第二次魔神戦争編
第133話 王宮襲撃
辺境伯の家に招かれた数日後、俺は招待状を持って、王宮を訪れていた。
馬車を降りた先には真っ赤なカーペットが城の入口まで敷かれており、その左右には兵士達が直立不動でずらりと並んでいる。
馬車の中から俺が姿を現すと、兵士達は一瞬驚いた様子を見せたが、大半の者はすぐに平静を装った。よく訓練されているようだ。
しかし中には俺に視線を向けながら、だらしなく鼻の下を伸ばしている者もいるが、彼らは他の兵士から自分に向けられている厳しい視線には気付いていないようだ。ご愁傷様である。
そんな俺の恰好は、胸元を大胆に露出させた、青いドレス姿だ。スカート部分の丈が長く、ヒールの高い靴を履いているので実に歩きにくい。
俺の後ろには子供用の礼服やドレスで着飾ったアレックスとニーナ、その後に、鎧の上にサーコートを着た、完全武装の海神騎士団が続く。司祭のクリストフだけは鎧姿ではないが、式典の際に着る高級な法衣に身を包んでいる。
俺を先頭にゆっくりと歩みを進め、俺達は王宮へと足を踏み入れた。入ってすぐに、俺達は立派な鎧を着た近衛騎士たちに出迎えられた。
「ようこそいらっしゃいました、女神様とそのお連れの皆様。王の下へとご案内いたします」
どうやら王様もお待ちかねのようで、俺達は一切待たされる事なく、城の奥へと案内された。
まず俺達は、賓客用の控室に通された。部屋は広く、清掃が行き届いており、調度品も上質な物ばかりだ。
「お連れの皆様は、こちらでお待ちください」
彼らを残して、俺は一人だけ案内される。これから向かうのは、謁見の間ではなく、王の寝室。プライベートな空間だ。
普通は王にとって信頼の置ける者のみが入る事を許される場所だが、そこに俺が案内される理由は、一言で言ってしまえば、公の場で顔を合わせると色々と面倒臭い問題があるからだ。
国王というのはあえて言うまでもなく、国のトップであり凄く偉い人だ。そして俺は、数多くの信者を抱える女神……という事になっており、凄く偉いエルフである。
そんな凄く偉いA君とBちゃんが初めて顔を合わせるにあたって、問題が一つ。
「で、どっちの立場が上なんだい?」
という事である。
普通に考えれば神>人、という事で俺のほうが立場は上になり、向こうが頭を下げて俺を迎えるべき……って話になるのだが、事はそう簡単な話じゃない。
このローランド王国は王家の下に大小様々な貴族が仕える封建制国家であり、名目上、諸侯は王家に対して忠誠を誓ってはいるものの、決して一枚岩ではない。貴族は、王家が強大で逆らうと危険であり、また大人しく下につく事でメリットがあるからこそ従っているのだ。中には純粋に忠義を尽くす者もいるが、そんなのは少数派だ。
そういった油断のならない貴族達を従える王様は、言葉を飾らずに言えば「ナメられたら終わり」な職業だ。失態を犯し、隙を見せたならば、諸侯は即座にそこを腹を空かせた啄木鳥みたいな勢いで突っついてくるだろう。
俺もそこそこ名前が知られるようになってきたとはいえ、それでも王国の中には俺の事をよく知らない貴族も多い。そんな彼らにとって俺は、言ってしまえば、
「なんかよく分からない、女神を名乗る妖しげな乳のでかい小娘」
でしかないのである。
そんな状態で国のトップである王様が俺に頭を下げれば、王が侮られ、権威に傷がつきかねないのだった。
そういう訳で、公の場ではなくプライベートな空間である王の寝室へと向かっている次第だ。なので寝室に向かっているといっても、別に王様に夜伽を命じられてエッチな事をしに行くわけではないので安心してほしい。万が一俺に対してそれを要求した場合は、その日がローランド王国の命日だ。
「この先が王の寝室になります。このままお進みください」
長い廊下の先に扉があり、そこが王の寝室のようだ。俺にそう声をかけて控えようとした近衛騎士だったが、俺は彼を呼び止めた。
「……待て。血の匂いがする」
「なっ!?」
部屋の扉からはそれなりに距離が離れているが、それでも微かに感じる事ができる程度には、血の匂いが濃い。
「ついて来い! 嫌な予感がする」
近衛騎士にそう命じながら、俺は寝室へと急ぐ。近付くにつれて、より血の匂いが強くなってくる。俺の隣を走る騎士も、嗅ぎつける事が出来たようで顔に焦りの表情を浮かべている。
「まさか王の身に何かが……! ええい、護衛の者達は何をしている……!」
「最悪の場合、護衛諸共やられている。その場合、敵はかなりの手練れだ。警戒を怠るなよ」
「ははっ……!」
そんな会話を交わしながら、俺達はすぐに王の寝室へと辿り着いた。そして扉に手をかけて、一気に開け放った。
すると、その先にあった光景は……
「へ、陛下あああああああっ!」
部屋の中心、床の上に仰向けで倒れた、国王らしき初老の男性。そしてその周りには、倒れ伏す甲冑姿の騎士達の姿があった。
部屋の床や壁には赤い血が飛び散っており、実に凄惨な光景だ。また、血だけではなく、部屋中が不自然に透明な液体で濡れているのを、俺は見逃さなかった。
「陛下……そんな……」
王に駆け寄って、彼の身体に触れた近衛騎士が、絶望の表情を浮かべて涙を流している。どうやら、もう生きてはいないようだ。
「諦めるな!」
俺は彼に近付いて一喝し、魔法を詠唱する。死体や室内の様子を見る限り、何者かの襲撃にあい、死んだのはほんの少し前の事のようだ。ならば十分に間に合う筈だ。
「
自分の周囲に居る者を完全回復状態で蘇生させ、更に
それによって、王とその護衛達は息を吹き返した。
「おお……陛下が蘇った……! 女神様、ありがとうございます……!」
「礼には及びません。それよりも、早く彼らを安全な場所に。肉体は完全に回復させましたが、意識を失ったままです。早く休ませてあげるべきでしょう。しかし、その前に……」
俺は愛用の三叉槍を取り出して……部屋の隅にあった、不自然な水溜まりへと向けた。
「そこの者、出てこい」
俺が告げると、そこにあった大きな水溜まりから、ずるり……と音を立てて、何者かが這い出てきた。その人物こそが、王とその護衛を襲撃・殺害した犯人である事は疑いようがない。
しかし、人物とは言ったが、そいつは正確には人間ではなかった。
上半身こそ人間に酷似したものだが、前腕部には鱗が生えており、指先からは鋭利な刃物のような長い鉤爪が伸びている。また、人間であれば本来耳がある箇所には、魚のヒレのようなものが付いている……と、明らかに人間離れした箇所が幾つかある。
そして、下半身は人の物ではなかった。びっしりと鱗が生えたそこは、魚のものであった。
その者……彼女は青緑色の髪に紫の瞳を持つ、
「おや、見つかってしまいましたか」
整った顔に嗜虐的な表情を浮かべて、その人魚はニタリと嗤った。
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