序章:すみません!

目が覚めると俺の目の前には数人のローブを着た人達と剣を腰に差した騎士に高そうなドレスを着た一人の綺麗な女の子が立っている。


「ようこそ勇者様。私はエドワード・シス・フェリア、このエドワード王国の第一王女になります。どうかフェリアとお呼びください。この度、神のお告げを受けてあなたを召喚しました。どうか魔王を倒してこの世界をお救い下さい!」


そう言って優雅にお辞儀をするフェリア。その姿に思わず見惚れているとフェリアが声をかけてくる。


「あの、勇者様?お名前を教えては頂けないでしょうか?」


そう言われて俺は慌てて自己紹介する。


「あ、え、えっと、俺、いや、わ、私は柏木健人って言います。17っす。あ、17歳です。よろしくお願いします。」


少し慌てながらも何とか挨拶をする。相手は王族、失礼にならない様に慌てて敬語を使いながらも何とか挨拶を済ませた俺はホッと一息する。俺って言った瞬間、後ろの騎士が剣に手をかけたのを見て焦ったわ~。


「まあ!勇者様は私と同い年なのですね!」


俺の挨拶を聞いたフェリアが嬉しそうに俺の手をとる。


「そ、そうなんだ?あ、いや、そうなんですか?」


騎士が睨み付けてきたので慌てて言い直す。しかしこの子、距離が近すぎる。こんな美少女に至近距離で見つめられると少し恥ずかしい。しかも、俺より背が低いから自然と上目遣いになる。別に女性に慣れてない訳じゃないが元の世界で美少女に迫られた経験なんて俺にはない。


「あの勇者様、ケント様とお呼びしても?それと私には無理して敬語を使わなくて結構ですよ。どうか普通に話して下さい。」


そう言って微笑むフェリア。けどな~


「ですが、良いんでしょうか?」


俺は周りを見ながら問いかける。すると、フェリアは周りを見渡すと俺を見て微笑む。


「構いません。この私から言っているのですから周りの者がケント様に文句を言う権利などありません。皆の者も良いですね?」


「ハッ!」


フェリアがそう言うと騎士達が胸に手を当て敬礼する。


「これで大丈夫です!それでは、ケント様にはこれからお父様にお会いして頂きます。そこでお父様からこの世界の現状が説明されますので私に着いて来て下さい。」


そう言って歩きだすフェリア。俺は周りの視線を感じながらもフェリアの後を着いて行く。


「あ、あの、王女様?お父様って事は国王ですよね?こんな格好で良いんですか?」


俺の格好は学校帰りのまま。俺の通ってる高校は制服の規定がないから私服の生徒が殆どだ。俺もTシャツとジーパンってラフな格好となっている。とても、国王なんて偉い人と会う格好ではない。


「大丈夫ですよ。それより、私の事はフェリアとお呼びください!」


そう言って後ろを振り返りながら言ってくるフェリア。


「わ、分かりました。フェリア様。」


俺がそう言うとフェリアが不満そうにする。


「フェリアと呼び捨てで結構です!それと敬語もやめてくれると嬉しいです!」


そう言って見つめてくるフェリア。


「分かりました「敬語はお止めください」わ、わかったよ。フェ、フェリア。」


俺がそう言うと嬉しそうに微笑むフェリア。


「まだ、ぎこちないですが良いんでしょう。間もなくお父様のいる謁見の間に着きます。既にケント様の事は伝わってますので楽にして下さい。」


フェリアはそう言ってくれるが俺は緊張で楽になんて出来やしない。漫画や小説などだと国王を怒らせて処刑なんてよくある事だ。そうならない為にも絶対に怒らせてはいけない。


「着きましたわ。」


俺がそんな事を考えていると謁見の間とやらに着いたみたいだ。目の前には大きな扉があり、その前には二人の騎士とメイドらしき女性が立っている。


「勇者様のご到着です!」


騎士がそう叫ぶと中から入れと返事がくる。扉が開くと物凄く広い部屋の中に人が沢山いる。部屋の両サイドに並んだ偉そうな人達とその後ろに立つ騎士達。そして部屋の一番奥にいる豪華な椅子に座った一人の人物。その全ての視線が俺に向かっている。


「よくぞ参られた勇者殿。入って来られよ!」


一番奥の人物がそう言うとフェリアが進んでいく。この人が国王って事か。俺もフェリアの後を追って進むと扉の前にいたメイドが俺の後を着いてくる。


「では、私はこれで。」


部屋の真ん中まで進んだところでフェリアが俺を置いて国王の隣に移動してしまう。


え~と。どうしたら良いんだ?部屋の真ん中に残された俺に視線が集中する。すると


「片膝をついて座って下さい。」


ボソッと後ろから声をかけられる。さっきから何故か俺の後ろにいるメイドの声のようだ。俺はその声に従って片膝をついて座る。


「さて、良く来てくれた勇者カシワギ。私の名はエドワード・シス・フェイド。お主には勇者として魔王討伐の役目を担って貰いたい。本来は異世界の住人であるお主に頼むのは申し訳ないと思っている。だが神のお告げで勇者を送って下さると言われれば従わないわけにもいかない。どうか、この世界の為に力を貸して欲しい。」


そう言って頭を下げる国王。それにあわせてフェリアも頭を下げる。


「こ、国王?!」


すると周りの偉そうな人達から戸惑いの声が漏れる。そりゃ、国王が頭を下げたら驚くよな。俺も驚いた。普通に良い人だよ、この人。


「騒ぐな。勇者殿には力を貸して頂くのだ。頭を下げるのは当然の事だろう!」


国王がそう言うと部屋が静かになる。


「騒がせてすまない。さて、お主には魔王について説明しよう。魔王とはこのエドワード王国から遥か東にある暗黒大陸に住む魔族達の王である。今までの魔王は大人しい奴だったのだが、少し前に魔王が代替わりした。新しい魔王は先代魔王を殺し魔王に就いた後、全世界に向けて宣戦布告を行った。魔族は魔王によって立場を変える。今まで大人しかった者達も魔物を従えて各地を遅い始めたのだ。既に滅びた国もある。我が国を中心として他国と連携を取り対抗しているのだが結果は芳しくはない。」


そう言って天井を見上げる国王。そして俺を見る。


「だが、神は我等を見捨てなかった。過去にも何度か勇者が何処からか現れ世界が危機に陥ると勇者の持つ力で救ってくれた。そして、今回このエドワード王国に直接その勇者を送って下さった。まさに、神の恵み。勇者カシワギ!どうか、この世界を救ってくれ!」


そう言って俺を見る国王の視線を感じながら、俺はかなり慌てていた。話を聞いてる内にとんでもない勘違いをされている事に気が付いた。どうしよう、言わないといきなり魔王の元に連れて行かれかねない。ヤバい。俺は周りを見渡してフェリアと目が合う。気まずい。


「どうした?勇者カシワギ?」


国王が俺の挙動を不思議に思ったのか声をかけてくる。よ、よし。言おう!


「あ、あの。申し訳ないんですけど、俺は勇者じゃないです。すみません。」


し~ん。音が止んだ。誰も何も言わない。フェリアを見ると笑顔のまま固まっている。

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