第153話 第二次魔神戦争
王都を包囲する魔物の大軍との戦いは、俺が率いる王国軍&王都の民が優勢のまま進んでいた。
俺の参戦により士気が最大までブチ上がった人間達は、押し寄せる魔物達の侵入を決して許さず、城壁の外に単身躍り出た俺が、後方の敵陣を薙ぎ倒して指揮系統をズタズタにする。
「ええい、人間共はもういい! 女神を狙え! 奴を止めるのだ!」
敵の部隊を指揮している、他の奴より上等な装備をしたアンデッドモンスター……『マスターリッチ』が泡を食って叫ぶ。アンデッドの魔法型モンスターであるリッチ系の最強個体で、最上級の攻撃魔法や召喚魔法を使いこなす強敵だ。負けはしないものの、俺でもソロで倒すには少しばかり時間を要し、無傷で倒せるような相手ではない。
マスターリッチが指揮する魔物達に、俺への攻撃指示を出す。このまま俺を自由にさせていれば敗北確定と判断しての事だろう。その判断自体は正しい、が……
「今だ、アルティリア様に気を取られている奴等の頭に、
その声と共に、こちらに向かってきていた魔物の群れに、無数の矢が降り注いだ。それをしたのは、ケッヘル辺境伯が率いる部隊のようだ。
不意討ちで射撃を食らった魔物達の中心に、辺境伯が放った矢が着弾する。着弾地点を中心に暴風が巻き起こり、魔物達を派手に吹っ飛ばした。
「よくやった辺境伯! 実に良いタイミングだ」
「お褒めにあずかり光栄でございます、アルティリア様」
馬上で矢を放った姿勢から優雅に一礼した後に、辺境伯は周りにいる貴族らしき者達に指示を出し、別方向の敵部隊に向かって矢を射掛ける。狙いは正確で、長距離だというのにかなりのヘッドショット率を誇っている。大したものだ。
「おのれ! だが抵抗もここまでだ! 最上級儀式魔法を受けるがいい!」
マスターリッチが俺に向かってそう叫び、手に持った杖を振りかざす。
儀式魔法か……。儀式魔法とはその名の通り、集団で儀式を行なって魔力消費や反動を分担する事で、単体では行使できない高位の魔法を発動させる為のものだ。
儀式の為には専用のマジックアイテムや、儀式に適した地形、そして大人数が必要で準備に時間がかかるといった様々な欠点や制約はあるものの、術者の実力以上の魔法を少ない負担で使う事ができるという利点がある。
さて、そんな儀式魔法で、どんな凶悪な魔法を撃ってくるのか……と警戒したが、
「何だ、ただのメテオじゃねーか」
マスターリッチが使ったのは、上空に巨大隕石を召喚して落下させる最上級魔法『メテオストライク』だった。火属性・土属性・召喚の三種複合魔法で、その三種のスキル熟練度が全て、極めて高くなければ使えないというだけあって、その破壊力と攻撃範囲は確かに大したものだ。しかし。
「ただの単発メテオぶっぱ如きが、この私に通用するかボケがぁ!」
こちとら自爆覚悟で開幕爆速詠唱暴走メテオストームを連発してくる馬鹿(スーサイド・ディアボロス)とか、前線で近接戦闘しながら並列詠唱で後衛にメテオぶっ放しつつ、爆煙に紛れてアサシン軍団に奇襲させる馬鹿(あるてま)みたいな連中と常日頃からバチバチやり合ってたんだよ。PVPガチ勢なめんじゃねえ。
しかも都合よく敵陣で孤軍奮闘してる俺に向かって撃ってきたので、周りの味方を護る必要もない。というわけで着弾の瞬間に
いくらLAOでトップクラスの魔法防御力を誇る俺でも、流石に直撃したら結構痛かったとは思うが、なら避けちゃえばいいよねって事だ。というか、これくらいは出来ないとワールドレイドボスとの戦いで一撃死クラスの範囲攻撃を避け損なって死ぬので、廃人連中なら全員、俺がやったのと似たような方法で回避できるだろう。あとクロノみたいなガチガチのタンク連中なら普通に盾で受けられると思う。
「何なんだぁ……今のはぁ……?」
「ば、馬鹿な!? 効いていないだと!?」
メテオストライクが巻き起こした爆煙の中から無傷の状態で出てきた俺を目にしたマスターリッチが、恐怖した様子で後退する。
「もう終わりか? ならお返しだ!」
俺は『
そんでもって、着弾直後に『
さーて、これで大体戦局は勝勢に傾ききった頃合いだし、さくっと残敵を掃討して終わりにするか。
俺がそう考えた時だった。
「伝令! ロイド様が敵将との戦いの結果、勝利しましたが重傷を負い、意識不明の重体です!」
伝令の水精霊が、そんな報を知らせてきた。
「何ぃ!? で、あいつは無事か?」
「命に別状はありませんが、治療が完了するまで今しばらく時間を要するかと」
「そうか……しかし今のロイドに深手を負わせるとは、相当な強敵だったようだな」
「はい。敵は魔神将ビフロンスの配下、首無し剣士と申す者で……その正体はかつて反逆者の汚名を被せられ、処刑された元王国貴族、ジョシュア=ランチェスター」
「おい待て、ジョシュアだと? 確かその名前は……」
「はい。ロイド様のお父上です。ロイド様は死闘の末に、魔神将によって蘇り、その配下になっていた父親を打ち破り、その魂を魔神将のもとから解放されました」
「……そうか。ロイドは随分と辛い戦いを乗り越えたようだな」
幸い、この戦いももうすぐ終わりそうだし、ゆっくり休ませてやりたいところだ。そう思っていると、何者かが上空から、俺のすぐ近くに降り立った。その人物は、俺がよく知る相手だった。
「お久しぶりです、アルティリア様」
「フェイト殿か!? 援軍に来てくれたのか。感謝する……」
「いいえ。たまたまロイド殿に加勢はしましたが、私の本来の役目は伝令です。アルティリア様、すぐにグランディーノにお戻りください。危機が迫っております」
「何だと!? どういう事だ?」
「この王都への襲撃と時を同じくして、グランディーノに対しても海から魔物の大軍が襲撃を開始しました。現在はグランディーノの海上警備隊や船持ちの冒険者達が防衛に当たっていますが、敵の数が多すぎて苦戦を強いられている模様です。更に……」
おい、まだ何かあるのか?
「これはアルティリア様には直接は関係の無い事ですが、ルグニカ大陸やハルモニア大陸、それからこの大陸の西側でも、同時刻に大規模な魔物の襲撃が発生したとの事。……まるで神代に起きた、かつての魔神戦争の時のように、世界中で同時に魔神将勢力による攻撃が起こっているのです」
「何だと……!?」
魔神戦争の再来……それが今、起こっているというのか!?
流石に魔神将72柱が全員で襲ってきて、神々と世界各地でガチバトルを繰り広げた当時に比べればだいぶマシな状況だろうが、それでも相当やばい事になっているようだ。
フェイトの言う通り、グランディーノの方はかなり苦戦しているようだし、王都を襲ってきた魔物共はだいぶ片付いたから、急いで帰還するべきか。
その為に、まずは海神騎士団の皆やアレックス、ニーナと合流しなければならない。そう考えた矢先に、それは起こった。
地鳴りと共に、王宮が吹き飛んだ。
比喩でもなんでもなく、王宮がその下から現れた巨大なナニカに持ち上げられて、文字通りに空高く吹っ飛ばされて、バラバラの瓦礫と化したのだ。
「……は?」
王宮の下から現れたのは、天を衝くような巨人であった。
しかしそれは血も肉も持たぬ、無数の手を持つ、地獄のようにドス黒い瘴気を纏った、巨大な骨の怪物だった。
「魔神将……ッ!」
あんなとんでもなく巨大で、醜悪で、凄まじい威圧感を放つ存在が普通のモンスターの訳がない。
顕現してしまったのだ。魔神将の本体が。
「って、そんな事より王宮には……!」
アレックスとニーナ、海神騎士団の主要メンバーはまだ王宮に残っていた筈だ。俺は慌てて神としての
それによると……負傷している者が多いが、どうやら全員生きてはいるようだ。しかし問題はアレックスとニーナだ。二人は無事なのかと肝を冷やしていると……
「ガオオオオオオオオオオン!」
上空から、飛竜の咆哮が響き渡った。
「あれはツナマヨか。という事は……」
俺がかつて打倒し、従えた後はニーナのペットと化した飛竜が、俺の近くに降下してきた。その背中にはニーナとアレックス、それから数名の神殿騎士が騎乗していた。あとは見覚えのない、身なりの良い金髪の美青年も乗っている。
「二人共、無事だったか……」
子供達が無事だった事に思わずホッとするが、安心している場合ではなかった。
いきなり王宮を吹っ飛ばして、王都のド真ん中に巨大な化け物が現れたのだ。王都の住民はパニックになって、開け放たれた門から王都の外に続々と逃げ出している。
「やるしか無いのか……!」
突然現れた魔神将によって、戦いは新たな局面に突入したのだった。
◆運営チームからのお知らせ◆
大規模イベント『第二次魔神戦争』を開始します。
世界各地に魔神将勢力が同時襲撃を行なう、これまでにない規模のイベントになっております。
イベントの詳細については続報をお待ちください。
なお、対象のゲーム・エリアは以下の通りです。
『ロストアルカディア・オンライン』
ルグニカ大陸
ルグニカ王国・王都ルグニカ
ルグニカ王国・旧都アグニカ
ハルモニア大陸
ヴァリエール王国・王都ティオール
サラブリア共和国・首都タンザーナ
※イベントにはLv100以上かつメインクラスが最上級職にクラスチェンジ済のキャラクターで参加可能です。
『ロストアルカディアⅦ Goddes of Ocean(オンラインモード)』
ルフェリア大陸
ローランド王国・港町グランディーノ
ローランド王国・王都ローランディア
※イベントには王都ローランディアに到達済みのキャラクターで参加可能です。
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