日本横断ツーリング4

 本線に合流した瞬間、ほぼ同時にタンクにキスするように前傾姿勢をとりアクセルを全開にする孝子とゆず季ちゃん。


 ホンダ車特有の「ヒィーン」というモーターのような音と共にボリュームを上げていく「ファアアーッ」という排気音。孝子も「ズドッ」と最初に重低音を響かせた後「ダダダダッ、バァー」と打音を高速で繋ぐ連続音を出しながらフロントを浮かし気味に加速していく。


「ちょ、待っ」とヘルメットの中で私。

 こちらもワンテンポ遅れてアクセルを全開にするが、ふけ上がりが圧倒的に遅い。それにしても、……あいつらいきなりかよっ!


 何とか二台をギリギリ視界に捉えたままこちらも回転を上げてギアを掻き上げていく。

 エンジンの回転数が追いついてから、少しずつ差は詰まっていくが、二人からはアクセルを緩める気配が一向に感じられない。

「いったい何キロまで出す気よ」


 そして遥か前方を見て私はメットの中で叫ぶ。

「ユキのアホー! 道ガラガラだよーっ!」


 スピードメーターの針は既に180の数字を上回り先行の二人にだいぶ距離が近づいているが二台は加速を止めない。

 車体の重さや排気量の関係もありじわじわと追い上げ、完全に捉えた。直線でさらに上乗せしメーターは一瞬だけ260キロを指す。二人の前に出た。スクリーンに伏せていないとヘルメットごと頭を風で押され首が痛い。そしてカウリングの中に伏せて始めてニンジャの唸りが聞こえてきた。ヘルメットの風切り音でエンジン音も全く聞こえていなかった。


 しかし前に出たと思ったらすぐにコーナーが近づく。


 そんなに速度を出していない時なら普通の緩いカーブなんだろうけど、この速度域では急カーブに感じてしまうコーナーが迫り、自分たちで組み付けたリアホイール周りに対しての何とも言えない不安が頭をよぎる。びびりながらも慎重に強めのブレーキをかけアクセルを緩める。一気に170キロ近くまで減速しフロントの挙動が怪しくなる。ハンドルを腕で無理に押さえようとせず車体をニーグリップで締め上げて対処。


 瞬間、右からは黄色の、左からは白い線が20〜30キロ差で視界の隅を横切った。

 コーナー手前で二台とも減速しながら上半身はコーナリングモーションに入っている。そこからほぼ同時にブレーキをリリースしてマシンをバンクさせていく。外側の孝子がコーナーリング中に少し先の同じ車線上にいる車に気付き、避けるようにウインカーを出して更にバンクさせ一瞬内側の車線に入る。回避後、またウインカーを出して追越車線に戻っていく。


 こちらも負けじと立ち上がり直線で再度アクセルを捻るがコーナーで開いた差が縮まる様子はない。

 少しカーブが続き、絡む一般車を避ける想定のライン取りで二車線を使ってキチンとウインカーを出しながら一つ二つとコーナーを駆け抜けていく二人。あっという間に目視出来ないくらいの差が開いた。


「ウインカー出してって、そういう意味じゃないでしょ……」

 やはり誰も聞いていないヘルメットの中でボヤいて、既に気持ちが萎えてしまった私は180くらいまで速度を落として巡航することにした。


 松代PAを出発してから30分ぐらい。

 上越高田までの距離を知らせる標識が出始めて、スピードを落としていく。もう孝子たちはコンビニに着いている頃だろうか。


 丁寧に左側と後続車を確認して高速から降りる。

 手の平が振動で痺れている。少しずつ些細なことに意識が向けられていく。

 ユキが話していた通り、二つ目の交差点でコンビニを見つけた。

 駐車場に、缶コーヒーを飲みながら一服している孝子の姿が見えた。


米:『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

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