第45話 周りにやべーやつが多くて自己評価が低い系主人公

 キングの船に乗り、最寄りの港町まで送ってもらった俺は、そこを新たな活動拠点にする事に決めた。

 王都から遠く離れた寂れた港町には、他のプレイヤーキャラクターの姿はほとんど無かった。しかし物好きな少数の者達はそこを拠点としており、マイノリティ同士のシンパシーを感じたのもあって、俺はすぐに連中と仲良くなった。

 狩りもメインクエストも放っぽりだして、海で生きる変わり者……後に海洋民とカテゴライズされる者達の一員となった俺は、釣りや泳ぎをはじめとする生活スキル磨きに精を出し、採集や生産で船の材料を集めて、小さな船を作った。

 一週間くらいの間、ひたすら材料集めに専念して、ようやく小型帆船を完成させた時には、周りの連中も大いに祝福してくれたものだ。


「よし、アルティリアの船も完成したことだし貿易するぞ貿易するぞ貿易するぞ」


「また貿易するぞBOTが出たぞ! みんな逃げろ!」


「くっ、ここは俺に任せて先に行けぇ!」


 キングが貿易するぞという言葉をひたすら繰り返す機械と化した瞬間、周りの連中がわっと盛り上がった。


 貿易は、各拠点の貿易品商人から買った貴重な品を、馬車や船を使って遠くの町まで運搬し、高く売る事で収益を得るコンテンツだ。貿易品の相場は常に変動する為、上手く高騰している品を遠くまで運んで売る事が出来れば、巨額の銭を得る事が出来る。

 生活スキルの中には貿易スキルもあり、売買を繰り返してこれのレベルを上げれば、より多くの利益を得る事が出来、また特別に貴重な品を取り扱う事も出来るようになる。

 ついでに、得た利益に応じて経験値を得る事も出来るので、職業が商人だったり、戦闘が苦手なプレイヤーのレベル上げにも適している。


 ただし気を付けるべき点として、運搬中はモンスターの他に、山賊や海賊といった貴重品を狙う敵に襲われる可能性があり、また他のプレイヤーに襲われて、貿易品を奪われるリスクもあった。


「よし、出航だ! 行くぞお前達!」


 キングの号令で、貿易品を積載量ギリギリまで積み込んだ船団が港を発つ。

 港から別の港へ、そしてまた次の港へ……と次々に貿易品を運んで取引を繰り返し、ほんの1~2時間程度で俺の操船スキルと貿易スキルはかなり上昇し、経験値やお金も良い感じに稼ぐ事が出来た。


「俺は基本的に毎日こうやって船貿易をやってるから、気が向いたら一緒に来な」


 そう誘ってくれたキングの言葉に甘えて、俺は奴とつるむようになった。

 生産や船を操っての大型海獣や海賊船との戦闘、大洋とそこに点在する島の探索など、俺は奴から多くの事を教わった。


「しっかしキングの奴やべーな。あいつランキングの一位取りすぎじゃね?」


 LAOにはランキングシステムがあり、戦闘面では総合レベルや職業レベル、レベルや装備、習得済みアビリティ等から算出される戦闘力、モンスター討伐数、レイドボス討伐の貢献度などの様々な項目でランク付けされ、上位に入賞したプレイヤーには豪華な報酬が与えられる。

 生活・生産の面でも各生活スキルのレベルや生産数、生産品の納品クエストの達成貢献度、稼いだ金額に総資産といったランキングが存在していた。


 ランキングが表示されているウィンドウを開いて見れば、キングは生活スキルレベルのランキングでは全て上位5位以内に入っており、うち半分以上は1位を取っていた。

 他にも多くの項目で1位を取っており、特に水泳、貿易、操船のレベルや期間内に稼いだ金額、総資産あたりは2位を大きく突き放すぶっちぎりのトップだ。


「まあキングだしなぁ。それよりこのクロノって奴もやべーぞ」


「ああ、アブソのサブマスだろ。あいつの堅さ頭おかしいよな。ワールドボス行くといつもボスのまん前でタゲ取ってるぞ」


 俺と一緒にランキングを眺めていた海洋民がチャット欄でそんな噂話をしているのを、俺はぼんやりと眺めていた。

 クロノ。戦闘関連のランキング1位を独占している、とんでもなく強い廃人らしい。そいつが所属しているらしい最大手の戦闘系ギルド『アブソリュート』の名前くらいは俺でも知っていた。

 しかし陸で真っ当に活躍している一級廃人と関わる事など無いだろうし、俺には関係の無い事だとスルーした。

 ……この時はまさか、そいつが海洋民に転向して同じギルドに所属し、海洋四天王として一括りにされるとは夢にも思っていなかったんだよなぁ。


 まあ、クロノと関わる事になるのは、この時よりだいぶ後になるので今は奴の話はいい。問題はキングだ。


 うみきんぐ。奴には最初に会った時に助けられ、それ以降も海洋民としての心得を教えて貰ったり、奴の貿易に同行して稼がせて貰ったりと恩はある。恐らく他の海洋民の皆もそうなのだろう。

 奴こそが海洋民のトップであり、他の者達は奴の手下や子分みたいなものだという風潮が、プレイヤー間に広がっていた。

 違うのかと言われれば、実際に俺達は色々と奴の世話になっているので反論のしようが無いし、キング自身も本人が王様気取りで態度がクソデカいのはともかく、別に俺達の事を下に見ている訳ではなく、対等な友人だと思ってくれているという事は分かっている。


 しかし俺は、他の連中にキングの舎弟のように見られる事が、そして何より俺自身が、奴を手の届かない格上の存在だと認める事が、我慢ならなかった。

 だから、キングと対等である為に、俺は何か一つでもいいからあいつに勝ちたいと、そう思ったのだ。

 その為に俺が選んだのが……水泳スキルだった。

 水泳は俺がこの道に進んだきっかけになった原点であり、思い入れのあるスキルだ。極めるならばこの道がいい。

 そして俺は……ログイン時間の9割以上を水中で過ごし、戦闘は海獣を相手に水中で戦いながら鍛え、採集も海底で採れる貴重な食材や海洋資源を集める事でスキルを鍛えつつ、手に入りにくいそれらを販売して資金を稼ぎ、その金で素材を購入して鍛冶や裁縫の技術を鍛えながら装備を整え、再び海に潜っていった。


 そんなプレイスタイルを長いこと続け、『深海エルフモドキ』『間違えてエルフに転生したマーメイド』『常に水中に居る変なの』等、様々な異名が付けられる有名プレイヤーになった頃、俺はようやくキングを抜き去り、水泳スキルランキングで1位を獲得したのだった。


 それからはキングが海洋民を集めてギルドを作ると言い出したので、特に他に入る当てのあるギルドも無かったため参加したのはいいが、結局は時々GvGに顔を出す程度で、基本的に水中でソロ活動してばかりいた。


 その後はバルバロッサの奴が略奪大好きな海賊プレイヤーを纏めてギルドを作り、海の覇権を賭けて俺達に決戦を挑んできて、LAOの歴史に残る大規模海戦の末に俺達のギルドが辛勝し、バルバロッサ率いる海賊達はギルドを解散し、そのメンバーは俺達のギルドに吸収されたり。

 効率を求めすぎてギスギスしていたトップギルド『アブソリュート』が、人間関係が原因で崩壊し、それが理由でゲームから引退しかけていたクロノを俺達が強引に船に乗せて海に連れ出し、その結果クロノが最強の騎士様から伝説の漁師王にジョブチェンジしたり。

 とにかく色んな事があったが、それらの件についてはまたいつか、別の機会に話そうと思う。


 キングの奴とは長いこと一緒にいたが、結局は泳ぎと、ガチャやレアドロップの運くらいしか勝てなかったな。

 後者に関しては俺に勝てる奴はそうそう居ないだろうし、キングに負けるレベルの屑運な奴が居たら逆に見てみたいが。

 バルバロッサの奴にも船を操って大砲を撃ち合うタイマンの海戦では勝った事が無いし、クロノと正面から殴り合えば一方的にボコボコにされる。

 今は女神とか呼ばれて持て囃されているが、俺は所詮その程度の腕前のプレイヤーでしかない。


 しかし、そんな凄い連中や、他の誰よりも速く泳げるって事は、俺にとっては胸を張って誇れる事だったりするんだな、これが。

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