日本横断ツーリング3

 ユキのペースがいつもより速い。

 一応みんなついて来ているが、洋子やトモくんが参加していたらついて来れなかっただろう。それとも普段から全体を見てペースを作っていたのか。


 談合坂SAで一回目の給油と小休止。いつもより速いペースの巡航でヒロシのTDRから尋常じゃないくらいの白煙が出ていた。さては最近街中しか走ってなかったな。


 意外だったのは千宏ちゃんが普通について来ていたこと。アメリカンで120キロ前後で巡航してきた割に疲れている様子もない。アメリカンのゆったりしたスタイルと相性が良いようだ。


 そしてなんだかんだと言いながら、孝子とゆず季ちゃんを見ていると本当に仲の良い姉妹のように楽しそうに話している。孝子のあんな笑顔は今まで見たことがない。

 そこまで考えていたとは思えないが、今回のユキの提案は正解だったと思う。


 そして談合坂を出て諏訪湖までは約1時間半走りっぱなしで時間的にはそれほどでもないはずだけど長く感じた。


 諏訪湖SAに到着、8時10分。

「ユキ、今回ペース速くない?」

「笹子トンネルを渋滞が始まる前に抜けたかったんだよー」

 なるほど、まだ序盤だし少し無理をしてもここで朝食予定なので体力も回復する計算か。

 一番の初心者千宏ちゃんも大丈夫そうだし、まだ肉体的に完調とは言い難いご隠居にも特に疲労の色は見えない。

 今の時間で開いている売店でそれぞれパンやおむすびなど適当に買い、フードコート席で諏訪湖を眺めながら朝食を摂った。


「そういえばさ、なんで新潟のラーメン?」とカレーパンを食べながらユキに聞く。事前の説明で昼食はラーメン屋と言っていた。あまりご当地ラーメンとしては聞き覚えがない。

「ん。北海道でさ、知り合ったおじさんに教えてもらったんだよ。バイク乗りの聖地巡礼的なラーメン屋があるって。その人も東京から日帰りで行くって言ってて。私たちもやってみたいなって」


 ツーリングの目的って色々あって面白いと思う。

 ユキが部長になってからは食べ物目的がメインだけど。

 宗則はワインディングを必ずコースに入れてたな。結果静岡方面が多かった。

 私たちが卒業して、ユキが四年生になったら誰が部長になるんだろう。そしてどんなツーリングになるのか、それはそれで考えてみると面白い。


 トイレや給油を終えて再出発する。

 ここから松代PAまでは途中でジャンクションが二つあり、ユキが全体を把握出来るようなペースで走った。


 小一時間走り、松代PAに10時過ぎに到着。

 ここで、給油を済ませた後にユキから全員に説明があった。

「ここからは上信越一本なので迷うことはないと思います。上越高田インターの出口で降りて最初の交差点をまっすぐに行くと次の交差点でコンビニが見えるので、そこに集合。そこまではフリー走行とします。但し、車線変更時のウィンカー出しや追越車線をずっと走らないなど、しっかりと徹底してください。もちろん路肩走行や車間のすり抜けなどもNGでーす」と。

 ユキが言っていた〝安全に〟ってのはこのことだろう。この縛りなら交通の流れの読み合いの上手い方に分がある。

 孝子とゆず季ちゃんに近づき「出口ゲートまでね」と耳打ちするユキ。

 その後私の所に来て「キョウちゃん、無理しない範囲でいいから二人が無茶しないか見てて」と言う。

「まぁ、直線だけなら排気量的にも大丈夫だと思うけどさ。それにしても孝子だからなぁ」と私。

「大丈夫だよ、この時間なら車がそこそこいるだろうし、さっきのルールならそんなにスピード出せないよ」とユキ。


 最後にユキから全員に一言。

「あと、休憩とかは自由にとってね。飛ばす人はその分待つことになるけど、それは飛ばす人が悪いんだから文句言わずにゆっくり待つことー」と。


 各自、ヘルメットとグローブをしてバイクに跨り始める。


 ドカティ748Rのエンジンをかけた孝子がゆず季ちゃんの方を見ながら、ゆず季ちゃんがエンジンをかけるのを待っている。

 その視線に応える様にゆず季ちゃんが孝子を見ながらセルスターターのボタンを押してエンジンをかける、クラッチを握りギアを入れ、ゆっくりと滑り出す。それを見て孝子もシールドを降ろし、クラッチを握ってギアを入れる。

 孝子が動くのに合わせて、私も後ろからゆっくりと走り出し、本線に合流していった。

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