第七話「モブキャラは言った。そして主人公は。」
俺は湊先輩の言葉を繰り返す。
「困っていることあるだろう…私が協力…」
「そうだ。困っていること、今自分でなんとか出来る自信がないだろう?」
「な、ないです」
俺は「でもなんで分かったんですか?」と湊先輩に聞く。
「私は困っている人間を見ると、雰囲気で分かるんだ」
湊先輩は俺の唇に触れてしまいそうな所まで顔を近づけて言う。
「何に困っているのか、それを聞かせてほしい」
俺は全てを話す。普通、『キャラ』として、いや『ラブコメ』として見ている人間はそうそういないはずなので絶対に話さない。
ではなぜ湊先輩には話したのか。それは『信用』できると確信を得たからだ。
彼女が信用できるような発言をしたのではなく、これはただ俺の感が働いたという理由。
話し終えた俺に湊先輩は口を開く。
「私は君に協力することにする」
俺は喜びを言葉に込めようとしたところで、「ただし」と湊先輩は前置きをして、
「面倒が済んだら私の願い事を聞いてくれる。という条件付きだ」
「願い事?」
「詳しくは言えない…」
「分かりました、約束します。これからよろしくお願いします先輩」
「あ、あぁ」
(今一瞬顔が赤くなった気が…ま、まぁ気のせいだな)
こうして俺と湊先輩は、『仲間』になったのであった。
*****
湊先輩と『協力関係』になり解散して二分(多分)が経ったころ、二年生と思われる人が全力疾走で俺のところに来た。
「お前が湊の言っていたヘンテコなペットか!」
「はい…じゃなくてペットじゃねえよ! なんですか急に! あなたが大声で呼ぶからみんな見てるじゃないですか!」
ここは廊下だ。しかも一年三組の目の前にある廊下。
教室の奥から桜井さんと優斗がこちらを見ている。
「湊がお前を呼んでる! 今すぐ屋上に来い。だそうだ!」
「なんだよそれ!?」
「とにかく急げ!」
俺は先輩の必死さに驚きながら、全力で屋上へ向かう。
(とんでもないモンスターと約束をしてしまった…)
完全に間違えた、間違えたのだ。先ほどの先輩が言っていた伝言が本当なら間違っている。
あの人間はーー
ーードSだ。
屋上へ続く階段を上り、扉を開けるとそこには湊先輩と何かが入った黒い袋があった。
「な、なんですか先輩…!」
俺は息を切らしながら湊先輩に問う。
「何って、喧嘩相手を捕まえたからお前を呼んだんだが」
「捕まえた!? ちょっと待ってください先輩! その袋の中にはもしかして」
「あぁ、お前の言っていた『主人公』だ」
慌てて俺は袋を自力で破き、中にいる『拓民』を救う。
「大丈夫か拓民!」
「な、なんとか」
拓民を心配していると後ろから湊先輩が囁いた。
「あとは頑張れ」
「先輩!?」
振り向くと湊先輩はもういない。
「またやっちまったな…」
俺は自分が犯した失敗を悔む。
「英…その」
拓民は暗い顔で淡々と喋る。
「土曜日はごめんな。あの時は俺がどうかしてた。実は中学一年の頃まではさ、俺はこの『物語』の『主人公』だって思ってた。…でも、本当は違ったんだ。何やってもダメだし目立つ人間じゃないのに無理やり目立って、周りから白い目で見られてさ」
俺は空気の流れが変わったので深呼吸をして、気持ちを整える。
そして名前を呼ぶ。
「拓民」
「自分でやって勝手に失敗しただけなのに他人のせいにしてさ」
「拓民!」
俺は目の前で下を向いている『主人公』に言う。
「お前は『主人公』だ! 何やってもダメで、他人に自分の失敗を押し付ける、そんな『主人公』だ! もう俺は自分の『主人公』をお前に押し付けたりはしない…でも、お前が『主人公』をやめるなんてことは絶対に許さない。ダメダメな『主人公』でもいいじゃねぇか。お前が過去に何をやらかしたかは知らないけどお前は『主人公』であっていいんだ。それで良いんだよ拓民、お前はそんな『主人公』であれ! 自分の作った『主人公』であり続けろ! 絶対に…下を向くんじゃねぇ。もう、俺は『主人公』なんかじゃない。とか言うんじゃねぇ」
拓民は身体を震わせる。
「だからさ、拓民」
そうだ、それでいい。
「顔を上げろよ。下を向くな。お前は今あることだけを見ていればいい。お前が見えてない部分は俺が見て、恋だとかを俺がサポートするからさ」
それが、それこそが。
拓民は立ち上がり、俺の顔を見て言った。
「ありがとう。これからもよろしくな!」
『主人公』なんだから。
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