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 急に二人で遊びに行けと言われても正直どうすればいいか分からないわけで。


 夕飯時に帰るという時間的制約も相まって真希と杏奈はバスで十数分ほどのところにあるショッピングモールへとやってきた。ここならいろいろ見て回るだけで時間をつぶせるし、歩き疲れたらフードコートで軽食やアイスクリームなんかも食べられる。何より屋内なので涼しい。


「……とりあえず服でも見て回る?」


 こくんと杏奈がうなづく。


 先を行く真希のとなりを杏奈が歩く。時折チラチラと確認するように真希が杏奈に視線を送ると、同じようにチラチラと真希の様子をうかがっていた大きくて丸い瞳と視線が交錯こうさくする。


 夏の陽気を避けて冷所を求める人々は少なくなく、ショッピングモールはにぎわっていた。一番多いのが家族連れ、時点でカップル。その中で真希と杏奈の二人は異質といえば異質だった。


 大人びた容姿ようしで異性の目をく真希と、幼げで可愛らしい容姿の杏奈。ある意味対極的であり、並んでいても姉妹には見えない。


「杏奈はどんな服が好き?やっぱ可愛い系のやつかな」


 ハンガーにかかった服をいくつか手に取って杏奈にかざして見せる。が、いまいちどれもピンとこない。そもそも自分の服を選ぶのもあまり得意でないのに他人のとなるとなおさら分からない。


「私は……」


 杏奈は真希をチラリと見やってから服をながめる。ほどなく苦笑して首を横に振る。


「――お姉ちゃんみたいな大人っぽいのは似合わないね」


 どれが好き、ではなく否定の言葉。つまり、本当はそういうデザインが好き、あこがれだということだろうか。


 それは真希にとって意外な返答だった。てっきりフリルがついているような可愛らしいものが好きなのだと思っていた。似合うものと好きなものは違うらしい。


「あはは、杏奈も大学生になったら似合うよ。無理に背伸びしなくてもさ」


 真希は大学生、杏奈はまだ中学生。時がてばおのずと似合うファッションも変わる。


「私は昔っからあんまり可愛いのって似合わなかったからさ。ほら、目元とかキツいし。だからこういう可愛いのが似合うのはちょっとうらやましい」


 淡いピンク色のビスチェをひらひらと振って見せる。真希には少々明るすぎる色合いだ。


 それを受け取った杏奈が自分の身体からだにあてがって見せる。やはり杏奈にはちょうどいい。真希は頷くと杏奈もはにかみを返してくれた。


(思ったよりは落ち込んでない……のかな?)


 その様子に真希は少しホッとした。


 日葵はるき拒絶きょぜつ……というほどのものでもないが少しばかり距離を置いてほしいむねの発言を受けて、彼女がどのような思いを抱いたのか。なぜあそこまで声を荒げたのか。正直真希にはよく分かっていない。だが杏奈が落ち込んでさえいなければそれでいい。


 それで――


(いいわけないんだよなぁ……)


 流行はやりのファッションに身を包んだマネキンのコーデを眺めている杏奈を後ろから眺めつつ、真希は頭を悩ませた。


 杏奈が声を荒げたのは二回。日葵の誕生日と昨日の夜。その原因は一体なんだ?


 日葵の誕生日から杏奈の日葵へのスキンシップが激しくなった。それはなぜ?何が彼女の行動に変化をもたらした?それが分からなければきっとまた繰り返す。そしてまた彼女を傷つけてしまう。


(ほっとけないよね、姉としては)


 杏奈が日葵にべったりなせいで、真希と日葵の時間が減るのは嫌だ。


 だけど、弟と妹が不仲なのはもっと嫌だ。


 これ以上致命的な軋轢あつれきが生まれる前に、姉である自分ができることがきっと何かあるはず。


 この新しい家族のためにできることが、きっと自分にも――


(……?)


 ここまで考えたところで、真希は何か違和感のようなものを感じた。何か、当たり前のことを見落としているような……。


「お姉ちゃん?どうかした?」


 たがその違和感も杏奈の呼びかけによって霧散むさんする。


「ん、なんでもない。別のとこ見に行こっか」


 結局、日が西日に変わるまでの間にその違和感の正体に気付くことはなかった。

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