第46話 Petit Wing 2
私はひとつ違いの幼馴染のことを思い出していた。
――その子とは父同士が友人で、小さい頃からよく一緒に遊んだ。
年が近かったこともあり家族ぐるみの付き合いだった。
週末は父の友人のガレージハウスでバーベキューをしながら、大人達と一緒に80年代の走り屋全盛期時代のビデオを観て、雑誌を眺めて育った。普通の女児がお人形さん遊びをしたり絵本を読んだりしている頃だ。
幼少期に私たちはバイクってこういう乗り物なんだって刷り込まれて、ガリガリと音を立ててコーナーを駆け抜けるバイク達に憧れた。
私が高校一年生の夏、原付で走り始めた頃。
一足早くバイクデビューをする私に会いに、幼馴染のその子はチャリンコで峠まで来てくれた。
峠と言ってもほんの二〜三個の曲がった道があるだけの小さな山越えの道。土日にもギャラリーを含めてせいぜい5人も集まるかどうか。
原動機付なら大した距離では無かったが、中学生のその子は世田谷から結構な時間をかけてやってきていた。
私と違って本当に明るい性格で、同じようにチャリンコで通っていた同年代の地元の女の子と仲良くなり、女子限定のチャリンコ走り屋チーム〝Petit Wing〟を作った。中学生でバイクも免許もお金も無い彼女たちはチームトレーナーもチームステッカーも作れなかったので、みんなで羽根付きのカチューシャや羽根付きのリュック、羽根のアップリケの付いたズボンなんかを履いたりと、体のどこかに小さな羽根を付けてチャリンコで攻めていた。
その子はよく、バイクに乗っている私にリーダーになって欲しいと言ってきたが、私は父が昔入っていたチームをこっそりと復活させたい気持ちがあったので
「バイクに乗ったら考えるよ」とか、いざその子が免許を取ってバイクに乗り始めても
「私より速く走れるようになったら考えるよ」などとお茶を濁していた。
勿論、原付から
最初の方はずっと私の圧勝だったが、次第に競り始めるようになり、最後の方はお互いにスピードレンジが上がっていき、危ない場面も増えてきて、それでも懲りずに挑んでくる彼女にいい加減私も嫌気がさしていた。
そのうちに、お互いに進学などでいつのまにか疎遠になり会わなくなっていった。
最近父から、彼女も高校を卒業して専門学校も卒業し、既に就職していると聞いた。当時三人程いた彼女たちのチームはとうの昔に解散したものだとばかり思っていたが――
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