1章:勇者になりました。

最初の世界

あれから、俺は元いた世界、日本の片田舎へと帰って来た。あれから2日がたったけど今のところ神からの呼び出しはない。




「ただいまー!」




特に日常に変化もなく学校に行ってバイトに行き帰って寝る。それだけの毎日だ。




「お帰り。お兄ちゃん、ご飯出来てるよ?」




バイトから俺が帰ると先に塾から帰って来ている妹のさやかが出迎えてくれる。さやかは小学6年生。後少しで中学生だ。




「ああ、ただいま。荷物置いてくるから待ってな。」




俺はそう言って部屋に荷物を置き、リビングへと向かう。




「ご飯温まってるよ。私は食べたからお兄ちゃんも早く食べてね。」




そう言ってご飯を並べてくれるさやかにお礼を言って隣の部屋に行く。




「ありがとう。先に挨拶してくるからゆっくりしてな。」




隣の部屋は両親の部屋。その部屋の壁際に両親はいる。




「ただいま。父さん、母さん。」




俺はそう言って手を合わせる。既に父さん達はこの世にいない。5年前に事故で川に落ちて行方不明になったんだ。




遺体は見つからなかったけど流されて見つからないんだろうと警察には言われた。父さん達がいなくなり俺とさやかは親戚の家に引き取られた。




正直、あの家の居心地は最悪だった。俺は耐えられたが小さかったさやかには辛い場所だったはず。俺は両親に誓ったんだ。妹のさやかは俺が守ると。




俺は高校生になると母の妹であり仲の良かった叔母さんに頼み込んだ。俺達の後見人になって欲しいと。




現状を話すと叔母さんは俺達の味方となってくれた。親戚から俺達を引き取り両親と暮らしたこの家で暮らせる様にしてくれた。その際、かなり揉めたが叔母が押しきってくれた。両親の遺産もあり、お金にはかなり余裕がある。叔母さんは忙しく今は一緒に住んでいないが週に1日は様子を見に来てくれる。叔母さんには本当に感謝している。




もし、あのまま俺が帰らなければ妹は一人残されてしまうところだった。叔母さんがいるから生活には問題はないだろうけど妹を一人残してしまうのは両親に誓った事が嘘になってしまう。




俺は妹が大人になるまで一人にするつもりはない。だから俺は帰る為に頑張って来れたんだ。帰って来たあの日、俺は改めて両親の遺影の前で妹を守ることを誓った。




あの世界で俺は人も沢山殺している。相手は盗賊だったが両親がそれを知ったら何て言うだろう。許されるだろうか?答えはわからない。




「さて、ご飯を食べるか。」




妹が作ったご飯を食べる。慣れたもので妹のご飯は俺が作るよりも美味しい。家の家事は二人で分担して交代しながら行っている。




俺はご飯を食べ、妹に学校の様子等を聞いたり二人でテレビを観たりとゆっくりと過ごす。




やがて、時間も遅くなったころ風呂に入りゆっくりと湯船に浸かる。




「勇者、か。本当に俺に出来るんだろうか?死んでも生き返るって言ってたから妹への心配はなくなったけど。そういえば、勇者が死んだ場合って救うはずの世界はどうなるんだろ?」




俺はそんな事を考えながら湯船に顔を沈める。考えても答えは出ない。時間も経ち風呂を出て部屋に行く。




部屋に戻り、電気を消してベッドに横になる。そういえば特に日常に変化はないと言ったが俺自身には変化があった。




「ライト」




俺がそう言うと部屋に明かりが戻る。電気は消えたままだ。ってきり、この世界じゃ魔法は使えないと思っていた。




それに気付いたのは帰って来て直後の事だ。バイト中に体に魔力が巡っているのに気が付いたんだ。重たい物を持とうとして軽々と持てたのには驚いた。魔力で身体能力が上がっているらしい。力を入れる際、魔力を体に流すのが当たり前になってたから気付かなかった。




その日の深夜、俺は転移の魔法を使い誰もいない山奥へとやって来た。そこで色々と確かめた結果、魔法が使える事が確認出来た。って言っても転移の魔法が使えた時点で分かっていたんだけど。




しかも、力もかなり上がっている。普通に岩を砕けたのには引いた。もし、この状態で喧嘩なんてしたら相手を殺してしまう。まあ、これは普通にしてれば問題はない。だが突発的な事だとコントロール出来るかは分からない。




そんな事が確認出来た事が一番の変化だった。




「バイト、もっと稼げるのに変えようかな?」




力仕事ならかなり稼げるはず。お金には余裕はあるけど両親の遺産はさやかの学費に使ってやりたい。小遣いだってもう少し渡してやりたいしな。叔母さんが出してくれるって言ったけど断った。叔母さんに甘える訳にはいかない。今は我慢させている事が沢山あるだろうけど稼げれば少しは甘えさせてやれる。




「さて、寝るか。」




時間は深夜の1時を過ぎている。明日も学校とバイトがある。別に疲れはないけど夜更かしするべきではない。こうして、俺は眠りについた。








「起きて!起きて健人君?」




寝ていると誰かの声が聞こえてくる。うるせぇな。あれ?なんか下が硬い。




「健人君?起きた?」




意識がはっきしすると誰の声なのか分かった。




「おはよう健人君。あなたに勇者として異世界に行って貰います。」




俺が起き上がるとそんな事を言うシシリア。




「おいシシリア。今は夜中だぞ?こんな時間に呼ぶ必要あるのか?」




俺はシシリアを睨み付ける。神様を呼び捨てにするのは失礼?知った事か。




「ご、ごめんなさい。この世界には時間ってものはないから忘れてたの。」




そう言って申し訳なさそうにするシシリア。どうやらわざとではないらしい。




「まあ、いいや。それで勇者としての最初の仕事か?」




まあ、呼ばれたんだからそうなんだろうけど。




「ええ。最初はFランクの世界に行って貰うわ。その世界はあなたが行った世界と似た様な所よ。そこで暴れるドラゴンを倒してきて。」




ドラゴンか。




「それで、今回も何年もかかるのか?」




まあ、別に元の世界に帰れるなら時間はどれだけかかっても構わないんだけど。




「いいえ。勇者になった今のあなたなら時間はかからないわ。Fランクだしね。強さもあの魔王より少し強い程度よ。今のあなたなら簡単に倒せる。ただ、移動しているから探すのに少し時間はかかるかも。」




そうなのか?まあ、そう言うなら信じてみるけど。




「それで?また、どっかの国にでも送るのか?」




また、仲間を集めるのかな?




「いいえ。今回は人のいない場所に送られるわ。あの時は、あなたには仲間が必要だったのとすぐに死なないようエドワード王国に送ったけど今のあなたには必要ないもの。」




じゃあ今回は一人で戦うのか。本当に大丈夫か?




「まずは、人を探して情報を集めながら困ってる人は助けてあげてね。あ、人に名乗るときは勇者って名乗ってね?勇者って知られてないと信仰が集まらないから。」




まあ、そう言うことなら。俺は勇者カシワギってか?何か恥ずかしいな。




「じゃあ、そろそろ送るわよ。あ、その前にあなたにサポートを付けるわね。」




シシリアがそう言うと小さな光の玉が現れる。




「小さいな。これがサポートなのか?」




俺がそう言うと小さな光の玉が弾けて小さな人間が現れる。




「おい。誰がチビだって?嘗めたこと言ってるとぶっ飛ばすぞ、コラ。」




口悪っ?!




「この子は妖精のウェンディーよ。あなたのサポートとして側に付くわ。この子は世界の脅威の存在を大まかだけど感じとる事が出来るの。この子の感覚に従えば早くドラゴンを見つける事が出来るわ。」




ふーん。こいつがね。




「なに見てんだよ?」




ヤンキーかな?




「それじゃあ、2人で頑張ってね!」




シシリアがそう言うと俺達は光に包まれ気付くと森の中にいた。

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