第92話 前作主人公がパーティインしました
俺は手にした槍を、目の前の相手……冥戒騎士フェイトに向かって突き出した。予備動作なしで、最短距離で繰り出される刺突を防げる奴はそうそう居ない……筈なのだが、フェイトは最小限の動きで一歩、横に逸れる事でそれを回避した。
それを追うように、続けざまに槍で薙ぎ払う。その攻撃は、彼が手にした大鎌による斬り上げで弾かれ、俺の持った槍が跳ね上げられた。
「やはり力では敵わんか……」
俺がどちらかといえば後衛タイプなのもあって、真っ向からのパワー勝負は不利ってレベルじゃないな。あっさり力負けする。
すかさず、ガラ空きになった俺の胴に向かって大鎌が振るわれる。直撃したらひとたまりもないので、俺は足元に生成した水の上を滑るようにして、一瞬で大きく後退して距離を取った。それと同時に水弾を15発同時に放って牽制するが、フェイトは大鎌を風車のように回転させてそれを弾き飛ばすと、その回転の勢いを利用して大鎌を俺に向かって投擲した。
車輪のように高速で縦回転する大鎌を、氷の壁を出現させて食い止め……その瞬間、ほんの僅かに目を離した隙に視界からフェイトの姿が消えている事に気付き……半分くらいは無意識で、背後に向かってノールック後ろ蹴りを放っていた。
「くっ……!」
しっかり命中した手応え。いや足応えか? とにかく、俺が放った蹴りは背後に回っていたフェイトに直撃し、咄嗟に腕でガードしたようだが、それでも十分なダメージを与えつつ吹き飛ばす事に成功した。
「そこまで! 勝者、アルティリア様!」
審判を務めていたロイドがそう宣言すると、俺とフェイトは同時に構えを解いた。
「流石です、アルティリア様。 読まれていましたか」
「いえ、偶々です。後僅かでも気付くのが遅れていたら、結果は逆になっていたでしょう」
そう言って謙遜するが、俺が勝てたのはフェイトの動きのパターンを、散々ゲームで見て覚えていたのが大きい。
さっき彼がやった、
沈没船での冒険から帰ってきた次の日、俺達は海神騎士団の訓練所にて模擬戦を行なっていた。
最初は騎士団員達とフェイトが手合わせをしていたのだが、フェイトが連戦を全く苦にもせず団員達を次々に瞬殺していった。
ロイド、スカーレット、ルーシーの三人はまだ何とか勝負にはなっていたが、残りのメンバーは30秒も持たずに、ほとんど最初の攻撃で倒されていた。
で、そんな無双モードのフェイトを見ていた俺は、折角だから俺も混ぜろよと模擬戦に乱入してみたのだった。理由は同格以上の相手と戦う機会がなかなか無かったので、俺のスキルアップの貴重なチャンスであった事と、ストレス発散の為である。
今回は何とか俺が勝ったが、実際に戦ってみた感じ、やはり地力ではフェイトのほうが俺よりも上だろうと感じた。ルールも先に直撃を与えた方の勝ちという一撃ルールでの模擬戦だった為、これが実戦であればまた話は変わってくるだろう。
そんなフェイトだが、海神騎士団の客将として、グランディーノに滞在する事が決定した。
とはいえ、ずっとこっちに居る訳ではなく、冥王の側近としての本来の仕事もある為、冥界とこちらを行き来する感じになるようだ。それでも心強い、貴重な戦力である。冥王様には頭が上がらんな。
これは是非とも何か礼をしなければ……と考えたところで、一つ思いついた事があった。
「ところでフェイト、一つ提案があるのですが……この街に冥王様の神殿を建てませんか?」
俺の神殿と同じように、冥王プルートの神殿を建てる事で彼に対する信仰を集める事を、俺は思いついた。
フェイトの地上での滞在先にもなるし、彼には地上に居る時は冥王の名代として布教活動を行なって貰えば、冥王やその配下であるフェイトの戦力も増すのではないだろうか。
「よろしいのですか!?」
「よろしいですとも。冥王様には今回、大変お世話になりましたし、貴方がこれからこの街で活動する拠点としても相応しいでしょう」
というわけで、俺は信者に対して一斉に言葉を伝える権能『
『今回、私が大変お世話になった冥界の神、冥王プルート様の側近であらせられる、冥戒騎士フェイト殿がグランディーノに滞在する事となりました』
『フェイト殿は冥王様に仕える冥戒騎士団の団長にして、かつて魔神将エリゴスを討伐した英雄でもあります』
『そんな彼が仕える冥王プルート様は、死後の世界である冥界を治める大神であり、死者に対し、生前の行ないに応じて裁きを下す役割を担っています』
『その役割から恐ろしい神だと誤解されがちですが、死が生きとし生ける者全てに平等に訪れるように、公正で厳格な神様です』
『さて、今回はそんな冥王プルート様への感謝を込めて、またフェイト殿の地上における活動拠点用に、グランディーノ郊外に冥王神殿を建築したいと思っております』
『その為の協力者を広く募集します。我こそはという者はグランディーノに集まるように』
よし。これできっと協力者が集まってくれるだろう。
とか考えていたら建築家や作業員のみならず、資材を提供する商人や出資しようとする貴族など、予想を遥かに超える人数が集まり、急ピッチで建築が進められる事になった。
聞くところによると、俺の神殿を作る時も似たようなノリで人が集まったらしいが、今回はそれに輪をかけて人や物が集まったようだ。
フェイトに対して興味を持ち、話しかける者も数多くいた。また、彼に対して冥王についての質問をする者もだ。
「騎士様、冥王様はどうすれば我々が犯した過ち赦して下さるのですか?」
「冥王様が罪や悪行を見逃す事は無い。だが同時に、善行や償おうとする心を見逃す事も無い。罪や過ちを犯したならば悔い改め、善を成すがいいだろう」
不安そうに訊ねる商人の男に対しては、そのように答えた。次にフェイトの前に出たのは、修道服を着た神官の女だった。
「騎士様、なぜ人は必ず死ななければならないのですか? その定めから逃れる事はできないのでしょうか?」
「生と死は表裏一体。ゆえに生を受けた以上、死もまた必定である。生死の境界は冥王の領域ゆえ、その定めを侵す事は許されない」
「では……死ぬ事が逃れられない運命ならば、なぜ私達は生きるのでしょうか」
「その答えは、それぞれが限りある生の中で見つけるしかない。ただ、私の意見を述べるならば、死は辛く苦しいだけの物ではなく……いつか必ず終わるからこそ、限りある生を大切に出来るのだと思う」
悩める修道女の問いにも、彼は真摯に向き合っていた。
ただし彼は優しいだけでなく、神殿に寄付をすれば悪行に対して目を瞑ってくれる事を期待して来るような貴族や成金に対しては、毅然とした態度で喝破しており、その姿に庶民は喝采を送った。
そんな感じでグランディーノを中心に、地上に冥王信仰が蘇るのだった。
「生前に善行を積み重ねたり、偉業を成し遂げれば死後に楽園へと導かれ、逆に悪い事をすれば、死後に冥王によって罰が下される」という話は子供への教育や、人々に法や秩序を守らせるのに大いに役に立ったという。
こうして外部協力者ではあるが、頼もしい仲間がグランディーノに滞在する事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます