第96話 突撃! 魔物の森※

 森に入った三人の子供達は、そこに現れたという正体不明の魔物を調査する為に、痕跡を探す事にした。

 巨大なドラゴンであるツナマヨは、森に入るには大きすぎる為、外で待機している。代わりにニーナに付き従っているのは、村で仲間にした狼たちだ。

 獣道を進みながら探索をしていると、彼らはすぐにそれを発見した。


「これは……足跡ですわね」


「ああ。人の足跡に似てるが、かなりでかいぞ」


「狼さん達も、これが変なやつの足跡だって言ってるよ」


 どうやら件の魔物は、かなり大型で人間のように二足歩行するタイプの生物のようだ。


牛頭巨人ミノタウロスとか食人鬼オーガみたいなやつか?」


 過去に交戦・撃破した事のある大型の人型モンスターを思い浮かべながら、アレックスは呟いた。

 どちらも素早さや器用さ、魔力は低いが、代わりにその巨体に見合った高い筋力と耐久力を持つ敵だ。そして、ただでさえ大きい上に、人型ゆえに武器を使う事が出来る為、かなり広い間合いを誇るのが厄介なところだ。

 鈍重ではあるものの、長いリーチと高い攻撃力という単純だが強力な組み合わせを攻略できず、命を落とす初心者は多い。


「気をつけていくぞ。ニーナ、狼たちに横や後ろを警戒させろ」


 自身は先頭に立って前方を観察しながら、妹にそう指示を出して、アレックスは森の奥へと進んでいった。

 そして十分ほど進んだ時、彼らは開けた場所に出た。そこは木が生えておらず、背の低い緑色の草がまばらに生えた、広場のような場所だった。

 そこには丸太とボロ布を組み合わせて作られた、粗末な大型のテントや焚き火といった物があり……そして、広場の中心には、焚き火を囲む5体の魔物の姿があった。


 五体の魔物は、全員が似通った見た目であり、同一の種族である事が伺える。先程発見した足跡から推測した通りに、やはり大型の人型モンスターであった。


 そのモンスターの特徴は、以下のようなものだった。

 まず身長は、多少の個体差はあるが、直立状態であれば平均で2メートル少々といったところか。確かに大きいが、牛頭巨人ミノタウロス岩巨人ロック・ゴーレム等に比べれば、まだ常識的なサイズだ。

 肌の色は濃いめの、やや黒ずんだ肌色だ。衣服は一応身に付けてはいるが、腰や腹部に布きれで作った腰布を巻いただけの状態であり、肌の多くを露出している。

 体型は、かなりの肥満体で、腕に足、胴体とあらゆる場所が太く、ブ厚い。特に腹は丸く膨らみ、大きく前方に突き出している。

 そして最も特徴的なのが、その頭部だ。全体的なシルエットは一応人型をしているが、その頭部は人間の物とはかけ離れていた。


 それは、豚であった。大きい鼻と、その下から生えたイノシシのような2本の牙が特徴的な、豚に酷似した顔が巨大な肥満体の上に乗っかっていた。


 その魔物の名を、オークという。


 5匹のオーク達は広場の中心に集まり、焚き火を囲んでいた。更に彼らが囲んでいる焚き火をよく観察してみれば、彼らは焚き火を使って何かを焼いていた。

 それは、木の杭で貫かれた、大猪ラージ・ボアの死体であった。


「もう食っていいかブヒィ?」


「まだ生だブヒ。もっと焼いてからブヒィ」


「まだブヒィ? 腹減ったブヒィ……」


「つべこべ言わねーで回せブヒィ! ぐるぐる回して、全体にまんべんなく火を通すと美味いんだブヒィ!」


「ところで今更ブヒけど、こいつ俺らとちょっと似てるブヒィ。食って大丈ブヒ?」


「こまけー事気にすんなブヒィ! うめーから大丈ブヒィ!」


 どうやらオーク達は、森に棲んでいた動物系モンスターである大猪を仕留めて、丸焼きにして食べようとしているようだった。


「なんだあいつら」


 それを観察していたアレックスが抱いた感想は、


「変な魔物だ」


 の一言に尽きる。

 人語を話す魔物は時々いるが、この魔物達のように原始的ではあるが住居を作ったり、料理をするような魔物は初めて目にした。

 あの魔物達は見た目に反して、知能はかなり高いのかもしれない。そう考えて、アレックスは警戒を強めた。


「ん? 誰だブヒィ?」


 その時だった。オーク達が一斉にアレックス達の存在に気が付き、こちらに視線を向けてきて、お互いの視線が交差した。

 戦いになる可能性を考え、子供達はいつでも戦闘態勢に移れるように備える。だがその前に、オーク達が口を開いた。


「なんだブヒィ、獣人と人間のガキかブヒィ」


「ここは俺達の縄張りブヒ、人間は帰るブヒィ」


「ロリには興味ないから見逃してやるブヒィ。次は乳とケツがでかいチャンネーを連れてくるブヒィ」


「俺は興味津々ブヒけどYesロリータ、Noタッチの原則に従って、眺めるだけで我慢しておくブヒヒィ」


「こいつロリコンだったブヒィ!?」


 凶暴そうな見た目に反して、どうやら彼らは戦うつもりはないようだ。あるいは、こちらを脅威と認識しておらず、1体を除いて特に興味も無さそうである。

 それを感じ取ったアレックスは構えを解き、オーク達に歩み寄った。


「話がしたい」


 アレックスはオーク達にそう提案した。しかし、それに対するオーク達の回答は、


「だが断るブヒィ」


「俺達は肉を焼くのに忙しいブヒィ」


「人間と話す事なんか無いブヒ。ガキはさっさと帰れブヒィ」


「犬耳ショタも有りだなブヒィ。妹っぽい猫耳ロリとセットで二重にブヒれる」


「こいつ変態ブヒィ!?」


 という冷淡な物であった(約1名を除く)。


「どうするんですの? 向こうは話を聞く気はないようですわよ?」


 ボコりますの? と、カレンは弓矢を構えようとする。お嬢様は思考が蛮族に染まっているようだ。


「いや、それは最後の手段だ。その前に、おれに良い考えがある」


 そう言って、アレックスが道具袋から取り出したのは……黒光りする中華鍋だった。

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