無能共

あきかん

隠忍自重


 私達は隠れていなければなりません。理由は2つあります。

 まず1つは、この世は私達に冷たいのです。常に私達の行動を批判し侮辱し攻撃してくる人間が多くいます。彼らから身を隠さなければなりません。

 もう1つは、私達が信仰している対象に原因があります。私達は真なる愛の表現を愛しています。しかし、それは世間では望まざる者、特に未成年に見せてはいけない物です。故に、一度でも世の目に曝される事になれば私達のみならず信仰の対象すら失うでしょう。それは在ってはならないことです。だからこそ厳しい戒律の下、私達は活動していかなければならないのです。


 教祖の長い演説が続く。集まった信徒達は傾聴しその教えを胸に刻む。僕もその中の1人だ。事実、教祖の言うとおり世間は僕達に冷たい。

 この世はビスカレイに支配されている。僕達アリステイは純真であるが為に嘘や強弁、上司に胡麻をする事などが上手く出来ない。しかもそれだけではない。アリステイというだけで差別される。セクハラやパワハラは日常茶飯事。それだけでも精神が追い込まれるのに、役立たずと決めつけられて録な仕事が任されない。故に、社会の中で確かな地位が確立出来ず、また差別の再生産が生まれてしまう。

 この現状を変えようと表立って活動するアリステイも存在する。しかし、彼女達に向けられる野次や罵倒は想像を絶するものもしばしば見られる。これに屈指、活動を止める者も後をたたない。わずかに残った活動家によって少しは社会に改善が見られるが、僕達が生きやすい世の中になる日は想像もできない。

 これが僕達を廻る環境の全容だ。そして、僕達は自然とある対象を愛で始めた。真なる愛の表現だ。性欲に囚われた下衆な大衆文化ではない。心から欲するその情動の物語をアリステイたる僕達が好むのも必然と言えるだろう。だからこそ、僕達には厳しい戒律が必要なのだ。世間の烈風から僕達を守るために。僕達がこの世にすがるただ1つの希望ために。

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