ウェンディー

え~と、マジで!?ドラゴン死んだの?




「おおー!奇跡だ!青年が破滅龍を倒したぞ!!!」




まさかの事態に俺が驚いていると逃げていた村人達が戻ってきてドラゴンと俺を見て騒いでいる。




「あなた、凄いじゃない!まさか新人の勇者が一撃で倒すなんて!」




俺が騒いでいる村人達に気を取られていると一人で逃げていたウェンディーが姿を現す。




「お前、よく顔を出せたな。サポートの癖に俺を置いて逃げたくせに。」




姿を見せたと思ったら偉そうにしているウェンディーに苦笑いする。




「馬鹿ね。あなたが勝てなかったら私は死んじゃうのよ。あなたと違って私は生き返れないんだから安全な場所に移動したの。」




ウェンディーは死んだら生き返れないのか。まあ、それなら




「それに、あなたが倒れたら連れて逃げれる様にしてたのよ!」




そう言って胸を張る。何か嘘くせー。てか、お前のサイズで俺を連れて逃げれるのか?




「てか、何か口調が変わったな?少し優しくなった?」




今までならお前呼ばわりだし何より最初の刺々しい感じが消えている。




「まあね。新人の勇者のサポートなんて何で私がって思ってたから。本当ならランクの高い勇者にサポートに付くエリートコースの予定だったのに急にあなたに付けって指示が来たのよ。」




ああ、そう言えば文句を言ってたな。まあ、餌に釣られたから自業自得だろうけど。




「私サポートとしては優秀なのよ?他の妖精たちにも尊敬されてたんだから!でも、新人のサポートに付く事が決まったら皆して私を馬鹿にしたのよ。エリートコースからも外れた。そりゃあ不貞腐れたくもなるわよ。」




そう言って当時の事を思い出して俯くウェンディー。




「でも!あなたは私が思ってたような新人の勇者じゃなかった。神様達が話してたわ。有望な新人が入ったって。それがあなただったんだわ。あなたをサポートしてあなたのランクが上がっていけば馬鹿にしていた妖精達も見返してやれるのよ!」




そう言って顔を上げ俺にビシッと指を差すウェンディー。




「期待しているわよ、勇者ケント!あなたに私の未来がかかってるんだから。」




はいはい。まあ、頑張ってみるよ。




「あ、あの~!」




俺がウェンディーと話していると村人の老人が声をかけてくる。




「あなたは?」




「私はこの村の村長をやっておった者ですじゃ。破滅龍を倒してしまうとは一体あなた様は何者ですじゃ?」




どうやら話しかけてきたのは村の村長さんらしい。




「破滅龍ってあれですか?」




俺はドラゴンを指差しながら質問してみる。破滅龍なんて随分と大袈裟な名前だな。




「破滅龍を知らんのか!?あれはドラゴンの中から数千年に一度現れるという突然変異のドラゴンで世界を破壊してしまう程の化物ですじゃ。破滅龍を知らんとはあなた様は何者なのじゃ!?」




村長はドラゴンの事を知らない俺にすごく驚いている。すると、村長の声を聞いた村人達が何事かと集まってきた。




「皆の者、よ~く聞きなさい!彼の名は勇者カシワギケントよ。そして、私は妖精のウェンディー様よ!」




そう言って偉そうにするウェンディー。村長達はウェンディーに気付いていなかったのか驚いている。




「ゆ、勇者様ですと!?まさか、あの?それに妖精ですと!?つまり、あなた様方は異世界からの勇者なのですか?まさか、伝承が本当だったとは!?」




村長がそう言って驚いている。伝承?




「伝承とは?」




俺は驚いている村長に伝承について聞いてみた。




「伝承と言うのは何千年も前から世界に伝わっている昔話ですじゃ。破滅龍が現れし時、異世界から現れし勇者が世界を救う。昔から親から子へと伝えられてきたんですじゃ。じゃが、信じておるものは居らず、子供へと聞かせる物語の様な物でしたのじゃ。」




そう言ってから俺を見る村長。




「しかし、今まで破滅龍の事も信じられてはおりませんでしたのじゃ。じゃが破滅龍が本当に現れ世界の半分が破壊された。生き残った人類も隠れ住み脅えて暮らしておった。そこに勇者様が現れた。つまり、伝承は真実だったと言う事ですじゃ。」




そう言って伝承について教えてくれた村長だが表情が暗い。




「伝承が真実だと伝わっておれば。滅んだ国も少なくないですじゃ。皆、破滅龍を倒そうと挑み死んでいってしまったそうじゃ。儂等が暮らしておるこの場所もそんな国の生き残りが集まって出来た村なのです。」




そりゃあ、表情も暗くなるか。てか、話を聞いてたら俺まで暗くなってきた。すみません!もっと早く現れなくて。




「そんな顔をせんでください。勇者様が現れなければ儂等は皆死んでおった。感謝こそすれ恨む者などおりませんのじゃ。儂等は助かった。なら前を向いて生きていくだけですじゃ。」




顔に出ていたのかそう言ってくれる村長。他の村人達も頷いている。




「ありがとうございます。ところで、怪我をしていた人達は大丈夫ですか?」




俺がそう聞くと村人達の表情が再び暗くなる。




「駄目ですじゃ。火傷が酷く、手や足を失っている者も多い。こんな所じゃ医者もおりませんのじゃ。」




なるほど。なら力になれるな!




「怪我をしている人達を全員集めて下さい!俺が治します。」




俺がそう言うと戸惑う村人達だが少しずつ怪我人を連れて来てくれる。どうやら全員集まったらしい。軽傷の人達も一緒に治してしまおう。




「ゆ、勇者様。本当に治せるのですか?」




まあ、見ててください。




「メガヒール!」




メガヒール。フェリアに教えて貰った上級回復魔法だ。




「「「な、なおった。治ったぞー!!!」」」




怪我が治った村人達が歓声を上げる。家族や友人だろうか?皆で喜んでいる。




「まさか、回復魔法の使い手とは。流石は勇者様!まさに奇跡ですじゃ!」




村長がそんな事を言ってくれるが




「ですが、すみません。俺の魔法じゃ欠損部位までは治せないんです。」




流石に失った手足を元に戻すことは俺には出来ない。よく漫画等でいわれる手足を元に戻す様な魔法はあの世界にはなかった。




「いえ、生きているだけで十分ですじゃ。本当にありがとうございます。」




そう言ってくれると助かる。




「勇者様。これからどうされるんですか?何か私達に手伝える事は?」




怪我も治って元気になった村人達が俺の前に集まる。これからか。どうなるんだろ?




「なあ、ドラゴンは倒した訳だけど直ぐに帰れるのか?」




俺は近くに浮いて成り行きか見ているウェンディーに小声で聞いてみる。




「そうね。私が連絡すれば直ぐに帰れるわ。でも、その前に。」




そう言って俺より前に出るウェンディー。




「私達はもう帰ります。ですが、皆の者に頼みがあります。破滅龍は勇者カシワギケントの手によって倒されたと他に生き残っている人々に伝えなさい。お礼はそれだけで十分です。」




そう言って村人に向かって微笑むウェンディー。




「そんな事で良いのですか?最初から伝えるつもりでしたので直ぐに近くの村から知らせて行きます!ドラゴンの死体もあるので証拠は十分です。」




そう言って村人を走らせる村長に満足したのかウェンディーが戻って来る。




「これで勇者ケントの名前が広まるはずよ。さあ、帰るわよ!」




なるほど。こうやって信仰を増やすのか。俺がそんな事を考えていると俺の近くに召喚陣の様な物が現れる。村人が驚いているがウェンディーが先に入ってしまう。




「早く来なさいよ!消えるわよ!」




そう言ってくるウェンディー。俺は村長達に声をかけて召喚陣の中に入る。




「それじゃあ、俺は帰ります。皆さん、頑張って下さい!」




村人達は俺が消えるまで歓声を上げていた。




「お疲れ様健人君。」




神々の間に戻るとシシリアがいる。




「シシリア様!ケント凄いですよ!ドラゴンを一撃で倒すなんて普通の勇者じゃありません!早くランクを上げるべきです!」




そう言ってシシリアへと飛び出すウェンディー。何か必死だな。




「落ち着いてウェンディー。それにしても一撃なんて。まさか、送ったその日の内に帰ってくるとは私も思わなかったわ。凄いわね、健人君。とはいえ、ランクは簡単には上げられないわ。他の世界も何度か経験してもらわないと。」




そう言ってウェンディーを落ち着かせるシシリア。俺は一つ気になる事を聞いてみる。




「なあ、何で世界があんなに壊れた所に送ったんだ?俺を呼んだ時間に戻せるんだ。なら、俺をドラゴンが現れて直ぐの時間に送る事も出来るんじゃないのか?」




神なら簡単だろ?




「それがね、そうもいかないのよ。世界が不安定になると私達の世界への干渉も簡単じゃないの。世界に脅威が現れた瞬間から時間を遡る事は出来なくなるのよ。世界に送る事は出来ても時間には干渉出来なくなるの。」




そう俺の質問に答えてくれるシシリア。神様も万能とはいかないのか。




「私達はそれぞれ色んな世界を担当してるんだけど、今回は私の担当の世界に行ってもらったわ。これから、他の神の担当している世界にも行くことになるだろうけど頑張ってね。じゃあ帰るわよ!」




他の神か。あの時にいた神の誰かか?




「それとウェンディーはあなたのサポートだから一緒に連れていってあげてね!次に呼ばれる時は彼女が教えてくれるわ。」




そう言ってウェンディーを俺の方へ渡すシシリア。え?




「あ!次は寝てる時には呼ばない様にするから今回は許してね!バイバイ!」

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