序章:神々の思惑

「ご、ごほん。すまないが何て言ったのだろうか?聞き間違いでなければ勇者カシワギ殿は自分は勇者ではないと言ったのか?」




国王が何かの間違いではないかと尋ねてくるが答えは変わらない。




「えっと、はい。」




俺が恐る恐る答えると国王は眉間を押さえて黙ってしまう。本当にすみません。でも、勇者の素質はあるらしいから!多分。




「そんなはずありません!神は確かに勇者を送ると私にお告げを授けて下さいました。」




国王が黙ってしまい再び静寂が訪れる中、フェリアが慌てて叫び声をあげる。




「だが、カシワギ殿は違うと言っているぞ?今まで現れた勇者達はいずれも自分から勇者を名乗ったという。フェリア、思い出してみなさい。神は何とおっしゃっていたのだ?お前にしか分からない事だ。」




国王がそう言ってフェリアを見る。えっと、まさかフェリアしかお告げってのは聞いてないのか?




「お父様、私は本当にお告げを受けたのです。その時に召喚陣も教わりました。確かに神はその召喚陣から勇者となる者が現れると言われたのです。」




あ、なるほど。何となくわかった。




「あの~良いでしょうか?」




俺がそう言うと視線が集中する。




「どうしたカシワギ殿?やはり本当はお主が勇者なのか?」




国王の視線が疑わしい者を見る目に変わっている。俺は何とか視線に堪えながらも話をする。




「その、お告げってのは俺の事で間違いないと思います。多分、誤解されているかと。」




俺がそう言うと国王が話を続けろと促す。




「その、フェリアが聞いた勇者となる者ってのは俺で間違いないと思います。ただ、今は勇者ではないです。この世界を救ったらそう呼ばれる事になるのかも知れないけど。その、今までに現れた勇者ってのは詳しく知らないですけど、神々からはこの世界を救って勇者になれって言われました。だから勇者が召喚陣に現れるって訳ではないかと。」




俺がそう言うと部屋の中が騒がしくなる。意味が分からないだの、俺の事を詐欺師ではないかだの。好き勝手に言ってくれる。段々とイラついてきた。俺は元々、こんな所に来るつもりなんてなかったんだ。




「黙れ。すまないカシワギ殿、幾つか確認したいのだが神々にこの世界を救って勇者になれと言われたと言ったな。カシワギ殿は神にあったのか?」




国王がそう言うと再び部屋の視線が集中する。




「はい。いきなり元の世界から拉致されて勝手に勇者に至る素質を持つ者とか言って、この世界に送り込まれる事になりました。本当は俺は元の世界に帰りたい。だけど、この世界を救えないと帰れないから俺はこの世界に来たんだ!」




俺だって本当ならこんな世界に来たくはなかったんだ。俺が少し声を声を荒らげて経緯を伝えると国王が少しの沈黙の後、再び頭を下げる。




「すまないカシワギ殿。そなたへの配慮が足りていなかった。先にお主から説明を聞くべきだった。こちらの勘違いで勝手に失望した事を詫びよう。許してくれ。」




国王は俺を見ながら謝罪を口にする。




「いえ。俺も少し取り乱しました。」




俺も国王に頭を下げる。




「よい。その様な事情なら気持ちの整理も恐らくついていないのだろう?お主の気持ちがわかるとは軽々しくは言わんよ。だが、神が何と言ってお主を我々の元に送ったのかだけ教えて欲しい。」




俺はそう言われて一旦気持ちを落ち着かせてから神々に言われた事を伝える。




「ふむ。勇者とは偉業を成し遂げて初めて勇者と呼ばれるか。確かに神の言う通りだな。かつて現れた勇者達も世界を救った事で世界中で慕われたと伝えられている。ならば、」




国王が下を向き一人ぶつぶつと呟く。そして俺を見ると真剣に聞いてくる。




「カシワギ殿はこの世界を救ってくれるのか?」




そんな事は決まってる。元の世界に帰るには魔王を倒すしかないんだ。




「はい。俺はそのつもりです。」




俺は国王を真っ直ぐに見て返答する。




「そうか。ありがとう。だが今のお主では魔王には何をしても勝てんだろう。その為にもお主には強くなって貰わなければならない。なに。後、数年は残った国々は滅びはせん。その間に強くなるのだ、そして魔王を倒して勇者となって欲しい。その為には我々も力を貸そう。まずはこの国で力をつけてくれ。神が言うのだ、君はこの国の誰よりも強くなれるはず。そして君の世話係としてフェリアと君の後ろのセシカを側につけよう。二人とも君の力になるはずだ。」




国王がそう言うとフェリアと後ろのメイドが俺の前に来る。




「ケント様よろしくお願いします。ケント様の支えになるよう頑張ります。」


「よろしくお願いします。」




そう言ってお辞儀をする二人。




「フェリアは我が国の巫女でもあり、治癒魔法を得意としている。どんな怪我だろうと治してみせるだろう。そして、セシカは魔法を得意としている。この国一番の使い手だ。必ず君の力になるはず。」




国王がそう言うと二人は俺の後ろに回る。




「お主には神が認めた素質がある。元の世界と勝手が違って色々と苦労するだろうが頑張って欲しい。」




「はい!」




そして、俺のこの世界での生活が始まった。元の世界に帰るため必死に強くなった。出来る事は何でもやった。魔法も剣技も学べることは全て学び尽くし一年後、俺はこの世界を救うためフェリアとセシカを連れて旅立った。そして、それから二年後。この世界に来て三年、遂に魔王との対決を迎えた。










◆神々の間◆




柏木健人がエドワード王国に送られた直後。




「行きましたね。」




私達は元の姿に戻る。私は日本から呼んだ柏木健人を異世界へと送り出した。目的は彼を勇者にするため。




「あ~、疲れた~。必要な事とはいえ弱味に付け入るのはいい気分じゃないわね。」




あの時の彼の視線は怖かったわ。




「お疲れ様~、シシリア。」




一緒にいた神々の1柱。女神のレイアが声をかけてくる。




「レイア。ええ、今回は本当に疲れたわ。彼は今までの勇者よりも素質が段違い。目の前で睨まれただけで泣きそうになったのは初めてよ。」




彼は今いる勇者達の中でもかなり上位の実力者になりそうね。まだ勇者になってない段階で神の前であれだけ自分を保てるのは驚きだわ。




「あの時、俺が間に入らなければ危なかったぞ?あれだけの素質を持つ者に恨まれたら奴等は必ず利用した筈だ。」




私とレイアが話していると、途中で男神ボイドが加わってくる。




「ええ。あの時は助かったわ、ありがとうボイド。」




ボイドがあの時、間に入ってくれなかったら私達は彼に恨まれていたでしょうね。もし、彼が死んでしまったらその恨みを利用されてしまう。




「さて、彼はあの世界で生き残れるんですかね?私には彼がそれ程の人間には思えませんでしたが。」




今度は面倒なのが来たわね。




「ちょっと、勝手に話に入って来るなよ。ゲラルド!さっさと帰れ!」




レイアが近いて来たゲラルドに嫌悪感を示す。男神ゲラルド。こいつはキザなふりした馬鹿。




「おやおや、可愛い顔が台無しですよレイア。」




うっ!気持ち悪いわねこいつ。レイアも引いてるじゃない。




「黙れ馬鹿。何がようこそ!よ。健人が最初に私達を馬鹿にしたのもゲラルドのせいだからな。」




ええ。あれは、こいつのせいね。前に出たこいつの馬鹿な態度のお陰で神威を見せなきゃならなかったんだから。




「ゲラルド。健人はお前などに計れる人間ではない。お前の役目は済んだ。帰れ!」




ゲラルドの後ろから声をかけた男神の顔を見てゲラルドが逃げ出す。




「これは男神ゼルド。それでは私は失礼する。では!」




大袈裟にお辞儀をして逃げ出したゲラルド。ゼルドには本当に逆らえないのね。一度塵にされたからかしら。




「シシリア、俺も先に失礼する。健人の事は君に任せたぞ。」




そう言ってその場から消えたゼルド。




「じゃあ、私も帰るね!またね~シシリア。」




レイアもそう言って帰って行く。この場に来ていた神々はボイドと私以外みんな帰って行った。




「それでは、俺も失礼する。シシリア!彼は間違いなく勇者になる。今度は怒らせないで説明してやれよ。じゃあな。」




そう言ってボイドも神々の間から消える。




「は~。説明か。面倒くさいわね。でも、彼の力は必要だわ。きっと異世界では苦労してるだろうけど、本当に苦労するのはこれから先。頑張ってね柏木健人君。」

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