戻ってきた剣士
ユアは、ネツに頼みごとをしていた。
「いいの?一応あなたの帰りもあわせての宴だったんだけど。」
「ああ。」
そんなことも兼ねてたのか。
「そう……」
ネツは黙り込む。
俺の姪はかわいいな。
「ちょっと、あの……その……ごめん。」
「何を謝るんだ?」
「異世界に飛ばしちゃって、ごめんなさい。」
ネツはどんどん涙目になっていく。
おいおいそんな顔しないでくれよ。もれなく姉ちゃんに叱られるじゃねぇか。
「私が異世界にあなたたちを放り込まなかったら、あなたの敵は今頃いなかった……っ」
どうやら、母さんたちを殺したのは自分。そう言いたいらしい。
「私が放り込んだから、おばあちゃんは死んだの。すべて私のせいなのよ。ごめん、ごめんなさいっ」
途中から涙をこぼしながらしゃべるネツ。
「私はボルケーノになんでお母さんを殺したのって、泣きついた。でもその時の自分の姿にユアが重なったの。本当にごめんなさい。私が放り込まなかったら……」
「それは違うぞ。」
「え?」
涙目のネツに俺はなぜか説得を試みていた。
「お前が放り込んでくれなかったら、俺は師匠に会うことができなかった。お前が放り込んでくれなかったら、マークはあのとき死んでいたかもしれない。」
「うっ」
「俺は憎んでなどいないし怒ってもいない、むしろ、感謝してるぐらいだ。」
そこまで言うとネツは泣くのをやめていた。
「ほんと?」
「『武士に二言はない』って言葉、知ってるか?」
師匠の国にあったことわざである。
ネツは今度は笑い出した。
「ふふっ!私のおじさんらしいわ。ありがとう。元気が出た。」
「どういたしまして。だな。さあ、送ってくりぇ。」
大事なところでかんだ。
「プッ!わ、わかった!ぷぷーー!」
「う、うるさいぞ!」
ヴォン、という音が鳴り、空中に空間のゆがみができる。
俺は迷いなくそこに飛び込もうと……
「おじちゃん!忘れ物!」
ネツから魔法具を渡された。
魔法具とは魔法が詰まった道具であり、詰まった魔法が使える便利道具。
中を解析すると、次元転移の魔法が入っていた。
「たまには遊びに来てよー!」
「任せろー!」
俺は今度こそ、飛び込んだ――!
そこには野原が広がっており、ポツリと家がある。
ちょうど洗濯当番の時間だったのだろうか。
一人の少女が洗濯物を出していた。
水色のショートカット。
透き通るような水色の瞳はなんだかちょっと寂しそうだ。
間違いない。
あの世界である。
やがて、少女が俺に気づいたのか持っていた洗濯籠を落とした。
「ユ……ア?」
俺の名前を呼ばれる。
「そうだ!お前らの弟子、ユアさんだぞー!」
少女の瞳に、ネツの時も見たように涙がたまっていく。
「ユア――!」
泣いて抱き着いてくる水色の少女。
安心したような表情で、腕を組みながら窓によりかかるオレンジ色の少女。
よかったね、と言葉を贈る白色の女の子。
「ただいま。」
俺は無意識に水色の女の子を抱きしめ、そう言っていた。
その夜。
「無事、戻ってきたね。」
話しかけられた。
「武士に二言はないからな。」
「よく言うよ。私に
むっ。
「ただ、よく戻ってきたね。今晩は寝かせないよ?」
「おぉ、お手柔らかに頼むな。」
モテ期の襲来かな?
「かんぱーーーい!」
「かんぱーーーい!」
酒を飲んだ後、こいつは眠りについてしまった。
こんなに期待させててこれはないだろぉぉぉぉぉぉ!
最後までパッとしないユアだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます