ブラコンお姉ちゃんは妹のことが分からない。(1/3)
(1/3)
いよいよ
だが最初の数日は解放感のままぐうたらするだけも悪くない。家に
――しかし、
「お兄ちゃん、一緒にテレビ見よっ!」
「お兄ちゃんどこ行くの?私も一緒に行くっ!」
「夏休みの宿題?私も
お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん……
「……………」
今までの五割増しで
「えへへー、お兄ちゃんっ」
用があろうとなかろうと、家にいれば常に
「ハ……」
「お兄ちゃんっ」
ハルーと呼びかけようとして同時に
「どうしたの?」
「読んでみただけー」
ニコニコと。満面の笑みでそう答える妹に兄は
行き場を失った手をだらんと下げて、真希はソファの背もたれに
まったく付け入る
(
自分も姉としての
(いやそうじゃなく)
頭を振って考えを
(やっぱ誕生日のこと気にしてるのかなぁ……)
ぴとりと日葵に寄り
杏奈がこれほどまであからさまに日葵にべったりになったのは誕生日の翌日からだ。であればあの出来事が何らかの引き金になったのは確かだろう。
だがいったいなぜ?
誕生日をちゃんと祝ってもらえなかったからと不満に思うような日葵ではない。そんなことは日葵を知る者には火を見るより明らかだ。第一、
(分からぬ……)
もちろん杏奈の変化も気になるところではあるが、それ以上に今まで以上に杏奈が日葵と一緒にいるせいで真希が日葵を愛でる時間がほとんどなくなってしまったというのが問題だった。
そして夕食時。
「お兄ちゃんっ!あ~ん!」
「ぐふっ」
突然杏奈がフォークで刺したウィンナーを隣の日葵の口元に持って行ったので思わず真希は
(あ~んて!)
いくらブラコンの真希とてあ~んはそうそうできるものではない。料理中に日葵に試食してもらう時とか、日葵が風邪をひいた時とか、そういった理由づけをちゃんとしないとおいそれとできるものではないのだ。逆に言えば、チャンスがあったらすると言い
「え、ええ?い、いいよ自分で食べるよぉ」
不意打ちのあ~んに日葵も
「こら杏奈。仲がいいのはいいけど、夕飯ぐらい落ち着いて食べなさい!」
流石に母親にそう言われては杏奈も引き下がるしかなく、不満ながらもウィンナーを自分の口へと運んだ。
「杏奈、さ」
意を決して姉は口を開いた。
「最近ちょっと、変だよ……?どうしたの……?」
「変……?どこが?」
本当に分からないと首を
「どこがっていうと、ちょっと難しいけど……とにかく大丈夫?無理とかしてない?」
「うーん?お姉ちゃんが何を言いたいのかよく分かんないけど、私はいつも通りだよ?無理なんかしていないよー」
ひらひらと手を振って姉の心配は
「そう……」
杏奈がそう言うなら、真希としてはもうそれ以上
本当に、杏奈の日葵のへの愛情が
無理などしなくとも日葵は杏奈のこと家族として大切に思っている。それは姉の真希が保証する。今のままでは、
べったりの杏奈に日葵は苦笑を浮かべているが、その苦笑の中に疲労が混じりつつある。今までの杏奈ならそんなことすぐに気づいたはずだ。
今の杏奈に、それが見えているのだろうか。
そして、決定的な出来事が起こった。
夕食を終え、しばし。相変わらず妹にくっつかれた状態でリビングでくつろいでいた日葵に母親から声がかかる。
「お風呂できたから入っちゃってー」
同じくリビングのソファでくつろいでいた真希には日葵が少し
「じゃあ僕入ってくるね」
ようやく
「――私も一緒に入ろうかな!」
「うええぇ!?」
思わず真希は
「さ、流石にそれは……」
しどろもどろになりつつも、日葵が助けを求めるように真希を見た。
「そ、そうだよ!二人とももう中学生なんだし!私が中学生の時は……ハルとお風呂入ってたけど……」
「お姉ちゃん!?」
とは言っても、真希が中学生だった時ということは日葵は小学生だ。流石にそれと今の状況を同じとするには無理がある。片方が小学生であるのと双方中学生では大きな問題がある。いや、前者とて人によっては問題があると
ともかく、どれほど仲の良い兄妹でも普通はしないことであることは事実だ。
「お姉ちゃんはよくて私は駄目なの……?」
「いやだってそれは……僕はその時小学生だったし……」
ずいっと迫る杏奈に日葵が一歩引く。
何か、何かおかしい。
「ちょっと杏奈!ほんと、どうしたの!?」
自分の
「ハルの誕生日の時からちょっと変だよ……?誕生日知らなかったのは当然だし、教えてなかった私が悪かったというか……ハルだってなんにも気にしてないし……」
日葵が
だが、問題はそういう部分にはなかったのだと、当時の二人には分からなかった。
「ねぇ……お姉ちゃん。夕飯の時にも言ってたけど、変って何が?どこか変なの……?教えて?」
「それ、は……」
真希は言葉に
普通の兄妹ならそんなにべったりしない?それを自分が言っていいものなのか?真希は
自分はいいのに杏奈は駄目。それでは
答えに
「ねぇお兄ちゃん。何が変なの……?」
「それは……」
姉と同じように弟は言い
その言葉を探している時間に真希が適切な言葉を先に発するべきだった。
「もっと、普通の兄妹みたいに……」
悪気があったわけではない。悪気などあろうはずがない。
だがそれは、その言葉は、彼女の努力を全て否定する言葉だったのだ。
「――――」
小さく息を飲み、杏奈が身体を引いた。
日葵が失言だったと気付いた時にはもう遅い。
「……普通って、何?」
「普通の兄妹って、何?」
一人っ子だった杏奈には、分かるはずのないもの。
「私分かんないよッ!!」
そう
階段を
「ちょっとなぁに?どうしたの?」
入れ違いに何事かと母がやってきた。杏奈とよく似た顔だちに
「杏奈の大きな声が聴こえたけど……あの娘が大きな声を出すなんて
不安げに母は
子供たちが折り合いをつけられるかどうかは、母にとっても大きな
「喧嘩……喧嘩、なのかな……」
杏奈を傷つけてしまった。そのことは日葵にも分かった。
だが、あれ以外にどう言えばよかったのだろう?何が駄目だったのだろう?それが日葵には分からない。
「お姉ちゃん……僕は、どうすればいいのかな……」
日葵が真希に助けを求めるのは、本当にどうすればいいか分からない時だけだ。母を
その日葵が、歳相応に姉に助けを求めていた。
「――ッ」
その声に
だが真希にも分からなかったのだ。
真希にとっても、杏奈は初めてできた妹なのだから。
なんとか仲を取り持たなくては。だが、どうすれば……。
満ち満ちた
「――こんな時間に、誰かしら」
母がパタパタと
そして
「すまん。遅くなった。急いだんだが、日葵の誕生日には少し間に合わなかったな」
長い
真希によく似た
「お父さん……」
父、その突然の
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