ブラコンお姉ちゃんは妹とちゃんとお話ししたい。
(1/3)
「……うわ」
床に直接固定されたデスクが
せっかくの美人を台無しにしてデスクにつっぷす残念なお姉ちゃんに
長い髪をわさぁと広げて
「――
真希とは
「千佳子おぉぉ……」
また響いてきた呼びかけ。仕方なく千佳子はスマホをデスクに置き、おもむろに鞄から
そしてその手を声のする方へ。
「ほぉら、お食べ。スッキリするよ」
もぞもぞと髪が動き、ようやく真希の顔が
動物に
「……千佳子のやつ
「甘いの食べたって目、覚めないでしょ」
「別に眠いわけじゃないもん」
その言葉を
「あんたねぇ。見てくれはいいんだからちょっとは気を使いなさいよ」
呆れて
最後にファサァッと髪を
「まったく……
千佳子がそう
「別に興味ないし」
これである。
それがクールを
「それで、どうしたの朝から」
「よくぞ聞いてくれた友よ」
「あんたが聞いて
真希達は現在大学二回生。そして二人の
学科が同じということ以外これといって共通点もない二人だが、
「最近弟成分が足りない」
「ふーん」
そっけなく返事をして千佳子はスマホを手に取ろうとする。
その手が
千佳子の手元にあったスマホを
「
ようはスマホを見ずに真剣に
その
「だったら自分のスマホで弟さんの写真でも
奪い返したスマホをそのまま
なんだかんだちゃんと話を聞こうとするあたりに千佳子の人の良さがある。
「そりゃ写真はいっぱいあるけど……」
一瞬自分のスマホを取り出して眺めようとした真希だが、画面を
「やっぱりナマじゃないと……こう、愛が感じられない」
「お前朝から何言ってんだぶん
真希ほどの美人がそんなすれすれなことを
もっとも、千佳子としても本当に
「あんたねぇ……ブラコンもいい
「気持ち悪いって……もっとオブラートに
「私、オブラートって食べた記憶ないなぁ……」
「お菓子とかにも使われてるよ?」
「へぇ」
しばし、
「私はオブラートの話がしたいのではない!」
「でしょうね」
あっけらかんとした様子の千佳子に真希はうむむと
「私だってハルに嫌われたくないからスキンシップはハルのコンディションを
「弟君も大変ね……」
「私は本当にあんたが実の弟に手を出すんじゃないかちょっと心配だよ」
「む、
「だといいけど」
千佳子としても友人がそんな
もっとも、今の段階でも
「それで、今までは大丈夫だったのにどうしてそんなしょげてたのさ」
話を戻し、千佳子が真希が
問いつつ、あぁとその原因に思い
「って、あれかな。やたらベタベタしてくるお姉ちゃんに弟君もとうとう
「うぐ……まぁ、
いくら家族とはいえお
だが、真希と
何やらまだ
「何、他になんか理由あんの?」
少しばかり真剣な色を
「……私、妹がいるんだけど……」
一瞬、きょとんとした千佳子だったが、少しするとあぁと思い至る。
「お父さん、再婚したんだっけ。再婚相手の連れ子だったよね、確か。うん……その妹ちゃんがどうしたの?」
千佳子が
千佳子がこういう性格であるから、真希は彼女に相談しようと思った。
「最近……ハルと妹が、すごく仲が良くて……」
一瞬の
「――
「良い事じゃない。あんたお姉ちゃんなんだから
「そうなんだけど……そうなんだけどさぁ……」
ぐにゃぐにゃと真希が
「なんか……仲良すぎるような気がするんだよねぇ……むぎゅ」
「どの口が言ってんだ?」
「ふぉのふち」
「仲良すぎるのは今までのあんたと弟君でしょ?普通、
千佳子の指から解放された
「そんなことになったら私死んじゃう……」
しくしく。
「想像して泣くなブラコン」
しかしふと千佳子は
「でも……そんなあんたからして仲良すぎるように見えるって……ちょっと気になるわね」
千佳子に目線で
「家にいる時はいつもべったりだし、何かあるごとにお兄ちゃんお兄ちゃんって……」
「それお前もじゃね?」
「そうだけど……」
逆に言えば、かなりのブラコンである真希と同レベルの愛情表現であるということ。
「でもまぁ、そう聞くと思うところがないわけでもないわね」
友人の言葉に真希が耳を
「ちょっとシャレにならない話になっちゃうけど、普通さ、連れ子が女の子だったら仲良くなるのは弟君じゃなくて姉のあんただと思うのよ。やっぱ
むくりと身体を起こした真希が無言で
「あんまこんなこと言いたくはないけどさ……妹ちゃん、好きなんじゃないの?異性として、弟君のことが」
「……やっぱりそう思っちゃうよね……」
「まぁ仕方ないとは思うけどねー。あんたの弟なら、弟君もけっこう顔いいだろうし。それで同じ屋根の下でしょ?
よくないと分かっていればこそ、
「弟君の方にしてもさ。一歳下の
「ハルはエロゲーなんてしないッッッ!!」
ベッドの下にエッチな雑誌を隠しているということもない(姉調べ)。
「エロゲーはともかく中学生でエロに興味なかったらそれはそれで問題だゾ」
べったりな
「ともかく、家族愛か恋愛感情か、かなり
「……うん」
しょぼくれて真希は
「ねぇ千佳子ぉ……私どうすればいいと思う……?」
「どうもこうも……見守るしかないんじゃないの?どうしようもないって」
「あ、ちなみに弟君、義理の妹とは結婚できるんだよ。知ってた?」
「そうなの!?」
問題はないが……。
「駄目……駄目駄目!そんなの駄目だよ!」
問題ないとしても、今の家族の形は間違いなく
真希の父親と、杏奈の母親が望んだ普通の家族という形が崩れてしまう。
それに何より、
「そんなことになったらハルが私に
「お前……ほんと残念なお姉ちゃんだな……」
「千佳子おぉぉ!わだぢどうずればいいのおぉぉ!?」
半べそをかきながら千佳子の肩を
「やめろ揺するなうるさい。そろそろ講義始まるよ」
講義の時間が近づくにつれ人も増えてきた。
真希から解放された千佳子は
「構ってくれなくなる
そうこうしている内に
ざわざわとしていた講義室内がそれを機に少しずつ静かになり、
「とりあえず、一度ちゃんと妹ちゃんと話してみたら?思い過ごしかもしれないし」
チャイムが鳴り、教授の
(杏奈と話す、かぁ)
思えば同居を始めて三カ月。日葵と杏奈はずいぶん親しくなったように思うが、真希と杏奈はどうかというとそこまで
仲良くないというわけではないし、真希は杏奈のことを本当の家族、妹だと思っている。だが、いかんせんまだ三カ月。日葵のお姉ちゃんとしてはベテランの真希も、杏奈のお姉ちゃんとしてはまだまだぺーぺーもいいところだ。まだまだ杏奈が何を考えているか分からないことも多いし、そのせいで無意識に真希が
ここは一つ、
(私と杏奈が仲良くなれば、意外と全部解決したり?)
なんてことを真希は思った。そうすればこんなことを気に病むこともなくなるだろう。本人に全て聞けばいいのだから。
白紙のルーズリーフに視線を落しつつ、教授の声が耳から耳へ抜けていく。この講義中、真希はずっと杏奈にどうやって話を切り出そうかと考えていた。
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