第三話「モブキャラは主人公に感動したりはしない」


 店内に入ってすぐに優斗が口を開いた。


 「みんな昼ご飯は家で済ましたよな?」


 「ちゃんと食べて来たぜ」


 「食べたよ~」


 「はい、食べてきました」


 俺達の答えを聞いて優斗はにっこりと笑って、


 「それじゃ、まずゲーセン行くか!」

 

 と言って『英グループ』はゲームセンターに向かう。


 ゲーセンに着いた俺達は自然な流れで、俺は優斗と、拓民は桜井さんと行動する事になった。


 (作戦通り…)


 俺は『モブキャラ』として今日は色々と作戦を立てて来たのだ。

 出会った頃に『主人公』が自己紹介で『ゲームが得意』と言っていたので俺は、『主人公』と『ヒロイン』の距離を縮めるという完璧な作戦を立てたのだ。

 『ヒロイン』が『クレーンゲーム』で手こずっているところを『主人公』がすんなりとやってみせることにより、目立っていなかった『主人公』が『ヒロイン』の視野に入る。

 そこを俺は優斗と見届ける…なんて素晴らしい作戦。

 と、自画自賛していると、優斗が話しかけてきた。


 「英、お前悪いこと考えてるだろ」


 ニヤニヤしている『友人キャラ』に向けて俺もニヤニヤ顔で答える。


 「優斗パイセン、気になりますか?」


 「聞かせてくれ英パイセン」


 優斗パイセンに向けて俺は『主人公』と『ヒロイン』をくっつける大作戦を教える。

 作戦を聞き終えた優斗パイセンは俺にグッジョブを向けてくる。


 「英、俺もその作戦に乗った」


 俺と優斗は握手をして、『主人公』と『ヒロイン』にバレないように潜伏をしながら後ろで見守る。


 

 桜井さんがクレーンゲームで何かのぬいぐるみを取ろうとしている。


 「あ~! 惜しかったな~今の」


 「今のは惜しいな」


 俺と優斗は静かな声で悔しさをあらわにする。

 桜井さんが今苦戦しているクレーンゲームとは、景品に穴が開いた付箋のようなものが張られていて、その穴にアームの足を通して、うまくして取る。とういうシンプルなものだ。


 「あれ地味に難しいんだよな~」


 「分かる。穴に通すまでは楽勝なんだけど、そこからバランス崩してなかなか取れないっていう…」


 なんてことを俺達が話していると、隣でいた拓民が困っている桜井さんに話しかけている。

 俺達は耳を傾ける。


 「桜井さん、ちょっと俺にやらしてくれない?」


 拓民はいつもとは違う面構えな事に気づいた桜井さんは「うん」と答える。


 「これはーーでーーーーだから」


 何かぶつぶつと独り言をつぶやいて、迷うことなく操作する。

 そして拓民は数秒後に、景品を取ったのだ。


 「はい、桜井さん」


 「あ、ありがとう」


 俺はその姿に感動する。

 そうだ、そうなのだ。本来の『主人公』は先ほどのように『ヒロイン』を助けて、輝く…助け…た、助けたか? ま、まぁとりあえず『主人公』だったよくやった(?)


 「拓民すげえな。今の凄かったよな英。英?」


 「ずごがっだああああああああああああああ」


 「なんで泣くんだよ!」


 感動して泣いてしまったいた俺にツッコミを入れる優斗。


 (やっと『主人公』をやってくれた…ただ今回はカッコよくはなかったが、とりあえず『ヒロイン』を救ったから良しとしよう)


 泣き止んだ俺は優斗に、「そろそろ合流するか」と言って二人の元に向かうのであった。

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