第5話ユニオンナイトの戦い

 日本においてベノムは東京で出現し、瞬く間に他の都道府県に移動する。2年前のベノム出現という災害では、日本全国に被害が出たが、最初の出現位置は全て東京であったことが記録されている。とはいえ、ベノムが本気で移動しようとする場合、日本全国どこにいても関係はないのだが。

 他の国々でも同様だった。ベノムの出現位置はある程度決まっており、大概がその出現位置は各国の首都になりやすい。故に、ライザーやユニオンナイトは必然的に出現位置のほど近くに本部を建てている。

 こうした対策を進めていくうちに、ベノムによる被害は大幅に下がり、一時期は劇的に人々が減った首都には活気が戻っていた。


「ベノムの反応です! 今から5分後に出現予定!」

「場所は!?」

「本部から近いです。画面に転写し、ユニオンナイトの護送車にデータを送ります!」

「ユニオンナイトは配置についたか!」

『『『はい!!』』』


 通信機越しに元気よくユニオンナイトが返事をし、すぐさま現場へ向かう。同時にオペレーターが現場に避難指示のアナウンスと緊急警報を行うよう指示を出す。

 護送車は凄まじいスピードで移動し、周囲の車も護送車のサイレンを聞いて道を開ける。


「……毎回、この時間が1番怖いんだよね……」

「気持ちは分かるよ。いつだって怖いもん、あいつら」

「そうね……。でも、もう失って泣くだけが嫌だから、私たちはユニオンナイトになったんだもの。戦わなきゃ」


 それぞれが緊張と恐怖を顔に貼り付けて、それでも凪の言葉に頷く。


「そうだよ。きっと今逃げちゃう方が簡単で、絶対にできないことだ。あたしたちは戦うことを選ばずにはいられなかったんだから」

「えぇ、選んだのは私たちよ」


 全員が朱美の言葉に決意を固め、それぞれがブレスレッド型変身装置、ユニオンに手を伸ばす。


『『『Union!!!』』』


 護送車の中でそれぞれの色のスーツを身に纏い、彼女たちは戦闘準備を開始した。


「行くよ、二人とも」

「えぇ、レッド。イエローもいいかしら?」

「もちろんだよ……ブルー」


 スーツを身に纏った彼女達は安直なコードネームを呼び合い、現場に到着するのを静かに、だが確かな闘志を秘めて待っていた。











 ユニオンナイトがベノムの出現を察知した同時刻、5thもまたベノムの存在を感知した。


「出やがったな」


 すぐさま明るい色調のアイドルTシャツから全身黒のスーツに着替え、フルフェイスのヘルメットを被る。自分の愛車であるW800に跨り、ベルトを出現させる。

 鍵を回し、エンジンをふかしてすぐさま出発する。


(しかし、これはユニオンナイトの本部に近いな……。先にあのユニオンナイトたちがおっぱじめちまうかもな)


 彼女たちの実力は知っている。以前は彼女達が先に交戦していた時はいつでも割って入れるように待機していたが、もはや自分の存在は彼女達に周知されている。それならばすぐさま乱入し、ベノムの相手を自分が引き受けてしまおう。そう考え、5thはアクセルを更に回し、スピードを上げた。










 現場に護送車が到着すると、ユニオンナイトのメンバーを降ろし、車はそのまま安全圏まで走っていく。少女達は辺りを見回すが、血の跡などはなく建物も破壊されていない。どうやら出現直後に到着することができたらしく、ベノムは大通りで獲物を探すように歩き回っていた。

 ベノムの相変わらずの醜悪さにユニオンナイトの面々はバイザーの下で眉を潜めた。あちらはまだユニオンナイトを発見していないようだ。


「園田司令官、住民達に被害は出ていませんか?」

『出ていない。避難勧告が早くできたおかげだろう。運が良かったな』

「じゃ、じゃあ、私たちがあいつをやっつければ今回は一件落着ですね」

『あぁ、頼んだぞ』

「了解しました」


 通信を切り、3人は大通りを歩き回るベノムに気付かれないように徐々に距離を詰めて、それぞれ自分の武装を取り出す。

 朱美は刀、香子は銃、凪は槍である。基本的にベノムにはベノム用に加工した銃弾であっても効果は薄く、近接武器に重点を置く必要性があった。

 朱美と凪は両側面から同時攻撃を仕掛けるつもりで、近くの建物に身を隠す。そして、香子が囮として中距離から銃弾を打ち込み、そちらに意識が向いた瞬間に仕掛けるのがいつものパターンだった。今回も手筈通り、そうした展開を作ろうとする。


(ね、狙いはベノムの口……。そこだけはこの銃弾でもかなりのダメージが期待できる。しっかりと狙いを定めて、できるだけ連撃で打ち込まないと……!)


 香子が集中状態に入ると、まるで世界から音が消えたかのような錯覚に陥る。いい集中状態であると香子は自分のコンディションを確認し、心を落ち着かせる。元々気弱な性格である香子には、いつだって2人以上にベノムに対する恐怖がある。だが、それでも今ここに立っている以上、そんな恐怖はねじ伏せて立ち向かわねばならないーーー!!

 ベノムが香子の方へ顔を向けた刹那、


「今!!!」


 普段からは考えられないような鋭い声を出し、彼女はベノムに銃撃を叩き込んだ。その弾は確かにベノムの口の中を射抜き、奴が怯む姿が見えた。すかさず、引き金を引き、同じ場所へ正確無比に撃ち込む。


「ヴェアァァァァァァッ!!!」


 痛みに苦しみながらも、その叫び声には確かに怒りの感情が感じ取れる。そして、意識が確かに香子に向かったことを確認した朱美と凪はアイコンタクトすら取らずに、同時に飛び出してそれぞれの武器をベノムの頭に突き刺した。

 ベノムが痛みに苦しみ腕を振り回す前に、朱美は突き刺した刀をそのまま下へ振り下ろそうと全力で力を込める。一方、凪はすぐさま槍を引き抜くと、今度は腕に突き刺す。


「ゲェッ!!」


 ベノムは緑の粘液のようなものを口から吐き出しながら、凪に貫かれていない方の腕で朱美を攻撃しようとするが、それを香子は許さない。

 人間の手・肘・肩にあたる部分へ銃弾を放ち、動きを一瞬止める。


「ブルー!」

「了解!」


 指示はいらない。もう既にお互いがどう動くかなんて必要もない。

 凪は素早く腰に付けていた2本の短刀を取り出し、ベノムの2本の脚を貫いた。そして、朱美は振り下ろした刀を正眼の構えに戻し、斜め下から上に切り上げた。

 狙いは首、一撃で人体よりも遥かに太く硬い首を切り落とすーーー!

 瞬間に朱美の脳裏に浮かんだイメージはあの黒い騎士がベノムの首を切り落とす光景だ。そのイメージは確かな手応えを通して現実になったことを確信する。

 

「ヴェギャァ?」


 その一言を最後に徐々にベノムの頭はずれていき、道路にベシャリと落ちた。

 僅か3分にも満たない一瞬で、ユニオンナイトとベノムの戦いは決着した。

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