第7話ユニオンナイト配信中!
ユニオンナイトの職務は主にベノムの討伐である。しかし、政府の元に発足した彼女たちには他にも様々な職務がある。鍛練、座学などはもちろんのこと、政府がヒーローとしてその認知度を高めるために広報活動も行っている。
それは雑誌のインタビューであったり、ニュースの出演であったりとマスメディアの露出が多い中、最も注目を集めているのはやはりYouTubeによるチャンネル配信だろう。
彼女たち3人がちょっとしたプライベートの話からベノムとの戦闘についてまで多岐に渡るリスナーの質問に答えていくチャンネル、その名も『ユニチャンネル』である。
「はい、というわけで今週もやってまいりました! ユニチャンネルのお時間です! 本日もあたし、レッドと!」
「い、イエローです……」
「ブルーよ」
「の3人でお送りしまーす!!」
パチパチと拍手をしながら、きゃいきゃいと配信が始まる。それと共に視聴者たちのコメントも一気に流れていく。
ユニオンナイトの面々はスーツを身には纏わず、それぞれのカラーのマスクをつけている。といっても、隠しているのは目元だけであり、口元などは露わになっている。
撮影は、政府の用意した場所で行われており、カラフルな明るい雰囲気の部屋である。基本的には明るいレッドが話を回しており、チャンネルを進行している。
「え〜、今回でなんと第43回かな? 大分、このチャンネルも色んな人に観ていただけるようになりましたね!」
「そ、そうだね……。最初はグダグダだったけど、ちょっと慣れてきたかも」
「確かにね。私も全然喋らなかったし」
ユニオンナイトが活動を始めてからすぐに開設されたこのチャンネルは、広く浸透しており、今やユニオンナイトはヒーローとしてはもちろん、なぜかアイドルのようにも認知されているような状況である。
余談だが、つい1ヶ月ほど前には楽曲デビューも果たしているという謎の状況になっている。割と売れたらしい。
「そうだよぉ、最初の頃のブルーってば全然喋らないし、すぐに鍛練に行こうとするんだもん。この活動だって、あたしたちがきちんと認知されて、皆に信じて避難してもらうための大事なことなのに」
「……それは当時の私はまだまだ若かったのよ」
「今も若いと思うんだけどな……アハハ」
「まぁ、とにかく! いつも通り活動報告しちゃおうよ!」
ユニオンナイトの戦いは、もちろんニュースで報道され、世間でも知られていることである。それに加えて『ユニチャンネル』では、ベノムとの戦いについて本人たちが報告し、その恐ろしさのアピールだったり、自分たちの実力の向上などを伝えている。
「今回の戦いはね、それはもうあたしたちの成長が光る戦いでした!」
「う、うん! 本当にバッチリ連携もはまってたよね!」
自分たちの実力が明らかに向上したという事実に、普段は大人しいイエローも大きめな声を出しているのを観て、視聴者のイエローファンが騒いでいるコメントを残していく。それをイエローが見て、彼女がまたエヘヘと照れ笑いをしているのを観て盛り上がるというなんとも賑やかな様子で話が進んでいく。
「私も強くなったと思ったけど、今回の戦いでは個人的にはレッドの成長に目を見張ったわ」
「あ、そうだよね! 私もすっごくそれ思ったの!」
ブルーは自分の実力の向上を認めつつ、レッドの戦闘シーンを個人的にピックアップし伝えると、イエローもそれに同調する。ちなみにブルーが話すと、彼女のファンは一斉に「踏まれたい」、「罵って欲しい」などのコメントが出るが、彼女が反応したことはなかった。それもまたファンは大喜びなのだが。
「え〜、そうかなぁ。アハハ、ほんとにぃ?」
2人がレッドをベタ褒めすると、それに対して彼女はグニャグニャと体を揺らし、ニヨニヨと笑う。それを2人が微笑ましいものを見る目で見つめていると、またコメント欄は「尊い……」と流れていく。
仲の良い3人の関係性を好む視聴者が多いのか、最近はそういったコメントが増えていっていた。
「でも、確かに前の戦いではなんか斬る時のイメージがすごく鮮明だったのもあって、上手く動けたんだよねぇ」
「そうね、動きに迷いがないように見えたわ。それとイエローの狙撃も完璧な位置に打ち込むことができてたわ」
「エヘヘ……。ありがと、ブルーも槍とサブの切り替えがすごく早かったね」
お互いの良かった点や戦闘の様子などを話し合い、視聴者たちはそれを通してユニオンナイトの強さを知り、日々の生活に安堵している。ニュースなどの報道でも戦闘シーンを観ている人がほとんどだったが、実際に戦闘をしている者の心境などに関心を示すものは非常に多かった。
「よし、次いこ! 続いてはこのコーナー! 『ユニオン質問箱』!」
「え〜と、まずはP・Nブルーに踏まれたいさんの質問です」
「なぜそのP・Nを採用したのかしら、政府って頭悪いの?」
「ちょっとブルー! それはまずいって!!」
確かに謎であった。
「まぁまぁ、お便り読むね。『ベノム退治で忙しい皆さんですが、普段はどのようなトレーニングをされているのですか?』」
「想像以上にまともな質問に私はどんな顔をして答えればいいのか分からないわ……」
「そうだね……。あたしもびっくりだよ」
「まぁ、でもこれは確かに気になるよね……。なんだかんだ言ったことないんじゃなかったかなぁ」
全員で顔を見合わせ、これまでの放送を思い返してみるが、確かに普段のトレーニングについて話したことはなかった。
「基本的には身体能力を向上させることが一番かしら。やっぱりユニオンナイトは戦いがメインだし」
「そうだね……、他は負傷者の救急処置とかを座学や実習で習うことが多いかなぁ」
「あとはあたしたちで実践訓練とかだね」
さらに内容を深掘りして、具体的なメニューについて話したり、そのメニューを簡易化したものをダイエット動画にしてみたらどうかなどと雑談したりして、次の質問へと移った。
「さて、続いての質問はP・Nイエローを養ってあげたいさんからです」
「もうちょっとP・Nをまともなものにしましょうよ……」
「ていうか、あたしに対するP・Nはなんでないのよ!」
P・Nに対する疑問やら不満やらを吐き出した後、質問の内容をイエローが読み上げていく。
「え〜と、『この前の戦いの現場近くにたまたまいて、避難中に少しだけ見たのですが、あの黒い騎士みたいな人もユニオンナイトなんですか?』」
「これは……」
「どうなんだろねぇ……」
こうした質問を選んでいるのは、あくまで動画のスタッフ、つまりはユニオンナイトの本部のスタッフたちである。ならば、選んだ意図はあるのだろうが、どうしてあえて情報を晒すことにしたのだろうか。
何はともあれ、答えるべきことは答えるべきだろう。
「あの人のことについては現在政府でも調査中なので、詳しいことがわかったらまた報道されると思うわ」
「正直、あたしたちもよくわかんないんだよ」
レッドが答えると、すぐに話題転換をする。あまりこの情報は深掘りはできないが、全く把握していないというのもまずいだろうという判断である。
「そういや話は変わるけどさ、最近はイエローはアニメなんか観てるの?」
「うん! 今期も面白いの何個かあるよ! また教えるね!」
「よろしくぅ!」
「ブルーの手料理を食べながら観るアニメは最高だもん!」
「私は別にアニメは興味ないのだけれど……。まぁ、いいわ」
キャッキャッと話題を逸らし、今日のチャンネルも終了していった。
「あいつら、見た目は良さげだし、性格もいいから推したいんだけどなぁ〜」
ボリボリと煎餅を食べながら、手に入れたばかりのスマホでYouTubeを観ていた5thが呟く。実際、彼女たちがただのアイドルであれば推していたのにと思いながら、自分の推しを確認する。
「でも、やっぱ推しはリリアンローズだよな! 可愛い! ライブ抽選当たんねぇかなぁ」
すっかりユニオンナイトの放送を忘れ、5thは自分の箱推しアイドルグループの冠番組を観るのだった。
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