序章:勇者としての役割
◆神々の間◆
「おかえりなさい。健人君。」
柏木健人君が勇者となって帰ってきた。今、彼の前にいるのは私だけ。これからの事を私が説明しなくては駄目なんだけど、彼が素直に協力してくれるかどうか。って、あら?
「健人君?おかえりなさい?ねえ、帰って来たの分かってる?」
帰って来た健人君だけど、私が話しかけても全然反応しないわ。まるで心ここに有らずって言った様子ね。私は彼の体を揺さぶる。
「うわっ!?何だ?って、ここは確か神々の間だっけ。」
揺さぶると彼は今何処にいるのかに気付いてくれた。良かった。これで話が出来るわね。
「おかえりなさい、健人君。無事に勇者となって帰って来てくれて嬉しく思うわ。」
私がそう言うと彼は私の顔を見た後、一言。
「あんた誰だっけ?前にあった神々の誰かか?」
え?私の事を覚えてないの?あれだけ話したのに覚えてないってどういう事?!
「わ、私は、ほら!色々と説明してあげたでしょ?あれが私よ!」
私がそう言うと彼は少し不機嫌になった。何で?
「ああ、あの時のムカつく神様か。ところで、何で俺はここにいるんだ?元の世界に帰れるんじゃないのか?」
ムカつくって、神に向かって何て事を言うのよ。まあ、あの時の事は私も悪かったって思ってるけど。
「えっと、元の世界には帰すわよ。ただ、その前に勇者となった君に話があるのよ。君には、これから勇者として協力して欲しい事があるの。」
私がそう言うと彼は何を言ってるか分からないって顔をする。
「は?これから?意味が分からないんだけど協力って何の話だよ。」
どうしよう。怒ってるわ。
「そ、その。以前の説明の時に世界を救う勇者になって欲しいって言ったのは覚えてる?」
彼は私の話を聞きながら以前の事を思い出そうしているのか少し考えている。
「ああ。だけど、あの世界で勇者になったんだから役目は終わりじゃないのか?」
そうね。あの世界での役目は終わったわ。
「確かにあなたは魔王を倒して勇者になった。でも、勇者としての役割はこれからなの。あなたには、勇者として無数にある世界の中で危機に陥ってる世界に行ってもらい、その世界を救う役目を担って貰うことになるわ。」
私がそう言うと彼は怒気を隠さず詰め寄ってくる。
「何だよそれ!騙したのか?勇者になる為に頑張って来れたのは終われば元の日常に戻れると思ったからだ。なのに、勇者として世界を救う?勇者としての役割?ふざけるな!」
怖い。怖い。怖い。何でこの人、神様相手に怒鳴れるの?普通、なりたての勇者だったら神には逆らえないのに。確かに、元から素質は高かったけど。
「待って!落ち着いて聞いて!少し離れて!ちゃんと説明するから!お願いだから怒らないで。」
私が少し怯えて言うと彼は私を見て少し離れてくれた。
思わずキレてしまった。でも、流石にいきなりの話だったから仕方ないだろ。目の前の神は少し涙目になりながら話を続ける。
「まず、あなたに勇者になって貰ったのは条件を満たす為に必要な事だったの。勇者は人々の希望。人々は勇者を慕ってくれるわ。それは言い換えれば信仰と言ってもいい。勇者への信仰は勇者を通して私達に送られる。私達は神への信仰を力に変えて世界の維持をする為の力に変えるの。現にあの世界からもあなたに対しての感謝が信仰となって私達に届いてるわ。」
目の前の神への信仰か。今の所、俺には無いな。
「でも、世界が危機に陥ると人の心は荒み私達への信仰は減ってしまう。信仰が減ると私達は世界の維持が出来なくなってしまうの。そして世界が崩壊してしまう。そこで私達は勇者という役割を作った。勇者を危機に陥ってる世界に送ることで、勇者を人々の希望として信仰を集めさせて世界の維持を保ち、勇者に世界の脅威を取り除いてもらう。それが勇者の役割。」
そう言って黙って俺をみる目の前の神。
「つまり、これからその役割を俺に果たせって事か?そもそも、俺を通して信仰が神々に送られるってどういう事だ?」
別に俺は何も感じないんだけど?
「それは最初に呼び出した時にあなたの魂の奥に信仰を自動で集め、私達に送る術式を刻んであるの。安心して体に害はないわ。」
いやいや、何ソレ?魂に術式?怖っ!?
「それで、どう?役割は理解出来た?」
俺が驚いているとそう問いかけてくる目の前の神。
「あ、ああ。役割は分かった。それで?断れるのか?」
まあ、無理なんだろうけど。
「断れないわ。私達に呼ばれたら他の世界に行って貰うことになる。」
やっぱり、か。
「あ、でも、今までとは違うわよ?勇者は死ぬことは無いわ。」
は?
「いや、少し違うわね。死んでも生き返るってのが正しいかしら。こことは違う場所にある、神の泉から生き返るのよ。勇者は信仰を受ける。それは少なくとも私達に近い存在になるということ。私達に死という物はないわ。そして勇者は他の世界で死んだ場合、信仰が続く限り生き返る。本人の寿命を迎えるまで死ぬことは無い。あなたなら百歳まで死ぬことは無いわよ。良かったわね長生き出来て!」
マジかよ。俺って百歳まで生きるの?そういえば確かじいちゃんも百歳まで生きてたんだよな。
「それに死んだ後も信仰が続いていると神へと至る事もあるわよ?どう?嬉しいでしょ?」
そう言って微笑む目の前の神。
「いや、別に?」
神になんてなりたくないけど?
「え?何で?神になれるのよ?」
いや、だって目の前の神をみていて羨ましいなんて全く思わないし。
「そ、そう。」
さて、話を変えるか。
「ところで俺の他にも勇者っているんだよな?そいつらはどうしてるんだ?確か数が足りないって言ってたよな?」
俺の他の勇者は今、何をしているんだ?
「他の勇者達なら異世界にいる子や元の世界で休んでる子と様々よ。」
俺の質問にそう答える神。
「そうなのか?でも、勇者として世界を救うって役割があるのに休んでる余裕なんてあるのか?」
まあ、休めるのは良いんだろうけど。
「ええ。世界を救った人には休みをあげてるわよ。まあ、他にも事情があるんだけど。」
他の事情?
「他の事情って?」
俺がそう聞くと勇者のランクとやらについて教えてくれる。
「そうね。これも説明しないとね。勇者が足りないって言ったのは覚えてる?でも、あれは正確に言うなら勇者の質が足りないって事なの。私達は脅威に応じて世界にランクをつけているわ。下からF~SSSランクってね。そしてそれは勇者も同じ。勇者は元の素質と実績でランクが決まっているわ。でも、今はSランク以上の世界に対応出来る勇者が少ないのよ。そして、下のランクは足りている状態。様は下のランクの勇者は割と余っているのよ。」
なるほど?でも、なら俺って必要無かったんじゃないの?
「それだけ余ってるのに俺を勇者にする意味ってあったのか?」
俺がそう言うと目の前の神の顔が真剣になる。
「普通ならね。けど、あなたは違うわ。あなたの勇者の素質は高いわ。今のあなたのランクはDになってるわ。素質だけでこれなら実績を積んでいけばSSSランクも対応出来る勇者になれるわよ。」
俺ってそんなに高いの?まあ、俺を呼び出した理由はこれで分かったけど。
「なあ、俺の行った世界のランクはいくつ何だ?」
あれだけ苦労したんだ。俺のランクがDならあの世界もDランクかな?
「ああ。あの世界はランクに入ってないわよ?そもそも、あの魔王ぐらいじゃ本物の勇者は必要ないもの。だからこそ、あなたを勇者にする為に送り込んだんだから。」
マジかよ。あの魔王の強さで脅威じゃないのか?ならランクに入ってる世界って。
「そもそもDランクって言ったけど、あなたには実績がないからDランクの世界に送っても救えるかは分からないわ。だから、あなたには最初はFランクの世界に行って貰うことになるわね。」
なるほどな。まあ、それなら良いか。
「分かった。まあ、とりあえず勇者として協力する事にするよ。別にあの世界に行って嫌な事ばかりだった訳じゃないし、他の世界にも興味が出てきたしな。」
俺がそう言うと突然目の前の神が抱き付いてくる。
「本当!?ありがとう!本当は絶対に怒って断ろうとすると思ってたのよ?実際、途中では怒ってたし。まあ、断る事は出来ないんだけど抜け道はいくらでもあるし。でも、進んで協力してくれるって言うなら一番良いわ。」
いや、離れろよ。
「別に、怒ってない訳じゃないからな?もし、死んでたら絶対に恨んでたし、他の事だって先に説明しろよ!って思っている。でも、何を言っても意味はないんだろう?なら、前向きに考える仕方ないだろ。」
俺は少しばかり不満そうに目の前の神に告げる。すると苦笑い気味に、
「はっきり言うわね。まあ、良いわ。そう言えば私の名前を教えてなかったわね。私は女神のシシリアよ、よろしくね!さて、そろそろ元の世界に帰すわね。っとその前にあなたの肉体を元に戻すわね。三年で成長したから戻さないとおかしいでしょ?あ、でも戻ったのは見た目だけで筋力とかは今のままだから安心して。あ、寿命は戻ってるわよ。」
そう言って俺の体に光を飛ばす。すると、三年で成長した見た目が元に戻った。俺は元に戻った体を確かめる。確かに見た目こそ三年前の姿だけど俺の感じる感覚はこの三年で成長した肉体のままだ。
「さて、それじゃあ元いた時間と場所に戻すわね。次に会うのが私か他の神なのかはわからないけど勇者として協力頼んだわね。」
そして俺は元の世界に戻っていった。
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