海底のダンスホール
ズンタッタ ズンタッタ ズンタッタ ズンタッタ……。
どこかから聞こえてくるリズムの良い音楽に合わせて私は踊る。ゆったりとしたステップを踏む足が、赤色と黒色のダンスホールを跳ねる。そのたびに、コツコツと小気味の良い音が響く。
主役は私。観客は周りを悠々と泳いでいるみんな。つまり魚。
海底と言っても、頭上から差し込む太陽の光がダンスホールを照らしているので明るい。時々、光が変化するのは波のせいだろう。遠い昔に学校教わった、屈折角というものが関係しているのかもしれない。
あと、私の周りを大きな空気の泡が包み込んでいるから、息もできるし声も出せる。水の中で呼吸ができない生き物への気配りが感じられる。
ズンタッタ タカタカタカ ズンタッタ タカタカタカ……。
私は回る。くるくると回るたびに私が着てる青いドレスのすそがひらひらと広がる。とてもきれいに広がっているので、上から見たらきれいな青い花が咲いている様に見えるんじゃないかな。
ねぇ、そこのタイ君。どんなふうに見えるかな? ……あぁ、何も言わずに行ってしまった。まあ、仕方ないね。
気を取り直して、音楽に合わせて踊る。
わたしのすぐ近くを、カラフルな魚が通り過ぎる。今のはクマノミ。あっちにいるのはヒラメかカレイのどっちか。足元には金魚。そっちはイカとタコ。頭上に見えるはサメとシャケ。このバリエーション、水族館でもなかなかお目にかかれないだろう。
ここでは争いはなし。互いのパーソナルスペースを尊重していて良いね。
タララララー タララララー……。
私は踊る。海と音楽に包まれるように。一体化するように。踊る。回る。跳ぶ。
そういえば昔『海はすべての生物の母』だと何かの本で読んだことがある。ということは、今の私は母のお腹の中で踊る胎児と一緒ということだ。胎児よ胎児よなぜ踊る。環境の心地よさがそうさせるよ。少なくとも、今の私の場合は。
疲れたらそのまま海に還ってしまうのも良いかもしれない。気持ちよさそうだし。
ただ、今はまだ、もう少し、ここでこうやって踊っていたいかな。
ズンタッタ ズンタカター ズンタッタ ズンタカター……。
私は回る。手が届かないぐらい高くにある太陽を見上げて回る。私を囲む母なる海は、ステンドグラスをばらまいたかの様にキラキラと光っている。静かで美しくて、こんな素晴らしい場所を独り占めにしているのが申し訳なく感じる。
ふと、イルカさんと目が合った。クリッとした目が愛くるしい。イルカさんは私の周りをクルクルと泳ぐ。私も、イルカさんの胸びれと手をつなぎ、クルクルと回る。くるくる、くるくる。
10回転ぐらいしたところで手を離して回るのを止めた。目が回る。
イルカさんは私を心配そうな目で見てきた。私が大丈夫だというと、安心した様な素振りを見せてお友達の方へ泳いでいった。
ダーダラララー ダーラララララー……。
海とダンスホールが夕暮れ色に染まり、すぐに暗くなった。見上げると、海の向こうにきれいな星空が広がっていた。
そろそろお開きの時間かな?
そんなことを思っていると、ダンスホールの周りに小さな光の玉ができた。ひとつ、ふたつ、みっつ……。数え切れないぐらい沢山。
なんだろうと光の玉のひとつに近づいてみた。それは、チョウチンアンコウの光だった。なんとまあ。
辺りは沢山の光の玉によって照らされていた。昼間とはまた違った幻想的な風景を作り出す。
灯篭流しみたいだと思った。ならば、私は眠りゆく魂を送る舞を踊ろう。
ズンタッタ ズンタッタ ズンタッタ ズンタッタ……。
私は踊る。私は回る。私は跳ねる。私は踊る。
光、影、音楽、靴音。
ズンタッタ ズンタッタ ズンタッタ ズンタッタ……。
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