お金の使い道2

 洋子のメールにすぐに返信し、『二人で軽くお祝いしようよ』と送った。


『初めて一緒に行ったライダーズカフェでスイーツ食べたい!』とすぐに返事がきて翌日に学食で待ち合わせをすることになったけど、約束の時間は特に決めなかった。


 全く会っていなかった訳ではないが、久しぶりに逢うような感覚がしたんだと思う。お互いに私たちの距離が少しの間にどのくらいになっているのかを確認したかったんだろう。


 何となく昼頃に大学の駐輪場に着くと洋子のカフェが既に停まっていた。

 隣にスペースがあったのでニンジャを停め、洋子のバイクのマフラーとクランクケースを軽く触る。マフラーは冷めていたがエンジンはまだほの暖かい。エンジンを止めてから30分くらいか。

 走るほどではないが気持ち早歩きで学食に向かった。


 学食では宗則と洋子が隣り合って座り、バイク雑誌やスマホを見ながら盛り上がっている。


「お待たせー」と軽く手を上げながら声を掛ける。

「お疲れー。私もちょっと前にきたとこだよ」と洋子。

 それにしては盛り上がっている様子だったけど。


 洋子は以前と違い、サークルの中で男子が苦手といった様子は無い。それよりも驚くべきは宗則だ。以前は私や孝子以外の女子とはどこかぎこちなかったが、千宏ちゃんと付き合い始めてから、洋子とも普通に話せている。


「盛り上がってるね、何見てるの?」と宗則に振ってみる。

「んー、洋子ちゃんが25TRのカフェレーサー化を更に進行するって話でさ。大盛り上がりよ」と宗則。

 なるほど、宗則の食い付きがいい筈だ。


「アルミタンクとフロントカウルをいつか付けたいって思ってたんだけど、結構するんだね」と洋子。

「んで値段見たり中古探したりとかしてるんだけど、やるならどっちか一つだろうね。予算的に」と宗則。

「予算あるの?」

「あっ、……っと。就職活動用に貯めておいたお金の残りを使おうかなって」と洋子。


「どっちかならカウルじゃない? カウルなら快適にこそなるけど悪くはならないでしょ。逆にタンクは何かありそう。容量減る場合もあるだろうし」

「俺も同意見だなー」と宗則。

 宗則がさっきまで洋子と一緒に見ていたスマホの画面を開いたまま学食のテーブルの上に置く。三人で覗き込む。


 カフェレーサー化を得意としているショップホームページで、車種専用ページを開く。

 パーツ単体で撮っている画像が並び、それぞれの詳細リンク先に飛ぶと装着画像が出てくる。


「この中だったらダントツこれだと思うんだよね」と言いながら、洋子がアルミタンクの画像を指差し、タンク容量などの詳細と装着画像のページが開く。

「うわっ、少なっ!」これはタンク容量に対する私のコメント。

「そもそもカフェまで行くだけだからなぁ」と宗則。

「今リッター15〜20だと思うから、これだと100キロ走れなくなっちゃうね。前ツーリングでトモくんが苦労した話聞いてるからなー。そして予算もギリギリ」と洋子。


「今回ロケットカウルだけにしたら少し余裕できるから、それでタンクとカウルを塗装しようかな」

「それならアタシ手伝えるよ」

「うん、実は期待してたり。けど就職活動の方は大丈夫?」

「そしたらさ、みんなでやろうよ。アタシいない時でもうち使ってていいからさ。宗則も手伝えるでしょ」

「私も宗則いてくれたら助かる! カウル付けるの手伝って欲しいし、って、あ、ごめんなさい……。キョウにつられちゃった」と洋子。

「構わないよー。ってか、同じ学年なんだしそっちの方が自然だべ」

「やっぱり意識すると難しいので少しの間、宗則さんと混在期間で。けど、千宏ちゃんは気にしない?」

「キョウも孝子もいるし、今更でしょ。俺が千宏ちゃんのことを一番大事に思ってるのはちゃんと伝わってると信じたいし」と宗則。

 そして漫画みたいな展開だけど、後ろから驚かせようとこっそり近づいていた千宏ちゃんが顔を真っ赤にして宗則の真後ろにいる。


「宗則。ちゃんと伝わってると思うよ」と私。

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