第19話 裏タイトル:ロストアルカディアⅦ ~Goddes of Ocean~

 草生える。


 いや何がって、ロイドの死因だよ。

 本人や周りの人間からしたら笑い事じゃないんだろうが、それを聞かされた時は思わず吹き出すのを堪えるのに必死だった。


 魔力マナの反動による反動死は、LAOにおける初心者魔法職の死因ナンバーワンである。

 それぞれの技や魔法に設定された、必要なステータスの数値やスキルレベルが足りていないのに、無理に上級の魔法を使おうとして暴発&反動死するのは、初心者がよく通る道であり、俺も初心者だった頃にはやらかした事がある。


 反動で思い出したが、数多くある魔法の中には『隕石召喚メテオ』や『大崩壊カタストロフ』『超新星爆発スーパーノヴァ』といった大災害を引き起こすような超級魔法も存在し、それらは俺クラスに魔法を極めたプレイヤーが、自分の特化系統の物に限って、ようやく安全に発動できるレベルの代物だ。

 俺が使える超級魔法は『海神の裁きジャッジメント・オブ・ネプチューン』や『大津波タイダルウェイブ』等幾つかあるが、そのどれもが水属性だ。一応、他の属性の超級魔法も使えなくはないが、使えばほぼ確実に反動で死にかけるだろう。しかも水属性に特化した俺が使っても水魔法ほどの威力は出ない為、デメリットに対して使うメリットが小さすぎる。なので使う機会は無いだろう。


 ちなみに、世の中には反動上等で死にかけながら超級魔法を連打するような、トチ狂ったプレイヤーも存在する。一発撃つ度にHPとMPを全損しながら死に戻りゾンビアタックを繰り返すような変態だ。

 そう、あれは俺がまだ『俺』、LAOプレイヤーの日本人男性だった頃。俺はギルド間戦争GVGに傭兵として雇われて参加した事があった。

 その時に敵側のギルドに雇われていたのがその男。キャラクター名は、スーサイド・ディアボロス。ダークエルフの男で、メイン職業は大賢者アークウィザード。魔法攻撃力と詠唱速度に極振りし、いきなり出てきては超速詠唱で超級魔法をブッ放し、反動で勝手に死んでは数分後にまた出てきては別の超級魔法ぶっぱ、以下エンドレスという、傍迷惑な対人ガチ勢にしてLAO日本サーバーが世界に誇る、令和の時代に蘇った特攻兵器だ。

 当時ヤツと戦った時には、それはもう酷い目にあったものだ。思い出したくもないので詳しい説明は省く。


 ロイドや信者達にはあの変態のようになってほしくはないので、今後は無理に上級魔法を使うような真似は慎むようにと、きつく言い含めておいた。


「という訳で加護ドーン!」


 信者達から集まった信仰心を数値化したFPがいっぱい集まったので、新しい加護を取得する。

 なんか知らんけど昨日また物凄い勢いで増えたんだよなぁ。

 というわけで、今回取得した新しい加護は……こちら!


 『能力強化:魔力+』

 あなたの信者のステータス『魔力MAG』の値と成長率にプラス補正。


 『属性耐性強化:水属性+』

 あなたの信者の水属性攻撃に対する耐性にプラス補正。


 『生活強化:料理+』

 あなたの信者の生活スキル『料理』の値と成長率にプラス補正。


 一気に三つ追加だ。

 ついでにEX職業『小神』のレベルも上がり、新しい技能も手に入れた。

 それがこちらだ。


 『神罰パニッシュメント(アクティブ)』

 あなたの怒りを買った者に対して使用可能。

 発動後、対象に与えるダメージを大きく上昇させる。

 ただし、対象のレベルがあなたのレベル以上の場合は効果が無い。


 完全に戦闘用の技能だ。

 昨日現れた、地獄の道化師という魔物との戦いを経た事で目覚めたのだろうか。

 そう、穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた伝説のスーパーエルフ神が覚醒したのだ。

 これは今後の魔神将との戦いで役に立ちそうだ。


 そう考えたところで思い出した。

 ロイドとの通信によれば、敵が魔神将の配下を名乗っていたそうだ。


「よりによって魔神将かぁ……」


 魔神将。その名前には心当たりがあった。俺でなくても、LAOプレイヤーなら皆聞き覚えがある名前だろう。


 魔神将……それはLAOにおける、全プレイヤーが協力して進めるグランドクエストの討伐対象であるユニークボスモンスター。

 および、その前身であるコンシューマーRPG、ロストアルカディアシリーズの歴代ラスボス、またはそれに準ずる存在である。


 そもそもロストアルカディアシリーズは初代から最新作のLAロストアルカディアシックスまで、全て同一世界の異なる場所・時間を舞台にしていた。それは、オンラインゲームであるLAOも例外ではない。

 そして、それら全ての作品で世界の敵として存在感を放っていたのが、魔神将というボスモンスターだ。


 魔神将はソロモンの使役する72柱の魔神がモチーフになっており、元ネタ通りに全部で72体存在するらしい。

 LAシリーズの各作品でラスボスとして1体ずつ討伐され、LAOでも年に1回くらいのペースで出てきては全世界のプレイヤーが総出でボコって、これまでに3体が撃破されている。

 つまり、俺が知っている限り、魔神将は9体倒され、残りは63体である。


 ……で、どうやらこれが、この世界にもいるっぽい。

 どうも長い間、姿を見せていないので詳細はわからないとの事だが、それでも恐怖の象徴として名前が伝わっている程度には恐れられている存在のようだ。


「……って事はこの世界、やっぱりLAシリーズの世界なんだろうなぁ」


 それはほぼ確定事項として扱うが、問題が一つある。

 あのシリーズの世界はアホみたいに広く、LAOを含めた7タイトル全てで別の場所を扱っているにも関わらず、それは世界のほんの一部に過ぎないのだ。

 一応、LAOでは原作シリーズに登場した範囲も含めて、相当な広範囲を扱ってはいたものの、それでも俺が知る限り、世界地図の3/4くらいは謎に包まれている。

 なので、ここがLAシリーズの世界だとしても、原作に登場していない時代や地域である可能性は高いのだ。そもそもロイドの話に出てきた、ローランド王国とかグランディーノの町なんて聞いた事も無いしな。


「って事は、原作知識とか通用しなさそうだなぁ……」


 元々はLAOとはまるっきり無関係な異世界に飛ばされたと思っていたので、原作知識とか全く当てにもしていなかった。

 そしてここがLAシリーズの世界だとしても、本来であれば特に必要だとも思わず気にしていなかっただろう。

 だが、魔神将に目をつけられたとなれば話は別だ。


 前述の通り、魔神将は各タイトルで英雄達と最後に激闘を繰り広げた末に討伐されたラスボスであり、LAOでも全世界のプレイヤーがタコ殴りにして、ようやく撃破できるレベルの大ボスである。

 なので、俺が一人で戦って勝てるような存在では決してない。


 魔神将の本体は狭間はざまと呼ばれる異次元に存在しており、本体がこの世界に干渉してくる事は滅多にない。

 そのため、すぐ直接対決する羽目になるような事はないと思うが……連中に敵として認識された可能性が高い以上、油断はできない。

 奴らの攻撃に対する、備えが必要である。


「……そうだな。ここは信者達に頑張ってもらおう」


 俺一人では魔神将の本体には太刀打ちできない以上は、他の誰かの力を借りる必要があるのは確定的に明らかだ。

 そうなるとその候補として上がるのは、俺に信仰を捧げ、俺が加護を与えている相互互助関係にある信者達である。


「というわけで、君達には英雄になってもらおうじゃないか」


 方針は決まった。

 信者の皆にはこのまま魔神将を倒せるくらいに強くなってもらおう。その為に俺は加護やアイテムなんかで彼らをバックアップするのだ。

 最終的にはLAOの廃人級に育った彼らに魔神将を討伐させて、俺はその背後で腕組みして師匠面でもしていれば良いんじゃないだろうか。

 おっ、何だかいける気がしてきたぞ。


 というわけで本日のログボは……これだ!


 『大英雄の教本』

 【タイプ】

 消耗品/書物

 【効果】

 使用者が獲得する経験値と戦闘スキルの熟練度を2倍にする。

 効果時間は使用から3時間。


 課金アイテム『大英雄の教本』だ。

 過去の英雄が書き記した古い書物であり、一度読むと朽ちて無くなってしまうが、そこに記された偉大な経験を垣間見る事によって、読んだ者の成長を促す代物だ。

 課金アイテムのため、それなりに貴重な品であり、あまりストックは多くないが、1個消費するだけで信者全員に配れるとなれば使う価値はあるだろう。


「信者達よ、これを使って更に成長するのです……」


 俺はいつでもお前達を応援しているぞ。

 それを使ってレベルアップして、俺のかわりに魔神将をフルボッコにしてくれ。



 後に結局、最前線で信者達と一緒に戦う羽目になる事を知らず、この時の俺はそんな風に考えていたのだった。

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