第二話「モブキャラはお出かけイベントに参加などしない」

 

 やってきてしまった土曜日。

 俺は緊張で予定より一時間前にエオンモール(ショッピングモールだぞ!)に来てしまっていた。

 現時点で『モブキャラ』としての活躍は、『主人公』たちと『友人キャラ』を関わらせて『友達』にさせたことだ。ここまでは良いのだがやはり俺の立ち位置が気になる。

 俺という『モブキャラ』、明らかにおかしいのだ。普通のモブキャラがどのラインなのかは人によるが、俺にとっての『モブキャラ』はイベントを起こす側、つまり種をまく側なのだ。

 本来なら種をまく側の俺は今、種をまいて自分で拾うというバカな『モブキャラ』。

 このまま行けば俺という『キャラ』が『モブキャラ』でなくなってしまうので今日はーー


 ーー英くん?


 自分の立ち位置を確かめていると、後ろから名前を呼ばれた。それも綺麗な声で。

 俺が振り返るとそこにはここ一週間で見慣れた輝く天使、桜井さんだった。


「桜井さん、おはよう!」


 完璧な挨拶に桜井さんは微笑んで挨拶を返してくる。


「おはよ! 英くん!」


 俺はついついその笑顔に心が奪われそうになるが必死にあるべき場所に戻す。


「英くん、まだ予定より三十分あるのに来るの早いね!」


「実は緊張して一時間前に着いちゃって……というか桜井さんも早いね」


「英くんほどではないけど私も緊張して早く来ちゃった」


 桜井さんは頬を赤くする。

 それを見て俺も恥ずかしくなり、多分…頬を赤くした。

 桜井さんはどこかを指さして口を開く。


「あれって優斗くんじゃない?」


 俺は指が刺された方向を向いてその姿を確認する。

 茶髪、高身長、整った顔、すべてが完璧であるその姿は間違いなく、


「優斗じゃないか!?」


 彼は爽やかな笑顔で手を振ってくる。


「おはよ~」


「やっぱり友人キャラだぁ…あ、いや、なんでもない、うん、おはよう!」


 俺の発言に優斗は『?』を浮かべる。


「優斗くんおはよ!」


 桜井さんは俺に見せた笑顔で優斗に挨拶を交わす。


(誰にでも優しくて素直なんだな…やはり『ヒロイン』だな)


 俺は桜井さんの『ヒロイン』っぷりに関心をする。


「二人ともいつ来た? まだ予定より十分あるけど」


 優斗の質問に桜井さんはびしっと敬礼をして答える。


「私と英くんは緊張で結構早めに来てしまいました!」


 俺は桜井さんに「なんで敬礼!?」と、ツッコミを入れる。

 優斗は「確かに」と笑いながら言う。

 俺はスマホをポケットから出して時間を確認する。


「十一時五十五分か」


 (拓民あいつ、もしかして遅刻か?)


 微妙な空気がその場に流れる。


 「拓民くん来るまでお話しよっか!」


 桜井さんが空気を洗浄する。

 こうして俺達は拓民を待ちながら、エオンモール(ショッピングモールだぞ!)の入り口付近で雑談をするのであった。


 ***


「本当にすみませんでした!」


 俺達のまえで土下座をする男は『主人公』の友也拓民ともやひろたみだ。


「別にいいぜ、早く立ち上がれ主人公!」


 と、俺は拓民に向けて言葉をかける。


「私達全然気にしてないから大丈夫だよ拓民くん!」


「そうだぜ拓民」


 桜井さんと優斗は拓民に優しい言葉を投げかける。

 拓民は立ち上がる。

 それを確認した優斗は「全員集まったことだし、とりあえず中入るか」と言って俺達は店内に向かった。

 その際、一瞬だけだったが俺には拓民の表情が曇っていたように見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る