《ウェンディーの災難》

「ここは何処だ?おい、ウェンディー起きろ!」




俺はとりあえずウェンディーにデコピンを当てて起こす。




「痛いっ!?って、何処よここ?」




いや、それを教えるのが役目だろ?サポートだよなお前。




「はあ。」




思わずため息が出てしまう。




「ちょっと、レイア様はどこ行ったの?ここは何処よ?」




はあ。




「お前が気絶してる内に飛ばされたんだよ。この世界の大精霊達から道具を使って力を吸いとって眠らせて来いだと。」




俺はそう言って石を見せる。




「あら、封印石じゃない。って、大精霊!?嘘でしょ?どういう事よ?」




そういえばウェンディーは気絶してたから話を聞いてないよな。仕方ない。説明してやるか。




「暴走してる大精霊を眠らせるね。つまり、封印石で力を吸いとってあげれば勝手に眠りについてくれる訳ね。しかも、闘う必要もないなら簡単じゃない。この封印石なら近づかなくても力を吸いとる事が出来るから私でも出来るくらい簡単よ。」




近づかなくてもいいのか。それなら確かに簡単かもな。




「それで?大精霊達は何処にいるの?」




簡単そうな任務に安心しているとウェンディーがそんな事を聞いてくる。




「いや、知らないけど?そういえば、何も詳しいことは説明されてないな。」




そもそも、大精霊って何体いるんだ?




「ちょっと!?慌てなさいよ!手掛かりもなしにどうやって大精霊を探すっていうのよ?」




うるさいな。何を慌ててんだよ。




「落ち着けって。案内の精霊を呼んであるって言ってたから大丈夫だ。」




俺がそう言うとウェンディーが怒って飛びかかってくる。




「そういう事は先に言いなさいよ。慌てて馬鹿見たいでしょうが!」




飛びかかってくるウェンディーを躱して辺りをみる。案内の精霊ってのは何処にいるんだ。




「なあ、そもそも精霊って普通は見れないはずだよな?大精霊達や案内の精霊ってどうやって見つけるんだ?」




フェリア達と旅をしてたときに精霊を見たことはあるけど、あれは特殊な条件が揃ったから見えただけで普通は精霊を見る事は出来ないはず。




「それなら大丈夫よ。精霊が見えるようになってるはずだから。レイア様から見える様にして貰ってるはずよ。」




レイアが?うーん、レイアがそんな事をしてくれるとは思えないけど本当に見える様になってるのか?




「とりあえず、ここにいても仕方ないし洞窟から出ない?この世界がどんな所かも知りたいでしょ?」




そうだな。案内が現れないなら外に出てみるか。





外に出るため洞窟内を歩く俺だが、思ったより魔物が多くて苦戦している。それというのも。




「助けてケント」




ウェンディーが魔物に集中的に狙われているせいだ。トカゲの魔物の舌がウェンディーを捕まえようと伸びてくる。




「チッ。」




伸びた舌を切り落とす。ここの魔物はウェンディーしか興味がないのか俺には向かって来ない。仕方ないから俺の服の中に隠したのに狙ってくるんだから相当だ。




「何でこんな集中的に狙われているんだよ。どんどん魔物がやって来るんだけど。なあ。」




魔物を倒しながら進むが邪魔で仕方ない。




「知らないわよ!何なのよ。何で私ばっかり狙って来るの?」




泣きそうな声でそう答えるウェンディー。本当に心当たりはないらしい。仕方ない。




「ウェンディー。足を引っ張るサポート役って最悪だな。」




俺がそう言うとウェンディーが泣きそうになる。




「なんでそんな事言うの!?」




いや、まあ原因はハッキリしてるけどな。




「いや、まあウェンディーのせいではないけど八つ当たりかな。ってか、この状況で何で気付かないかな?これ、絶対レイアの仕業だろ?多分、妖精が好物の魔物がいるところに送られたんだよ。ウェンディーへの嫌がらせの為だけに。」




絶対そうだろ。俺に簡単に倒せるのは目的がウェンディーを怖がらせる為だけだからだ。今ごろ何らかの方法でウェンディーを見て楽しんでいるはず。レイアならやりそうな事だ。




「ハッ!?そういえば、ここって昔鬼ごっこした場所に似てるような。ううん、間違いなく同じ場所よ。あの時も洞窟だったし。レイア様の管理してた世界だから間違いないかも。」




やっぱりか。なら、案内の精霊は外に出ないと会えそうにないな。




「ねえ。早くここから出ましょ?こいつらがいるのは洞窟の中だけだから外に出たら追って来ないし。ねえ、聞いてる?」




レイアのイタズラに付き合うのも馬鹿らしいしな。一気に突破するか。 




「仕方ない。ウェンディー、一気に突破するからしっかり捕まってろ。振り落とされるなよ?」




幸い外までは一直線の洞窟の様だ。魔物を気にしなくて良いなら直ぐに出られる。




「え?どうするの?いや、洞窟から出られるなら何だって良いわよ。隠れてしっかり捕まってるから早く脱出してね。」




ウェンディーはそう言って服の中に隠れる。まあ、これなら落としはしないだろう。




「さて、行くか。」





洞窟を抜けると外に誰かが立っているのがわかった。ただ、気配が人間のものではない。




「お前が案内役の精霊?」




何処か気配が掴みづらい男に声をかける。




「ええ。私が最初の大精霊の場所まで案内させていただきます。あなたがケント様ですね?もう一人、妖精族の方がいると聞いてたのですが?」




ウェンディーの奴は気を失ってて出てこない。




「いるよ?今は少しばかり気絶してるけど直ぐに起きるはず。」




脱出する際に色々と見たせいで気絶してしまったのだ。




「ところで、ケント様は血塗れですが怪我でもされたんですか?もし、そうなら私が治しますが?」




へえ。こいつがどんな精霊かは知らないけど怪我を治せるのか。まあ、必要ないけど。




「いや、必要ないよ。この血は全部魔物の返り血だから。やたらと魔物が襲って来てさ。」




俺がそう言うと男が納得したように言う。




「ああ。そういえば、この洞窟は爬虫類系の魔物が多い場所でしたね。確か妖精族が好物だったはずですよ。災難でしたね。」




やっぱりレイアの奴わざとだろ。それにしても妖精族か。




「妖精ってこの世界にもいるのか?神の世界にいるんだと思ったんだけど。」




妖精なんてウェンディーしか見たこと無いし神の所にしかいないと思ってたけど違うのかな?




「普通にいますよ?神様達の所にいる妖精達は各世界から選ばれた妖精だと聞いています。我々とは違い、実体を持っている妖精族は神様達が勇者様のサポート役にするために生み出した種族だと伝えられています。」




ふーん。つまり、ウェンディーは本当に優秀なのか。




「うーん。何か体がベタベタする~」




おっと、ウェンディーの奴、目が覚めたか。




「ねえ、ケント?何で私血塗れなの?何か移動中に魔物の顔が目の前で吹き飛んだ様な気がしたんだけど?物凄くグロい光景を沢山見た様な気がするんだけど気のせい?ねえ?私の姿を見て言うことはないの?」




途中、服の中から顔を出したせいで魔物の血を頭から被ることになったウェンディー。そのせいで気絶したのだ。今は目の前にしゃべる赤い塊にしか見えない。うん、ごめん。




「あなた精霊よね?何の精霊なの?」




とりあえず、俺も服を着替えたかったから魔法で水を出して体を綺麗する。ついでにウェンディーにも水をかけてやり血を落とす。その間、待たせていた男にウェンディーが声をかける。




「私は火の精霊に属しております。これから案内するのは私達、火の精霊の親でもある火の大精霊様ですので私が最初の案内役としてレイア様に選ばれたのです。」




火の大精霊か。いきなり危険度が高そうな相手だな。




「それでは、火の大精霊様の所に行きましょうか。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る