蒟蒻問答

 大炎上した一般公開事件も治まり始めた頃、僕はネットでとあるグリモアと対話した。戒律に触れる訳ではないが、闘争意外でグリモアと話合うのは好まれる行為とは言えない。しかし、妙な話をするグリモアで思わずやり取りを続けてしまったのだ。


「彼女はそこまで酷い行いをしたのですか?」

「何故わからないのですか?一般公開をされたのです。あれを目にして傷ついた人がいるかもしれません。ちゃんとゾーニングをして読みたい人にだけ届けるべきなのです。」

「私は彼女の作品は好きですよ。読めて大変嬉しかったです。」

「そう言った個人の感想ではなく、社会一般の話をしているのです。不快になるような物は極力避けれるようにするべきです。」

「 彼女の作品は人を不快にさせるような物だとは思えませんでした。貴方はそうは思わないのですか?」

「 私がどう思うかではなく、地雷は人それぞれであると言っているのです。話をはぐらかさないで下さい。」

「 はぐらかしているつもりはないのですが。話題を少し変えましょう。何で彼女は一般公開したんですかね。」

「 それは承認欲求を満たすためじゃないんですか。自己中心的な考え方です。」

「確かに自己中心的な行為だったかもしれませんね。」

「そうでしょう。だからこそ彼女は責められるべきなのです。」

「本当に責められるような事なのでしょうか。」

「話を戻さないで下さい。誰がどうみても責められる事でしょうが!」

「いや、ごめんなさい。何となくですが考えの違いが分かりました。誰かの為になることであってもそれ意外の人が不快になるのはいけないと、そう考えているのですね。」

「そうです。不快になる人が少ない方が良いに決まっています。」

「不快になるのは良くない事なのでしょうか。」

「当たり前でしょう。そんな事は。」

「そうなんですかね。他人を不快にさせてはいけないと多くの人は言います。しかし、それは不快になる権利を剥奪されているに等しいのではないですか?知らされぬ事の方が罪深いと思うのです。」

「はぁ、よく分からないのですけど。」

「何故、神は人に不快になる感情をお与えになったのか。それが気になるのです。不快になる感情がなければ争いは起こらないでしょう。しかし、人は 不快になります。それならば、不快になる感情にも何かしらの意味があるはずなのです。それが何かはわからないのですが。」

「何を言っているのかわかりません。」

「不快になる事の意味ですよ。例えば、今回炎上した作品は同性愛を扱ったものでした。同性愛を忌避する人もいるでしょう。そこには何かしらの意味があるのではないかと。」

「同性愛を嫌うのは差別ですよ。」

「そう、差別です。しかし、それならばあの作品に嫌悪感を抱く方が悪いのではないですか。」

「それはその…でも不快になった人々は攻撃してきます。そして、そのジャンルは規制の対象になってしまうのです。私達はそれだけは回避しなければ ならないのです。」

「だから厳密なルールを強いていると言うわけですね。」

「その通りです。私達の推しジャンルを守るために は絶対に必要なことなのです。」

「それも1つの正解なのでしょうね。」

「そうです。あなたも正しいと思うでしょう。」

「ただね、不快になる意味を軽視し過ぎてはいないかと。不快になることに対して怯え過ぎてはいないかと、そう思う気持ちもあります。」

「また不快ですか。もう結構です。ありがとうございました。」

「こちらこそ、脈略のない話に付き合って頂きありがとうございました。」

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