閑話:帰還当日

シシリアに元の世界に戻してもらった直後。




「本当に同じ時間、同じ場所に戻せるんだな。」




神々の間に呼ばれる前にみた景色と同じだ。近くにある時計も時間は進んでない。




さて、異世界からはちゃんと帰って来たしバイトには行かないとな。




俺のバイト先は人の良い店長が営む町の喫茶店。そこで週5で働かせてもらっている。




カランカラン。




直接、学校からバイト先に来た俺は扉を開けて中に入る。




「お!ケント、ナイスタイミング。少し早いけど手伝ってくれ。」




俺が中に入ると珍しく忙しそうにしている店長。




「お疲れ様です!どうしたんですか?」




客は少ないし他のバイトもいるのに忙しそうにしている理由がわかんない。




「ちょっと、大量の弁当の注文が入ってな。夕方までに取りに来るそうなんだ。」




この店長は海外のレストランで厨房を仕切る総料理長をやっていた程の人物で親父のやっていた喫茶店を継ぐために戻って来たらしい。




その腕前を生かして喫茶店で洋食を出しているのだが客からの強い要望で弁当まで出すようになった。




「健人君、ごめん、手が足りないんだ。早く着替えて野菜を切ってくれ!」




そう叫ぶのはバイトリーダーの武内君。24歳のフリーターだ。店長の料理の腕前に惚れ込んで弟子の様な事をしている。




「わかりました。」




俺はスタッフルームに行き、素早くエプロンへと着替える。




「入ります!」




着替えた俺は大量の野菜の前に行き、素早く野菜を切って行く。




「しかし、大量ですね。何人分ですか?」




俺がそう聞くと、武内君が答えてくれる。




「50人前。一時間程前に注文が来てさ。普通、もっと早くに注文するよな?俺は断った方が良いって言ったんだけど蓮さんも人が良いからさ受けちゃったんだよね。」




そう言って苦笑いする武内君。なるほど、店長なら断ったら相手も他の店を探したりと大変だろ?って言いそうだな。前にも似た様な事があったしな。




「もうすぐ、親父さんが手伝いに来てくれるから間に合うだろうけど、それまではフロアーの方は美里さんに任せっきりになっちゃうな。」




俺はフロアーの方を見る。一人で客を回しているのは店長の奥さんの美里さん。店長のいたレストランで一緒に働いていたらしいが、店長が帰国する際に告白して一緒に日本に帰って来たらしい。凄い美人だ。




「さて、後一時間で残り20人前終わらせるよ。」




そう店長に言われ俺達は会話をやめて調理に集中する。








その後、親父さんが手伝いに来て、何とか時間までに弁当が作り終わった。




「お疲れ様。悪いね、忙しい時間に入る事になって。少し時給に上乗せするから!」




そう言ってコーヒーを俺の前に出してくれる店長。今は客も居らず休憩中だ。




「いえ。間に合って良かったです。お客さんも喜んでたし、結果オーライじゃないっすか。まあ、毎日こんななら勘弁ですけど。」




俺はコーヒーを一口飲みそう言って苦笑いする。




「まあ、お客さんが喜んでくれるなら俺は頑張るけどな。ハハハ。」




そう言って快活に笑う店長。その姿を見ながら俺達3人は顔を見合わせ苦笑いする。




「絶対やめてね?人手がいくらあっても足らないから。」




そう言って店長に釘を刺す美里さん。




「わ、わかってるよ。」




美里さんに言われて少し苦笑いする店長。美里さんは怒ると恐いからな。前にガラの悪い客がいた際に相手が泣くまで追い詰めてたからな。理路整然と。あの時の美里は俺も恐かった。




「そう言えば健人君。」




俺がそんな事を考えていると美里さんが話しかけてくる。




「何ですか?」




俺が返事をすると俺をマジマジと見る美里さん。




「うーん。何か雰囲気が変わった?何か修羅場を潜ってきたような感じがする?」




美里さんがそう言うと店長も




「それ、俺も思った。店に入ってきた時、一瞬誰か分からなかったし。前の店で見たマフィアのボスの雰囲気に似てたよ。」




マフィアのボスって。店長の言葉に思わず肩を落とす。




しかし、雰囲気が変わった、か。異世界での生活が抜けてないのかな?特に向こうじゃ常に死と隣合わせだったからな。




「そうですか?気のせいじゃないですか?いつも通りですよ。ってか、そんな急に雰囲気なんて変わらないですよ。」




勿論、実は異世界で戦ってましたなんて言える訳ない。俺は笑顔で2人の言葉を流す。




「そうですよ。俺は何も感じないですよ?いつもの健人君ですよ?」




武内君がそう言うと2人も気のせいかと思ってくれた様だ。




やがて閉店時間の10時となり、俺達は片付けを始める。




「悪いケント。店の裏の荷物を中に運んどいてくれ。思いから気を付けてな。」




俺は店長に言われて店の裏に行く。店の前には次の日に使う食材等が置かれていた。




「結構重たそうだな。よっこらせっと、って軽!?」




あれ?思ったより重くないな?あれ、これって。体に魔力が流れている?何で?まさか、地球でも魔法って使えるのか?




まさかの事態に俺は急いでバイトを上がらせてもらい家へと帰る。そして、夜遅くに現状を把握する為に山奥へと移動した。




ちなみにバイトから帰ると俺を泥棒と間違えた妹に包丁で出迎えられた。一瞬、誰だか分からなかったらしい。お兄ちゃん泣くよ?

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