第3話

陸奥介は、今回の赴任に際し、戸惑うことなく、妻子の同伴を希望した。


妻女も、全く同様であった。





彼らには、二人の子供がいた。


男の子と女の子であった。


上は、七歳の長男、下は、四歳の長女であった。


この度の道行き(下向の旅路)で、“最も難題である”と思われたのは、四歳の女の子が陸奥までの長い長い旅路に耐え得るか、ということであった。


だからと言って、夫婦にほかの選択肢などあり得なかった訳であるが。





陸奥介の両親は、すでに他界していた。


そして、彼には、仮に娘を京に残すに際して、後の事を託し得る兄弟姉妹が居らなかった。


また、奥方には、両親がともに存命であったのであるけれども、二人とも、良い歳をしていたのである。


そのほかのことも、夫の事情によく似ていた。





陸奥介は、従者として、家人の中から、陸奥までの旅程とそこでの数年にわたる風雪に耐え得る心身を備えた者ども、男女を厳選し、それ以外は、従兄弟や元同僚、友人などの邸で召し抱えてもらえるよう、きちんと手配をした上で、暇を言い渡したのであった。


中には、相当の年寄りであるゆえ、“もう、息子の世話になるばかりである”として、陸奥介の申し出を幾重にも丁重に謝しつつ、辞退する者もあった。


そのような者は、“これが、殿との本当の永の別れにならん”と思って、涙に暮れつつ、“必ずや、再会の時まで命長らえん”と、強く心に期するのであった。


さて、陸奥介らの帰京がいつになるか、誰も見当がつかないのてあった。








陸奥介は、左京のほぼ中央にあった家邸(いえやしき)の後事を、従兄弟の1人に託した。


彼は、兵部卿の弟で、その兄弟の中では一番歳が近く、竹馬の友であると言えた。

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