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「お姉ちゃん、何してるの?」
夕食を終えた後、明日のお弁当のための下準備を始めた
「明日のお弁当、私が作ろうと思って」
タネに混ぜる用の玉ねぎを
「お姉ちゃん料理得意なんだ」
「あれ、作ったことなかったっけ?」
こくんと杏奈が
杏奈達が来るまでは毎日していただけに、すっかりすでに振る舞ったものと思っていた。
「もちろん杏奈の分も作るからね」
「ほんと?楽しみ!」
そう言って花の咲くような笑顔を浮かべる妹。思わず姉の表情も
(ま、
おかずなどの具材はそのままに、日葵のお弁当だけはできうる限りの愛を表現するつもりだ。
(姉の
「……お姉ちゃん?」
ハッとして
その調理の様子を
「……次は私がお弁当作る」
(杏奈も料理できるのかな……でも、ちょっと大人げないけど負ける気はしないかな)
実際、真希の料理の腕はなかなかのものだ。
それが真希自身も分かっているからこそ、その得意分野で日葵にアピールしようと決めたのだ。
(これはハルのみならず、杏奈も私のこと
勝利を確信したが
チャイムの音が鳴り
毎日のように
ここは日葵と杏奈の
「あー
トントンと先ほどまで机に広げていた
「
教科書を鞄の中にしまい込み、日葵が苦笑すると空いた机の上に大き目の弁当箱がドスンと置かれる。
「しかたねぇだろ。朝飯
待ちきれないとばかりに弁当の包みをほどきにかかる少年。名前は
ツンツン髪と
その体型のイメージ通り、部活はバスケ部に
そんな佑真と帰宅部の日葵の出会いは小学生の頃まで
「うわっ、プチトマト入ってんじゃん。嫌いだって言ってんのに」
「嫌いって言ったら、いっぱい食ったら嫌いじゃなくなるとか言うんだぜ。どんだけ食ってもまずいもんはまずいって!」
「あはは……」
なんともゴリ押しな
毎度こんなやりとりを繰り広げる二人だが、この中学校では女子の人気を二分する人気者だったりする。
スポーツマンで男らしい佑真。女子も
その理由は佑真と日葵が一緒にいることに価値を見出す女子の
「あ……」
自分も弁当箱の包みを鞄から取り出し、はたと日葵は何かを思い出す。
「今日のお弁当、お姉ちゃんが作ったんだった」
「お前の姉ちゃんが?」
いつもと同じオレンジ色の包み、いつもと同じ二段式の水色の弁当箱。ただ中身を作った人が違う。
一年二年の時の弁当は毎日姉が作ってくれていた。新しい母が弁当を作ってくれるようになってまだ三カ月ほどだが、それでもどこか
「いいよなぁ日葵は。超美人の姉ちゃんと
一人っ子の佑真にとって姉妹がいることは非常に
「まぁ、うん……そうだね。お姉ちゃんと……妹がいてよかったと思うよ」
少しばかり
この場に真希がいれば
「なんだよお前シスコンかよー。でもくっそ羨ましい。ちくしょー」
ガツガツと弁当をかき込む佑真を見ていると日葵もいい加減お腹が空いてきた。
包みを
「……どした?」
「――うわ」
思わず声を上げた佑真のリアクションに、近くを通りかかったクラスメイト達も視線を送り、同様の反応を
弁当箱の一段目には、とても、大きな愛が込められていた。
具体的には、白米の下地に桜でんぶで大きくハートマークが
絵に描いたような愛情弁当。漫画やアニメなんかで新婚の夫が新妻に持たされるような、そんな冗談のような弁当がそこにはあった。
「……すごいな。
言いつつもすでにパシャリと写真が撮られている。スマホを持ち込むのはいちおう校則違反だが、今の時代、教師もそこまで
その音を皮切りに女子達の間にさざ波のような衝撃が
「「瀬野君が彼女の手作り弁当を持ってきてるって!?」」
誰が最初に言ったか分からないが、そんな
そう、この愛情弁当を見てブラコンの姉が弟に向けて作った物と誰が思おうか。いくら日葵がこの中学で人気者だとしても、学校に現れることのないその姉がブラコンなどとは佑真以外には誰も知る
「嘘よ……きっと何かの間違いよ……!!」
「相手は誰!?この学校ではそんな
「うぅ……お姉ちゃん……」
「なんつーか、あれだな」
自分の弁当をおかずを米粒一つ残さずに全て
「姉に好かれ過ぎるってのも、大変かもな」
しみじみと。
以後、しばらくの間、女子達は日葵の彼女が誰か、という話題で持ち切りになるのだった。
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