序章:勇者の帰還

「おらー!テメー等の相手は俺様だ!」




俺の後ろで魔族の幹部の相手をしてくれている拳闘士ライザ。旅の途中で出会ってから結局こうして最後まで付き合ってくれている。最初は互いに気に入らないと思っていがみ合っていたが今ではライザに会えて良かった。




「ほれ!魔王の魔法はワシが相殺してやる。さっさと決めてこい。」




そう言って魔王の魔法を簡単に相殺していく賢者ホーロー。彼には本当に世話になった。偏屈で人間嫌いだが実力は俺よりも上で賢者として知恵を貸してくれる良い爺さんだ。




「ケントさん。魔王ももう限界です。頑張って下さい!」




セシカさん。この世界に来てから今まで彼女には多くの事を教えてもらった。時には優しく時には過激に厳しく本当に色々な事を教わった。感謝しているよ。




「ケント様。」




フェリア。彼女には出会ってから、ずっと振り回された。まあ、悪くは無かったけど。俺が心を折られそうになった時、彼女の言葉にどれだけ救われたか。どれだけ言葉にしても足らないだろう。




「ギ、ギザマなぞに、ゴの、オレザマが負げでだまるかぁぁ」




皆の援護を受けて俺は魔王の懐に入り込む。魔王の大剣が迫るが俺は最後の魔法を唱えて剣で迎え撃つ。




「フィジカルブースト!これで終わりだぁー!」




全身の力がアップする。そして、俺の剣が魔王の大剣を砕いて魔王へと届く。




はぁ、はぁ。俺の渾身の一撃が魔王の体を二つに別ける。そして、俺は魔王の死体を見ながら地面へと倒れ込んだ。




「ケント様ー!?」












「ここは?テントの中か?」




目を覚ますと一瞬、魔王を倒したのが夢だったのかと思ったが体を襲う痛みが現実だと教えてくれた。




「痛っ!これは一段とキツいな。さて、皆は何処だ?」




俺は近くにいるだろう仲間を探して外に出る。すると、




「「「ウオオオォー勇者様!勇者ケント様!勇者様バンザーイ!」」」




俺の体を衝撃が襲う。テントを出ると俺の目の前には大勢の兵士達。




「目が覚めたか!勇者ケント!」




すると、兵士達の間から数人の男達が出てくる。旅の途中で会った国王達だ。フェイド王もいる。剣を持っているということは応援に駆けつけてくれたんだろう。




「フェイド王。お久しぶりです!来てくれたんですね!」




魔王との決戦の前、フェリアが手紙で知らせたのだ。ここは、三年の間で魔族に奪われた国の一つ。




本来なら魔王は暗黒大陸にいるはずだったが、魔王は俺を殺すためにこの国まで拠点を移したのだ。その為、各国は最終決戦に駆けつけて来れた。まあ、実際には来る前に全て終わってしまったんだが。




「ふむ。当然だ!娘と未来の息子の為なら私は駆けつけるさ。まあ、少し遅かったようだがな。」




そう言って笑うフェイド王。ちなみに未来の息子ってのは俺の事だ。勿論、そんな予定はないがな。城に一度戻った際に事故でフェリアとキスしてしまった事がある。




「ケ、ケント様!?」


「ご、ごめんフェリア!」


「あ、ああ!?妊娠してしまいました!ど、どうしましょう!?」




その際、フェリアがそんな事を叫びながら城中を走り回るという事件があったのだ。フェリアは昔、フェイド王からキスで子供が出来るという冗談を言われて長いこと信じていたらしい。




当然、俺は国王でもありフェリアの父親でもあるフェイド王に呼び出された。すぐに誤解は解けたがその際フェイド王が本当に婿に来るかと聞いて来たのだ。当然、元の世界に帰る俺は断ったが今でも冗談としてからかわれている。冗談だよな?




「い、いえ。俺は元の世界に帰る身ですので。」




俺は少し慌てながら答えると仲間の姿を探す。




「フェリア達を探しておるのか?皆は疲れからか、他のテントの中で寝ておるよ」




そう言って笑うフェイド王。




「本当に魔王を倒したんですね。なんか実感がないです。」




俺がそう言うとフェイド王が俺の肩に手を置いてくる。




「君は魔王を倒した。それは紛れもない事実だ!君が元の世界に帰る為にどれ程頑張ってきたか知っている。もう随分と前から呼ばれているが、ここに私が正式に認めよう!カシワギ・ケントは魔王を倒した勇者であると。」




フェイド王がそう言って兵士達に向かって宣言する。随分前に町を襲っているドラゴンを撃退してから俺は勇者と呼ばれる様になっていた。そしてフェイド王の宣言に対して返って来たのは大地を揺らすほどの歓声だった。










魔王を倒してから2日、俺はエドワード王国の一室に居た。他の仲間も一緒だ。




勇者となった俺だが未だに元の世界には帰れてない。そもそも、どうやったら帰る事が出来るのか分からない。




「ケント様?いらっしゃいますか?」




俺の部屋のドアを開けてフェリアが覗き込む。




「ああ、フェリアか。入って良いよ!」




俺がそう言うとフェリアが入って来る。けど、何故か恥ずかしそうだ。




「失礼しますね。どうしたんですか?何か考え事をしていたようですが?」




そう言って俺の顔を覗き込むフェリア。




「いや、この後の事を考えていてな。俺が元の世界に帰ったら、この世界は今後どうなるんだろうって。まだまだ、この世界には脅威が残っている。魔族だって今度いつ今回みたいな魔王が現れるか分からない。」




魔王を倒した後、魔族達は暗黒大陸へと逃げ帰って行った。その後、この2日で新しい魔王が誕生し全面降伏を行った。賠償などの問題があるが関係は前の状態に戻ったらしい。




「この世界に来て知り合った人達は沢山いる。世話になった人達もだ。それなのに元の世界に戻るのは裏切り行為なんじゃないかって。って、どうした?」




俺の話を聞いていたフェリアがおもむろに立ち上がる。俺が顔をあげるとフェリアの平手が俺の頬を打つ。




「何を言っているんですか?あなたは今まで何の為に頑張ってきたんですか?元の世界に戻る為でしょう!待っている人がいるのでしょ?この世界が心配?何様ですか?確かに私達は魔王に勝てないです。でも、魔王はあなたが倒してくれた。私達はあなたのお陰で前を向いて生きて行けます。裏切り行為?今まで、あなたが出会った人達がそんな事を考えると本気で思うのですか?私達はそんなに弱くはありません。あなたが居なくても自分達の事ぐらい、自分達でどうにか出来ます!だから、あなたは待っている人の為にも元の世界に帰って下さい。」




俺に向かってそう告げるフェリア。そういえば以前にも似たような事があったな。あれは俺達が間に合わず滅ぼされた町の人達に責められた時、諦めそうになった俺にフェリアが言ったんだ。




『諦めるのですか?元の世界に帰るのではないんですか?ここで止まってしまったら今までの頑張りは何の為だったのですか?さあ、立ち上がって下さい。前を向いて下さい。』




あの時も最初にビンタされたんだっけ。強いなフェリアは。




「悪い。今のは忘れてくれ。俺は元の世界に帰るよ!」




俺がそう言うとフェリアも微笑む。




「そうですか。なら良かったです。実は先程お告げがありました。2日後に召喚陣のある場所に来るようにとの事です。あなたは帰れますよ。」




俺の顔を見て微笑みながらそう告げるフェリア。




「そうか。」




俺は突然の話しにそれしか言えなかった。それからはあっという間だった。




残された2日は世話になった人達に挨拶をして別れを告げた。そして2日後の昼頃。俺は光る召喚陣の前にいた。これに入れば帰る事が出来るんだろう。




「お世話になりました!」




俺は集まってくれている人達に挨拶をしていた。




「ハッ!結局、喧嘩は勝負が付かなかったな。だが、楽しかったぜ!元気でな!」




そう言って笑うライザ。ああ、俺も楽しかった。




「ふん。お前には迷惑をかけられてばっかりだったのう。いきなり隠れて住んでいたワシの前に魔王を倒すために力を貸せと言ってきたのが懐かしいわい。だが、悪くは無かったぞ。達者でのう。」




賢者ホーロー。あの時はすみません!少し勘違いしていた時期だったんです。どうかお元気で!




「ケントさん、今までお疲れ様でした。あなたの事は忘れません。あなたの魔法が使えて子供みたいに喜ぶ姿や姫様の入浴をライザさんと一緒に覗こうとしていた姿など色々と楽しませて貰いました。是非とも元の世界に戻っても今のあなたのままでいてください。」




風呂を覗きに行くように進めたのはセシカさんですけどね。後ろでフェリアが怒ってますよ?あなたにはからかわれてばがりでしたね。散々、フェリアを使って悪戯を仕掛けられましたけど楽しかったです。




「ふむ。風呂の件はライザ殿から聞くとしよう。さて、勇者ケントよ。この度の事、本当に感謝している。君の事はこれからも語り継いでいくだろう。元の世界に戻っても頑張ってくれ。」




そう言って手を差し出してくるフェイド王。俺の方こそお世話になりました。それとライザすまん、後は任せた!




「ケント様!どうか私の事を忘れないで下さい!私も絶対に忘れません。あなたとの旅の思い出は私の一生の宝物です。」




俺の目の前へと来てそう言ってくれるフェリア。そして突然キスをしてくる。




「今回は事故ではありませんよ?最後の思い出として貰っておきますね。どうかお元気で!」




そう言って呆然としている俺の体を召喚陣へと押すフェリア。そのまま、俺は光に包まれてこの世界を後にした。

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