(3/3)
「ただいまー」
「「おかえりー!」」
大学から
「大学生はまだ夏休みじゃないんだよね。お疲れ様」
「あーんありがとうハルぅ!」
とはいっても、夏休みに入るタイミングが中学生よりも遅いだけで夏休み期間は大学生の方が長い。
「大学がお休みになるまでは、お兄ちゃんは私が
負けじと杏奈が日葵の腕をとって
「うー……
姉と妹、双方から抱き着かれるのには
(おっと)
思い出したように真希が放り出した荷物のもとへ戻った。てっきり日葵の
「今日はね、日葵に渡したいものがあるんだ」
そう言って何やら
「じゃーん!」
効果音と共に取り出した
日葵が紙袋を開けると、中から出てきたのはシックなデザインのペンケースだった。
「誕生日おめでとう!ハル!」
「あ、そっか。今日誕生日だった」
ようやく日葵は
「やっぱり忘れてたんだね」
「あはは、うん。時期が時期だからね」
日葵の誕生日は学生にとって夏休みに入る直前、あるいは直後だ。前者はテスト期間とも
だから毎年日葵はこうして姉に祝われることで自分の誕生日を思い出す。本人は忘れても真希だけは絶対に忘れることはないからだ。
「わぁー!新しいペンケース欲しかったんだ!なんで分かったの?」
「フフフ、お姉ちゃんだから、かな!」
もちろんこれは
デザインは真希のチョイスだ。日葵の
日葵の様子を見るに、その選択は正しかったらしい。内心ほっと胸を
「ありがとう!大切にするね!」
「喜んでくれてお姉ちゃんも嬉しいよぅ!」
向けられたその笑顔に
毎年毎年
いつもと変わらない誕生日。同じ親から生まれ、同じ多くの時間を過ごした二人のやりとり。
それを見た、彼女は――
ふと、自分の右腕に抱き着いていた感触が消えていることに気付いて日葵が視線を横にやった。
「――杏奈?」
その呼びかけに笑顔の返答が帰ってくることはなかった。
「――どうしよう……私……なんにも準備してない……」
口元に手をやり、何かを恐れるように視線を下に落す。どうしよう、どうしようという
「あ、杏奈……?」
何か、ただならぬ様子に真希が日葵を
こんな状態の杏奈は初めて見る。
「ご、ごめんね……?自分でも忘れてたから誕生日教えてなかった。準備とかそんな、しなくても大丈夫だから――」
「
突然
「あ……」
自分でもこんなに大きな声が出るとは思っていなかったのか、また杏奈が自分の口を押える。
「ちょっとなにー?大きな声が
家事をこなしていた母が何事かとやってくる。
「お母さん……今日、ハルの誕生日で……」
真希が誕生日のことを母に教えると、
「ええ!?そうなの?なんでもっと早く教えてくれなかったの!」
杏奈ほどではなかったが、母もまた
「もう!すぐ準備しなきゃ!夕飯はハル君の好きなもの作るから!何がいい?」
「え、いいよ!僕なんでも……」
「いつもなんにも我がまま言わないんだから、今日ぐらい我がまま言わないと!じゃあこれから一緒にお買い物行きましょ!直接選ぶのがいいわ。食べ物以外にも何か欲しいのがあったら言ってね。誕生日プレゼント。お母さん男の子の欲しいものは分からないから教えてね」
そしてバタバタとやりかけだった
「お母さん」
その背中に杏奈が声をかけた。
「私も付いていっていい?お兄ちゃんへの誕生日プレゼント、買いたい」
「ああ、そうね。それじゃあもう
こくんと
「――お姉ちゃん、杏奈、どうしたんだろう……」
不安げに姉に問う弟に、姉は、
「仲間外れにされたって、思ちゃったのかな……。ごめん、杏奈がハルの誕生日知らないこと分かってなかった。お姉ちゃんが教えてあげてればよかった」
いつの間にか、真希と杏奈との距離が近くなっていたことが裏目に出た。
本当に家族だと思っていたからこそ、知っているものと思っていた。まだ
「お姉ちゃんが
そして、母親の準備が整ってから家族皆で買い物に向かった。
日葵の好きな夕食のおかずの材料や出来合いのお
だが、日葵の誕生日を前もって準備できなかったという事実は変わりようがなく。
杏奈の笑顔の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます