相互扶助

「戒律を破った者が表れたらしいよ。」

 イリヤが僕に話しかけてきた。

「またかよ。今年で何人目だ。」

「まあ、彼女は集会にはあまり顔を出さない奴だったしね。いつかやるとは思っていたよ。」

「それで何をやったの、そいつは。」

「一般公開。」

「最悪。」

 身の毛もよだつ所業だ。僕達の創作活動は私信の形で行われる。プライベートの形を取ることで公開の懸念を払拭する。また、ネットにおいてもこのルールは適用される。多種多様な検索避けワードを駆使して規制をかける事で望まざる人の目に触れないようにしているのだ。だからこそ、一般公開をしたそいつに対する怒りが治まらない。

「号令はもう出たよ。一般公開するなら全部公開すれば良いんだ。」

 イリヤがそう付け加えた。

「やるなら徹底的にやろう。グリモアみたいな品のない真似は許さない。」

 僕はそう言ってイリヤについていく。そして、制裁が始まった。


 まず始めたのが公開した本人に対する誹謗中傷だ。

「承認欲求と性欲にまみれた貴方はアリステイではない。グリモアだ!」

「それを図らずも目にした人達は傷ついている。どうやって償うのか。償うつもりはあるのか!」

「公式に訴えるぞ!」

「最低限のルールすら守れないのか。お前はまさに獣だな。」

 このような言葉の暴力が彼女に降り注いだ。もちろん、私信だけではない。一般に公開されたネットなどでも白熱して行われた。

 当然、これだけでは終わらない。徐々にではあるが彼女の個人情報が明かされていった。まずは、彼女が好んで読んでいたジャンルだ。特に卑猥なものを選び抜かれて公開された。達磨、リョナ、人体欠損、等々。一般人が目にすれば眉をひそめる物ばかりだ。また、住所を匂わせる物も公開され始めた。そこで彼女の作品の一般公開は無くなった。


 今回も僕達は勝利した。正義は常に正しい者へ味方する。彼女はその後、グリモア達と親交を深めたらしい。まさに堕ちていったと呼ぶに相応しい結末だ。

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