ブーメラン
洋子のカフェ用のロケットカウルは在庫があったので注文から一週間もせずに届いた。
塗料等は学校帰りにホームセンターに行って買ってきた。私のニンジャのサイドカバーとテールカウルもついでに塗ろうと思い、私もウレタンブラックとウレタンクリアーの缶スプレーを購入した。
今回、辛島もヨンフォアのタンクを赤から黒に塗装予定で、全員がブラック塗装。お互いに余ったり足らなかったりってのを補える。ウレタンスプレーは2つの液体を混ぜ合わせて使用する。24時間以内には使い切りたいので、都合が良い。
まずは塗装前に洋子のカウルを仮設置してみる。塗装が仕上がった後に不具合がわかっても後の祭りだからだ。
洋子のカウル仮組みは宗則が洋子に教えながら洋子が作業をする。千宏ちゃんが洋子のサポート。
その間、辛島のタンクの塗装剥離やパテ盛り作業なんかを私が教える。
この一年、私たちは卒業を意識して機会がある毎にメンテナンスや修理のいろはを後輩に教えるようにしてきた。
あと、今回の塗装作業で私のニンジャや洋子のカフェはそのまま走れるのだけど、辛島のヨンフォアは一時的に乗れなくなる。ニンジャはサイドカバーやテールカウルが無くっても見た目以外問題無いけど、さすがにヨンフォアはタンク無いとね。
洋子もタンク塗装時には私がタンデム予定。それに洋子はそもそも大学に行かなくても大丈夫だしね。
今回の作業に入る前に、宗則はCBの前に乗っていたNSRをサークルの共用車両として提供する事にした。
ユキと相談し、使っていない部費を自賠責保険用に使うことにしたらしい。ただ、ユキは臨時収入があったとかで急に北海道へソロツーリングに出掛けているので、直接会って話した訳ではないらしいのだが。
共用と言っても、宗則が受け継いだCBのような草レーサーとしてではなく、辛島や以前の私のように、代車が必要な局面で貸し出すのが目的だ。ハンドルも万人向けにセパハンからアップハンドルに戻した。
そもそもセパハンのNSRをアップハンドルにするのだから、戻すと言う表現はおかしいが、宗則が入手した際のジムカーナ仕様に戻すのだ。
そうして、合間に私だけ面接で抜けることも何回かあったけど、我が家での塗装作業は順調に進んだ。
前にお風呂場を潰した時のように、偶にみんなでスーパー銭湯に行ったりもした。
それ以外の時は洋子のアパートのユニットバスを借りた。
毎日が充実して楽しかった。
だけどさ。私のニンジャをみんなでレストアしていた時や、私が峠で転倒して修理をしていた時、ずっと頭の片隅にこびりついていた事が現実になる。
約四年間続いた、美しくって短い夢が終わる。
作業を始めてから二週間後。ニンジャのサイドカバーとテールカウルの塗装、洋子のカフェのロケットカウルとタンクの塗装と組み付け、辛島のヨンフォアのタンクのパテ盛りと塗装。
全てがほぼ同じタイミングで終わった。
そして、私の希望している事務職での内定も同じタイミングで出た。
これから入社の意思を伝え、様々な手続きを進めていく。
現実が近づいてくる。私はまたこの美しい夢の時間に戻って来れるのかな?
洋子と約束した10年後のライダーズカフェ。
この夢は夢で終わらせたくない。
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