うさぎとかめ
日本横断ツーリングから帰ってきて数日後、またいつもの学食。
「だーかーらーっ、次のツーリングでって言ってるでしょ」と孝子。
結局、二人の勝負は峠勝負に持ち越された。
「えー、次いつですか? ぽっちゃり姉さん」とゆず季ちゃん。
「ぽっちゃり言うなしっ!」とユキ。
「つか、あんた何しに来てんのよ」と孝子の厳しい一手。
ゆず季ちゃんは休業の日にうちのサークルに入り浸るようになった。
「男漁りに?」と言ってご隠居に流し目を送るゆず季ちゃん。
「いや、俺には心に決めた孝子さんって人が……」と言いながら途中で孝子に肘鉄を喰らうご隠居。
「平和か」と私。
「ブブブ」スマホが振動し、無言でメールチェックする孝子。
「お、内定でた」
「え、そんなテンションでいいの?」とユキ。
「うんー、一番本命だからね」
「なおさらっ!」
「どこに決まったの?」と私。これは職種も含めての質問。営業か接客か、はたまた全然違うって可能性も孝子ならありうる。
「
一度は最終面接で落とされたのだが、内定辞退者があり欠員が出ての追加採用とのことだった。
「デパガかー。孝子ちゃん制服似合いそう」とユキ。
「まぁね。ほら私って……」と言う孝子に「美人ですしね」とご隠居が被せる。
「
「……平和か」と私。
「なんかアレ。ハゲ仙人とか出てきそう」
「何ソレ? キョウちゃん」
「最終回みたい」とユキに答える。
「もうちっとだけ続くんじゃってやつ? いや、ソレ終わらないフラグだから」とユキ。
「お疲れー」「お疲れ様ですー」と宗則と千宏ちゃんが登場。
「じゃ、私空けるよ」と席を立つ孝子。私とゆず季ちゃんも一緒に立ち上がる。
「あ、ちょっと待って!」とユキ。
「とりあえず、まだ混んでないし、ゆず季ちゃん紹介したいし」
ユキも部長らしくなった。
孝子の幼馴染み、CBR600RR、孝子と次のツーリングで峠勝負したい等々がユキから日本横断ツーリングのダイジェストも兼ねて宗則に説明された。
「あー、千宏からざっくりとは聞いてるよー。初めまして、ゆず季ちゃん」と宗則。傍らには宗則の腕に絡みついたままホンダ乗りの女子に〝コレは私のもの〟オーラを出している千宏ちゃん。
「さっき駐輪場でCBR見たけど、大事に乗ってるよね。いつもの〝抜かずについて行けたら〟ってやつなら孝子と勝負もいいんじゃない?」と宗則。
「あの有名な漫画の〝うさぎとかめ〟ね」と私。ユキもバリバリと頷いている。
「次のツーリングとなると私たち卒業後だよね?」とユキに聞く。
「別に日程が合えば参加で良くね?」と宗則が返す。
「いいの? そんなんで⁇ なんかアタシたちのツーリングに参加するOBっていなかったから想像してなかったな」
「俺らのいっこ上っていなかったべ。二つ上の先輩は一人が転勤族だし」
そっか。卒業しても終わりじゃない。
そりゃそうよね。そもそもゆず季ちゃんなんか完全部外者だし。
自分の中で徐々に気持ちが晴れて行くのがわかる。
「うわ、すごい人数」「お疲れ様です」と洋子と辛島が登場。
「めずらしい組み合わせだね」と私。さすがにと席を立つ孝子とゆず季ちゃん。
「待って、紹介だけでも……」とユキ。
「辛島にデザイン頼まれてさ」と私の質問に答える洋子。辛島のM.C.看板の打ち合わせをしていたらしい。
「ゆず季ちゃんでしょ? 初めまして。辛島からさっき聞いたよ、次は一緒にツーリング行きたいね」と洋子がゆず季ちゃんに挨拶する。これはアレだな社交辞令ってやつだ。私にはわかる。……とはいえ、洋子も雰囲気が変わってきたと思う。もちろんいい意味でね。
学食が混む前に私も席を立ち、孝子たちの後を追う。
「ねぇ、孝子ちゃんとキョウちゃんの内定祝いやろうよ!」と後ろからユキの声。
「私は、なんか補欠合格っぽくて
「ごめん、ちょっとアタシもパス」
私の行く道は近道? それとも回り道? ゆっくり歩む私は昼寝しちゃダメ?
もう少し夢を見ていたい、探していたい。
答えはまだ出ていないけど決意はできたんだ。
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