日本横断ツーリング
いつも行くライダーズカフェで綺麗に塗装の決まっている新生ニンジャを眺めながら優雅にコーヒータイム。あとは前後のホイールの形が同じなら申し分ない。
ニンジャの隣には孝子の748R。洗車やメンテは行き届いているが、フロントカウルやアンダーカウルは跳ね石の所為で少し傷が目立つ。孝子は走りの勲章だといって気にしていないけど。
ユキの短刀、SV650カタナ仕様は北海道ソロツーリングから帰ってきてまだ洗車していないらしく随分と汚れている。孝子流に言うなら旅の勲章といったところか。
そしてゆず季ちゃんのCBR600RR。こちらも孝子同様に走りの勲章が目立つ。白と赤色のベース車体に大きく彩られた青いウインググラフィックは、まるでこれが世界を制したホンダの翼だと主張しているようだ。
バイク女子四人で優雅にティータイム。そう、四人で。
――少しだけ時間を戻して学食でのお昼休憩後。
ユキがこの後の講義が無いと言うので、孝子の機嫌直しも兼ねて3人でライダーズカフェに行くことになった。
厚木に一軒気になっているお店があり、新規開拓か割と良く行く鎌倉かの二択で迷ったが、ユキに美味しいスイーツを食べさせてあげたいとの想いから鎌倉に決めた。
一度良い店を見つけてしまうと新たにお店を探さなくなりがち。
大学の駐輪場に着くと孝子の748Rの隣に見慣れないフルカウルのホンダ車が停められていた。
それを見た孝子が歩みを止めて両肩をガックリと落とす。と、同時に私たちの話し声に気づいて、反対側にしゃがんでバイクにもたれかかっていたオーナーらしき人影が立ち上がりバイクに手をついてこちらを向く。
「孝姉、遅いよー」と孝子を指差すホンダオーナー。
「誰?」と孝子に聞く。
「CBR600RR、革ツナギに羽根のリュック」と孝子が呪文のように吐き出した言葉が全てその女性オーナーに当てはまる。
「ゆず季、アンタ仕事は? 今日平日でしょ?」と孝子。
「辞めてきた」
「はぁ?」
「ごめん、うそうそ。仕事減って来てるから新人は休業申請して出来るだけ休めってうるさいのよ」
ユズキと呼ばれたその女の子の、孝子に全く引けを取らないサバサバ感にまるで孝子が1.5人に増えたようで私とユキは呆気に取られていた。
「ねぇ今から走りに行こうよ! 孝姉!」
「ジェッペルじゃ無理でしょ」と手に提げていたヘルメットを見える位置に掲げる孝子。
「えーっ、なんでジェッペルーっ?」――
……で、結局女子4人でライダーズカフェなう。
カフェに着いてからもゆず季ちゃんは始終、孝子に峠で勝負しようと持ちかけて、それを断る孝子との会話はずっと平行線。
スイーツをいつも洋子や私が頼む時の2倍は頼み、それを食べながら上機嫌のユキ。
バイクを眺めて現実逃避の私。
端で聞いている私ですら疲れるゆず季ちゃんの勝負熱はいったいどこから来るのか。
「ゆず季ちゃんはなんで孝子と勝負したいの?」
「あー、私にゆず季のチームに入って欲しいからだよ」と孝子が答える。
「んー、私的にはチームの方はもうどうでもいいんだよねー」とゆず季ちゃん。
「へぁ?」
「ちょっと孝子、どっから声出してんのよ」
「Petit Wingももう私一人だし、孝姉もアレでしょ? 今のチームっておじさんのチームの真似してるやつだから思い入れあるんでしょ?」
「ちょっと、なんでそれ……」とめずらしく動揺している孝子。
「だからー、なんか目的が無くなっちゃって、孝姉と勝負したいっていう理由だけ残っちゃって」
「いや、ソレじゃなくて」
「あー、チームの? 看板っていうんだっけ? 昨日孝姉のトレーナーの
「ヨシッ! 一緒にツーリング行こうよ、ゆず季ちゃん」とスイーツを平らげたユキがゆず季ちゃんを安全確認のポーズで指差す。
「ツーリングで安全な範囲で勝負なら孝子ちゃんも納得じゃない?」とユキが孝子に聞く。
「ユキ、話の腰を鯖折り……。まぁ安全なら。てか私まだ就職活動中なんだけど?」と孝子にしてはまともな返し。
「大丈夫だヨー。次は日帰りツーリング考えてるから。それなら社会人のゆず季ちゃんも大丈夫よね?」
「なんか納得できないなー。そぅだっ! 三本勝負にしようよ! ぽっちゃりお姉さんが勝負二本考えてさ。二本孝姉が先取したらお終い、一本づつ引き分けなら、日を改めて峠勝負!」とゆず季ちゃん。
「ぽっ……て」とユキ。「ぶはっ!」これにはたまらず私も孝子も吹き出した。
「で、ぽっ……ユキ。ぷぷっ、日帰りツーリングはどこ行くの? 近場?」笑いすぎて出た涙を擦りながら聞く。
「七里ヶ浜から新潟直江津港まで、日本横断ツーリングっ!」
ふくれっ面で答えるユキだった。
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