『勇者になった俺は神様達から逃げる為に全力をつくす。~勇者がブラックすぎる件について~』

マサツカ

序章

序章:神様は理不尽です!

「ようこそ柏木健人カシワギケント君。勇者に至る素質を持つ者よ!」




俺の目の前にいる数人の男女。その内の男の一人が前に出てそんな事を言ってきた。




何でこんな事になってるんだ?ここは一体何処だ?俺は学校帰りだったはず。




「ここは神々の間です。あなたは学校?とやらの帰りに此処に呼ばれました。」




今度は別の女が前に出てそんな事を言う。




「神々の間?つまり、あんたらは神だって言うのか?そんなのいるわけないだろ?」




俺が少し馬鹿にして言うと目の前の奴等が光を放つ。直視できない程の光が俺を襲う。眩しくて目を開けてられない。




「本来は、あなたには私達の姿を見ることは出来ません。先程までの姿はあなた達人間に分かりやすく姿を変えていただけに過ぎません。」




そう言ってくる声を聞きながら俺は跪いていた。あの光を見た瞬間、目の前にいるのが本当に神様なんだと理解させられた。させられてしまった。




「何故、ここにあなたを呼んだのか。まずは説明しましょう。」




誰かがそう言うと光が収まる。すると俺の目の前に円卓と椅子が現れる。




「まずは座って話しましょうか。どうぞ楽にして下さい。」




そう言って椅子に座る神々と椅子を見比べて俺も座る。




「さて、私達があなたを呼んだのは柏木健人カシワギケントさん。あなたに世界を救う勇者になって欲しいからです。」




そう言って俺の正面に座った女の神様が俺を見据える。他の神様も静かに俺を見ている。




「勇者ですか?つまり、俺は勇者として何処かの世界に召喚されると言う事でしょうか?」




よく、漫画や小説で描かれる異世界召喚。それが俺の身に降りかかったって事か?




「はい。何処かの世界に召喚されるというのは当たりです。ですが、あなたは勇者ではありません。勇者とは偉業を成し遂げて初めて他者からそう呼ばれるのです。あなたは素質はありますが今はまだ勇者ではないのです。」




うーん。つまり勇者と呼ばれるだけの功績を残せって事か?




「話が速くて助かります。やはり日本からの呼び出しは楽ですね。」




そう言って笑みを浮かべる神様。




「それで?俺に何をさせたいんですか?必要なのは勇者なんですよね?俺は早く家に帰りたいんですが。」




正直、早く話を終わらせて家に帰りたいんだが。




「そうです。その為に、あなたには異世界に行って世界を救い勇者になってもらいます。それを終えるまでは柏木健人カシワギケントさん、あなたは元の世界には帰れません。もちろん、その世界で死んだ場合も同様です。」




は?




「いや、言ってる意味が分からないんですけど?俺はやるなんて言ってないですよ?普通に断るつもりだったのに帰れないって何ですか?」




どういうことだよ。まさか帰すつもりはないって事か?




「断る事は出来ません。これは世界を救う為に必要な事なのです。その為にあなたを呼んだんですから。安心して下さい、勇者になることが出来れば元の場所、元の時間にあなたを戻します。」




そう言って微笑む目の前の神様。一体、何を言っているんだ?話が噛み合ってない。そもそも、勝手に呼んどいて一方的な話をされて納得出来るか!




「あなたは元の世界に帰らなければならない理由がありますよね?その為なら何でも出来るはず。決して楽な事ではありませんがあなたなら召喚された先の世界を救って帰ってこれるはずです。」




帰らなければならない理由。つまり俺の事情を知ってる上で呼び出したって事か。目の前の女の神を睨み付けていると別の男の神が声をかけてくる。




「まあ、待て。いきなり、一方的に話をされても納得出来んだろう。まあ、説明された所で納得する事は出来ないだろうがな。」




そう言って話しかけてくる神を見る。その顔には申し訳なさそうな笑みが浮かんでいる。




「安心しろ。確かに死んでしまったら元の世界には帰れなくなるが、それは最悪の場合だ。今までにもお前と同じように勇者になる為に異世界に行った奴等はいるが、生きて元の世界に帰って行った。」




そう言って俺の目を見て告げる神様。その言葉には不思議と安心させられて冷静になることが出来た。




「それって、勇者になった人達がいるって事ですか?なら、俺は必要ないんじゃ?」




既に勇者がいるっていうなら俺が呼び出された理由がわからない。




「今の勇者達では世界を救う為には足りないと言う事です。まあ、今のあなたにはまだ関係ありません。この話は別の機会に話しますので今は気にしないで下さい。」




目の前の女の神様にそう言われると確かに気にする事ではないんだと不思議と思えてくる。




「さて、彼が言った様に死んでしまったらというのは最悪の場合です。ですが、油断して死んだ者もいるのです。だから、あなたには油断せずに頑張ってもらわなきゃいけません。」




そりゃ、死ぬ訳にはいかないし油断はしないけど。これって、もう行くのは決定なのか?いや、分かってんだけど。最後まで粘ってみたけど無理だなこりゃ。なら答えは決まっている。




「はあ~。分かりました。俺は異世界に行きます。そして必ず元の世界に帰ってみせます。」




俺は神様達の顔を見渡して決意を告げる。元の世界に帰る為にどんな事でも乗り越えてみせる。




「ありがとうございます。それでは、これからあなたを召喚陣に送ります。その世界ではあなたが考えている様に魔法やモンスターが存在します。その中であなたは仲間を集めて、その世界の魔王を倒して下さい。そして、魔王を無事に倒せたならあなたを元の場所、元の時間に戻します。安心して下さい、魔王を倒すまでに何年かかっても大丈夫ですので!それでは頑張って下さい!」




そう言って俺の体を光で包む。




「ちょ、ちょっと待て!何年もかかるのかよ?!聞いてないんだけど?!お、おい。」




俺がそう叫ぶも光に包まれた俺の意識は返事を聞く間もなく沈んでいく。




「じゃあね~!次に会えるのを楽しみにしてるわ。異世界を楽しんでね。」




最後に何かを言われた気がするが俺の意識は既になく、次に目覚めたら知らない部屋だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る