎるので一発当たっただけで大ダメージ、更に50%の確率で問答無用で即死、それが数十発まとめて襲ってくるというチート級の大技だ。
「あれを全部避けるのは無理だ! 相殺しろ!」
騎士達は各々、全力の攻撃で無数の光線を相殺しようとするが、あまりにも強力で数が多い為、完全に相殺するのも無理そうだ。このままでは犠牲者が出るのは避けられそうにない。誰もがそう思った時だった。
「今、ここで終わってもいい……アルティリア様、私に皆を護れる力を……!」
クリストフが魔法を詠唱する。唱える魔法は、彼には本来、使う事を許されていない最上級魔法。
発動する為に必要な魔力と、発動させた魔法を正しく制御する為の技量。それを満たさずに分を超えた魔法を発動させれば、反動で自らの身も無事では済まない。しかし、今この場にいる全員を救うには、その魔法を使うしかないとクリストフは判断した。ゆえに、
「『
クリストフは、その魔法を行使した。
本来は、
しかしその瞬間、クリストフの脳内に直接、声が響いた。
「汝の勇気とアルティリアに免じて、この一度だけ赦そう。……貴様ならば、いずれ正式な使い手となれるやもしれぬ。その時が来たら我が聖域に訪れるがいい。待っておるぞ、女神の使徒よ」
それは、大海神ネプチューンからの赦しであった。
「……ッ! 感謝いたします、大海の神よ」
「よい。さあ、我が裁き、あの醜悪な侵略者めに、存分に見せつけてやるがいい!」
クリストフが発動した『海神の裁き』によって、空間に開いた穴から無数の水流がレーザービームのように噴き出して、ビフロンスが放った光線を次々に相殺する。
「これで最後です!」
最後に、放たれた水を一点に集めて極太のビームを放ち、ビフロンスの頭部へと直撃させる。魔神将の桁外れのHPからすれば、そのダメージ自体は微々たるものだったかもしれないが、しかし隙を作るには十分であった。
魔神将が大きくのけぞったのを目にして、クリストフは反動ダメージによって力尽きた。息はあるようだが、戦闘を続行する事は不可能だろう。
そして遂に、リンが魔神将へと肉薄する。そうしながら、彼女は思い出していた。
あるてまが書いたメモに書いてあった『STAGE46-5』という文章。それは以前、彼の注文によって兎先輩から海神騎士団へと届けられた、VR訓練装置。そのコンボ練習モードのステージを表していた。
ステージ46の5段階目……それは、自由にさせれば即死級の攻撃を放ってくる巨大モンスターを、延々とコンボを繋げて浮かし続ける事で自由にさせず、そのまま殺しきるという物だった。
「
ほぼ密着状態から、魔導銃の銃口を向けて引鉄を引いた。すると即座に、装填していた魔法の一つが発動する。
「
強制的に相手を浮かし、吹き飛ばす風属性魔法が発動し、魔導銃の、緑色に光っていた二つの宝珠が消灯した。
「
リンは更に、装填していた魔法を間髪入れず、連続で叩き込む。そうしながら、蹴りを主体とする戦技を間に挟んでコンボ数を稼ぎながら、再び吹き飛ばし効果を持つ魔法を放つのを繰り返す。そうしてビフロンスの巨体を徐々に浮かせていった。
「俺達もいくぞ! まだ動ける者はリンに続け! 絶対に地上に落とさず、このまま延々と浮かし続けるんだ!」
「兎先輩もお手伝いするよ!」
「「「「「せーの! わーっしょい! わーっしょい!!」
ロイド達や兎先輩も参戦し、ビフロンスを延々と打ち上げ続ける作業が続く。見よ、これこそが永パ神拳・九の型『神輿』である!
「ば、馬鹿な……動けぬ! 何なのだこれは……!? だがその程度の攻撃で我を殺す事は出来ぬ! 貴様らの体力が尽きた時が最期だ……!」
ビフロンスはそう言うが、しかし彼らの目的はビフロンスを殺す事ではなく、あくまで時間稼ぎである。そして……約束の5分は、たった今経過した。
「いいや、時間切れだ。儀式魔法【
フェイト、アステリオス、オルフェウス……三人の冥戒騎士が、ビフロンスに向かって手を翳し、魔法を発動させた。
次の瞬間、ビフロンスの足元に奈落へと続く黒い大穴が開き、そこから無数の鎖が飛び出して、ビフロンスの身体に巻き付いた。
「ぐわああああ! な、なんだこの鎖は……我の力でも千切れぬだと……!? い、いかん! 吸い込まれる……! 馬鹿な! な、何故止まらん! う、うわあああああああああああ!」
そしてビフロンスは、奈落へと引きずり込まれていき……地上から、永遠にその姿を消したのだった。
「やった……のか?」
上空を覆っていた暗雲は消え去り、地上には光が戻った。
勇敢なる若者達の手によって、無事に魔神将は退けられ、王都に平和が戻ったのだった。
そして、魔神将ビフロンスが引きずり込まれた奈落の底では……
「お、おのれ人間共め……この屈辱、忘れはせんぞ……必ず地上に戻り、貴様等を滅ぼし尽くしてくれる……」
鎖に雁字搦めにされたビフロンスが、拘束から逃れようと藻掻いていた。そこに、何者かが声をかけてくる。
「残念だが、その時は永遠に来る事はない」
「何者だ!?」
その声にビフロンスが顔を上げると、そこに立っていたのは……豪奢な甲冑と兜、真っ赤なマントを身に纏い、先端が二又に分かれた槍を携えた偉丈夫であった。
「頭が高い。我こそがこの冥界の支配者、冥王プルートである」
そう、彼こそは偉大なる冥界の王、プルートである。その後ろには、冥妃プロセルピナと魔導の女神ヘカテー、死の神タナトス、魔獣ケルベロスと、錚々たる面子が控えていた。
「さて魔神将ビフロンスよ、冥界へようこそ」
そう声をかけて、プルートは二叉槍をビフロンスへと向けた。
「
魔神将ビフロンスは冥王の手によって、完全に消滅した。
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