魔神将決戦編
第50話 50話記念だからという訳ではないが、サイズが一つ上がった
「アルティリア様! やりましたぞ!」
朝から神殿を訪ねてきて、俺の顔を見るなりデカい声でそう叫んだのは、真っ赤な髪とヒゲのゴツいおっさん、海上警備隊副長のグレイグ=バーンスタインだ。
「朝っぱらから騒々しいですよグレイグ。それで何をやったのです?」
「おぉっと、これは失礼! 喜びのあまり、つい」
はっはっは! と笑いながら頭をガシガシと掻き、グレイグは頭を下げて謝罪をしてくるが、やはり声がでかい。
アレックスとニーナは早寝早起きの健康的な生活を送っているので、とっくに起きて朝釣りに出かけているが、もしもこの筋肉親父の大声で子供達の安眠妨害をされていたら軽くブン殴っていたところだ。命拾いしたな。
「本題に入りますが、ようやく国から新型艦の建造許可が下りましたぞ」
そう言ってグレイグは、一枚の紙を俺に差し出してきた。
そこには小さい字で色々と細かい事が書いてあるが、要約するとローランド王国の名の下に、海上警備隊に対して新型の戦闘艦を建造する事を許可するという事が、国王の署名や王室の印章と共に記されている。
「それは朗報ですね。完成すれば戦局が大きく有利になるでしょう」
魔物の活発化によって、グランディーノの町や近隣の村には毎日のように魔物が襲ってきている。
襲撃は散発的で規模もそれほど大きくない為、住民や冒険者達、そしてうちの神殿騎士達の働きのおかげで大した被害もなく対処できており、むしろ彼らにとっては丁度いい
陸地のほうはそれで良いのだが、問題は海だ。
陸と同じく、海のほうでも魔物が暴れ回っており、漁業や船での貿易に悪影響が出ているのだ。
グランディーノは俺が居るし、海上警備隊の連中も頑張ってくれているのでまだ被害は少ないが、西のほうにあるテーベという港町や、他の港では結構な被害が出ているとの事だ。
俺や水精霊達も、ちょくちょく出向いては近海の魔物を掃討してはいるんだが、俺達だけでは流石に手が回りきらないのが現状である。
そこらの船よりも速く水中を移動できる俺と違って、他の者達は船が無ければ海上を移動し、海の魔物と戦う事はできない。その為、海における俺達の戦力を増強するには、より性能の高い戦闘用の船を多く用意する事が必要不可欠だ。
しかし、だからと言って好き勝手に戦闘艦を建造する訳にはいかないのだ。
まず第一に、予算や材料、それに船を作る為の人員の確保だ。
これに関しては領主の援助や俺のポケットマネーがあるし、グランディーノには各地から人がどんどん集まって来ていて、働き手には困らないので大した問題では無いのだが……問題はもう一つあり、重要なのはそちらだ。
問題なのは、海上警備隊という組織は国家に属する軍ではなく、あくまでグランディーノの町に所属する警備隊でしかないという事だ。
彼らの任務はグランディーノの港および近海の警備や防衛であり、その職務の為に必要であると認められた戦力しか、保有する事を認められていない。
まあ、少し考えてみれば当たり前の話である。辺境のいち警備隊が、好き勝手に強力な戦闘艦をポンポン造って良いわけがない。そんな事をすれば最悪、国家への造反を疑われたり、諸外国を刺激して戦争の引鉄になったりする可能性すらあるのだ。
なので、新しい船を作るには魔物の活性化で海での被害が増大しているから、戦力の増強が必要ですよという事をこの国や他国の偉い人に説明して、戦力を増強する許可を貰う必要があったのだ。
そこらへんは領主が熱心に働きかけてくれて、俺からも是非とも早急に頼むと大司教さんを通じて口添えをしたので、かなり早く許可を貰う事ができたのだった。これで、ようやく船を造る事ができる。
「ではグレイグ、すぐに港に人を集めてください。私も準備を終えたら、すぐに向かいます」
「はっ、了解であります!」
俺は一度部屋に戻り、作業服に着替えた。
俺が着たのは『
「……なんか、気のせいか更に育ってないか? 先月に着た時はもうちょっと楽だった気がするんだが……。後でサイズ直しとくか……」
着替え終わった俺は道具袋を持ち、神殿に常駐している水精霊達に暫く留守しがちになる事を伝えた後に、ぼやきながら港へと向かった。身に着けているツナギのファスナーや、ブラのホックが悲鳴を上げる音を無視しながら。
そして俺は、港の造船所を訪れた。そこには海上警備隊の隊員達や船大工、労働者達が勢揃いしていた。
俺の姿を見ると、彼らは一糸乱れぬ動きで整列し、一斉に跪いた。
「お待たせしました。それでは早速、船を造りましょう。皆さん、部品は出来ていますね?」
「「「「「はい、アルティリア様!」」」」」
確かに新しく船を造るには許可が必要で、許可が下りるまで船を造る事は出来なかった。それは確かだ。
しかし、船の部品を作る事までは禁止されていない為、許可が下り次第いつでも造れるように、図面を渡して各部品は作らせて保管しておいたのだ。後はこれを組み合わせて船を造るだけよ。
海上警備隊が元々使っていたのは、ガレー船のような大量の長い
このタイプの船の利点は、無風や微風、逆風の時でも問題なく動かす事ができ、小回りが利く点だ。
しかし一方で、人力で動かすので多くの人員を必要とし、船体の大型化が難しい。そして最大速度にはどうしても制限がかかるし、長時間の航海は難しいといった様々な欠点を抱えている。
そこで、新型艦は複数の帆を張って、それによって生まれる揚力によって進む帆船タイプを採用した。
それに加えて、乗組員の魔力を使って推進力にしたり、周囲の水や大気を操って航海をサポートしたりできる『
魔力変換機はその名の通り、魔力を別の力に変換する……いわば魔力で動くエンジンのような物だ。LAOで大型船舶や飛空艇を作る時には必ず必要になる物で、俺の船にも当然搭載されている。
実に画期的で、船の高速化や飛空艇の実現に一役買った偉大な発明ではあるのだが、欠点として大型で製作コストが高く、燃費もイマイチな事が挙げられる。
これを使って船を高速で動かす(通称ブースト状態)には、プレイヤー自身のMPを大量に消費するか、魔法が得意な船員NPCを雇う必要がある。
一応、外付けの魔力タンクもあるにはあったのだが、これがまたクソみたいにデカいし重いので、どうしても船の速度が下がったり積載量が減ったりするせいでプレイヤー達には不人気だった。こっちは俺の船には非搭載だ。
この魔力変換機に関しては、現状俺以外に作れる人間が居ないので、新しい船のために全て俺が新しく手作りした。
一応、こっちの大陸にも銃や大砲は存在するので
俺も専門ではないが、一応スキルレベル1500くらいまでは上げているので、一定水準まで指導して、知識や技術の引き上げをする事は可能だろう。
しかし、こうなると無い物ねだりではあるが、魔導機械の専門家……バルバロッサや兎先輩の手を借りたいと思ってしまうな。
二人共メインクラスが機工師系の最上位職で、バルバロッサのほうは大型の重火器や超重量級の戦艦といった、超大型・大火力・高コストと三拍子揃った男の浪漫を形にした物を次々と生み出す変態にして、OceanRoadが誇る海洋四天王の一角だ。
そして兎先輩というのは俺のフレンドで、βテストからずっとこのゲームをプレイしている一級廃人だ。
兎先輩はバルバロッサとは真逆で小型で精密な兵器の開発・運用に長けたお方だ。現状、魔力変換機の小型化に成功し、そのレシピを保有している唯一のプレイヤーでもある。常に兎の着ぐるみを着用しているせいで種族や性別といった中の人の情報は一切不明だが、身長が極端に低いので、恐らくは小人族だと思われる。
「先」「輩」という漢字が描かれた浮遊する二つの球体型自律兵器『先輩玉』や、機械で出来た小型の兎型兵器の群れ『
そんな回想をしながら作業を監督していると、労働者達が汗を滝のように流し、暑そうにしているのに気が付いた。
「ふぅ……しかしなんだか、今年は暑いな……」
「ああ。もう秋になるっていうのに、まだ真夏みたいな暑さだ」
俺は『水精霊王の羽衣』のおかげで自分の周りが常に快適な温度を保たれているし、住居である神殿内も精霊達によって適温に調整されているせいで気が付かなかったが、どうもここ最近は妙に暑い日が続いているみたいだ。
元々この地方は亜熱帯くらいの気候で、暑い日が続いても、
「まあ、そういう事もあるだろう」
と流しがちになりそうだが……仮にこの状態がこのまま続くようであれば、何らかの異常事態が発生している可能性は高い。
杞憂に終わるかもしれないが、早めに調査をさせた方が良いかもしれないな。何か起こってからでは遅いし、気になった事は早めに調べるに越したことはない。
「無理をしないで、体調が悪くなる前に小まめに水分補給をして、体を冷やすようにしなさい」
俺は魔法で飲み水や冷却用の氷を作って、体調を崩す者がいないかをよく観察する事にした。
そうして新艦隊を造るために造船所に通い詰めて、半月ほどが経過した頃。
合計十二隻の新型戦闘艦が完成し、うち十隻が海上警備隊に、残りの二隻が領主の率いる領邦軍に配備された。
新型艦は三本のマストに幾つもの帆が張られた帆船で、海上警備隊が元々保有していた物よりもだいぶ大型で、細長い形になっている。
素材も上質な
左右両舷にそれぞれ8門、計16門の新型大砲を備えて火力も比べ物にならないくらいに向上した。
最高速度・巡行距離・防御力・攻撃力と、全てにおいて大きく改善されたこの船を使って、海上警備隊はいよいよ本格的に、海の魔物を掃討する作戦を開始した。
それによって、大陸北部の近海における魔物の脅威度はかなり低下し、安全な航海が出来るようになっていったのだった。
しかし、その一方で問題も発生していた。
一つは、もうすっかり夏が終わり、秋になったというのに一向に下がらない気温だ。むしろ、どういう訳かより一層蒸し暑くなる一方であり、体調を崩す者も度々出ているという話だ。
そしてもう一つだが、俺のブラの紐が遂に限界を迎えて死んだ。
おかげで持っている服や下着のサイズを調整する為に貴重な時間が丸一日潰れた。
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