第58話 俺は女神様だからな
恐れていた事が起きた。魔神将の本体が出てきてしまったのだ。こうなる前にカタを付けたかったのだが、どうやら遅かったようだ。
今にして思えば、こういった事態になる前にもっと手を打てたんじゃないかとも思うが……後悔先に立たず。今更考えても仕方が無い事でもある。考えたところで事態が好転する訳じゃないし、時間と思考力を浪費するだけなので脳内からシャットアウトする。
俺が今考えるべき事は、この状況をどうするかって事だけだ。
正直、本体が出てきた時点で打つ手無し、負け確という酷いクソゲーではあるんだが、だからといって諦めるわけにもいかないのが辛いところだ。
勝てる気はしないが、この場で……いや、この大陸であれと戦えるのは俺しか居ない。他の誰が戦っても一瞬で消し炭にされるだろうが、俺なら時間を稼ぎつつ、あれの力をある程度削るくらいの事は出来る……筈だ。
まあ、それをやれば俺は確実に死ぬだろうが……それは仕方がない事だ。
俺はここら一帯の人間達が崇める神様、つまりトップだ。だからあれが出てくるのを止められなかった責任を取る必要がある。
それに、俺を信じてついて来てくれたロイド達や、信者の人間達を護らなければならない。うちの子になってくれた可愛い子供達、アレックスとニーナもこの町にいる。
正直、死ぬのが怖い気持ちは勿論ある。だが俺を信じてくれる連中を見殺しにするような事をすれば、俺は彼らの信仰や信頼を受け取る資格を永遠に失うだろう。キングやクロノ、バルバロッサ……向こうにいる友達とも、二度と胸を張って会う事は出来ないと思う。
ああ、それは嫌だな。死ぬ事よりもずっと怖い。
「だったら、やってみせるさ……なんたって俺は、女神様だからな」
ぼそりと呟き、俺は愛槍の柄を握る手に力を込めた。
「ロイド、私はあれを倒しに行きます。貴方達は住人を連れて逃げなさい」
「なっ……!? 俺達も共に戦います!」
「いいえ。あれとまともに戦えるのは私だけ……貴方達が居ても、何の役にも立ちません」
俺の言葉に、騎士達は悲痛な表情を浮かべた。あえて厳しい言葉をかけて切り捨てたが、事実だ。それにそうしないとこいつら、間違いなくついて来るからな。
「頼みましたよ。流石にあれを相手にしながら、住民を気にかける事は出来そうにありません。貴方達が皆を護るのです」
そう言い含めて、俺は彼らに背を向けた。
「アルティリア様、ご武運を!」
「どうか無事にお戻りください!」
「女神様! どうか勝利を!!」
「アルティリアさまー! がんばってー!」
騎士達や町の住人達がくれる声援を背中に受けて、俺は町の外へと走った。
「アルティリア様、我ら
そんな俺に併走するように、周りには呼んでもいないのに水精霊達が集まって来ていた。
「
俺は上級・最上級の水精霊を伴い、屹立する炎の巨人へと近付いた。どうやら奴は降臨してから何もせずに、俺が来るのを待っていたようだ。まあ、何もせずに突っ立ってるだけでも辺り一面が焼け野原になる大惨事なんだが。
「お待たせ、待った?」
「我も今来たところだ……と言うのだったかな、こういう時は」
俺の軽口に、フラウロスは律儀に付き合ってくれた。
「何のつもりかは知らんが、わざわざ何もしないで待っててくれた事については礼を言うべきかな? おかげで護る手間が省けた」
「問題ない。我がこうして顕現した以上、人間共の死は時間の問題だ。それに貴様を嬲り殺し、それを見た絶望した人間達をゆっくりと焼き殺していく方が、より楽しめるからな」
「そういうのを、捕らぬ狸の皮算用って言うんだぜ。可哀想だが余裕ぶっこいたせいで、お前は史上初の人間を一人も殺せず滅んだ魔神将として、歴史に名を残す事になるな」
「虚勢もそこまで行けば実に大したものだ。褒美に死をくれてやろう」
さて、挨拶代わりのハッタリと口プロレスで場も暖まってきたところで、そろそろ始めるとしようかね。
「お前が死ぬんやで」
俺の人生で最初の、そして……おそらく最後になるであろう、勝算の全く無い戦いってやつをな。
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