第2話

受領階級にとって、陸奥への赴任は、実のところ栄転とも思われる。


金が採れるので。そこは。


ただ、確かに寒さが極めて厳しいことには変わりがない。


また、そこは、朝廷の前線でもあり、帰服者の扱いをも含めて、非常に難しい施政が求められるとされている。


はっきり言って、とても緊張感に満ちた現場なのである。


況して、身内である者にしろ、荒くれ者ばかりであるとの専らの評判である。


このような状況に対処するに、明国は、いくら何でも“押しが弱い”と、あの上司は考えていた。


自分のことは、棚に上げつつ。


そして、卑劣漢は、明国が赴任先で自滅でもすれば良いとも考えていたのである。


これとは別に、明国の自負心に関わる機微も問題になろうと、彼は認識していた。


明国は、受領という仕事にどっぷりと漬かっていなければいけない身分というか、出自ではない。


中央で十分に累進が叶い得る立場であった。


それが、遠国(おんごく)に送られ、それに相応しい年月を中央から遠離かっていなければならないのである。


無論、彼の出世は、何事(都落ち)もなかったであろう場合に比べて、遅くなるであろうし、その帰着も振るわないであろうというものである。


かくなる頭の巡らしようを、人は、往々にして避けられないものなのであろうか。


普段は、それを善用するのに吝(やぶさ)かであるくせに。








陸奥介藤原明国が任地に赴任するにあたり、多くの元同僚が別れを惜しんで、その旅立ちを見送りにやって来た。それぞれが、ささやかながら、餞別を持ち寄りつつ。





今回の一件に関して、明国の従兄弟である兵部卿は、自らが明国を庇(かば)うのに何ら役に立てなかったことを、彼に詫びた。


そして、兵部卿は、いずれ、必ずこの穴埋めはせんと約束した。


これに対し、明国は、「滅相(めっそう)もない。ただ自らの不手際ゆえに」と申して、兵部卿の気持ちのみを有り難く承る旨を、再三再四先方に伝えた。

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